精神科Q&A

【0952】ここで文字にすることもできないようなことがきっかけなのですが、これはPTSDでしょうか


Q私は39歳女性・会社員兼主婦です。
パニック障害ですが、大分電車にも乗れるようになりましたし、ごくたまに発作が起きても、怖がることなくうまく付き合っていると思います。
処方はパキシル20mg・セパゾン2mg/day、頓服でワイパックス0.5mgが出ております。
パニック発作が出る前駆症状として過換気気味になり、必ず離人感がありますので、最近では予防的にワイパックスを服薬してうまくしのげております。
後は徐々に広場恐怖を克服できれば、と思います。

今回は、パニックとは直接関係がないかと存じますが、これがPTSDと先生が思われるかどうかと思いまして、御相談申し上げます。
貴サイトでも、PTSDの診断基準が難しいとのこと読ませていただきました。

何度も主治医に相談してみようかと思いましたが、その元の出来事を口に出すことすらできなくて、口火を切れません。
10年以上前のことですが、ここで文字にすることもできません。
子供の危険に関することで、その光景が最近また頻度に頭をよぎって、恐ろしくなります。
ひどいときは、心悸高進して苦しくなったり、小刻みに震え出したりします。

といって、夜飛び起きるとかいうこともなく、昔から心の病と闘ってきて長いので、自分の心のコントロールができやすいのか、何とかそのことを心から追い出したり、発作に繋がるかな?というときはワイパックスを飲んでしのげてはおります。
社会生活も普通に送ってはおります。

ですが、度々のことが辛く、記憶から消したくてたまりません。誰にも言えずに苦しんできました。ここまでメールを打っただけで、心悸高進して震えています。

これはPTSDなのでしょうか。またもしPTSDだったとして、私のようなケースでは
どんな治療が有効なのでしょうか。


: PTSDの可能性は充分あると思います。
PTSDの診断上重要な症状の一つに、
「外傷(トラウマ)と関連したこと(それを考えること、それについて話すことなど)を避けようと努力する」
というものがあります。

何度も主治医に相談してみようかと思いましたが、その元の出来事を口に出すことすらできなくて、口火を切れません。
10年以上前のことですが、ここで文字にすることもできません。


これはまさにその症状であると言えます。
実際、PTSDの方の診療では、症状発生を知るうえで最も重要なトラウマのことを患者さんが語ることができないことは多いものです。
(ですから逆にいえば、「私は・・・がトラウマになっている」とたいした抵抗もなく語る人は、PTSDということはまずありません: たとえば【0309】)

あなたのケースでも、トラウマ自体のことをメールにもお書きになれないので、私の回答としては「PTSDの可能性は充分ある」というものにとどまりますが、実際にはあなたのメールの中にPTSDにかなり特徴的な症状が読み取れます。

子供の危険に関することで、その光景が最近また頻度に頭をよぎって、恐ろしくなります。
ひどいときは、心悸高進して苦しくなったり、小刻みに震え出したりします。


ここまでメールを打っただけで、心悸高進して震えています。

これらは、トラウマの記憶に接したときの心理的反応、生理学的反応と判断できます。診断基準にある以下の記載にあたります。

「外傷的出来事の一つの側面を象徴し、または類似している内的または外的きっかけに曝露された場合に生じる、強い心理的苦痛」

「外傷的出来事の一つの側面を象徴し、または類似している内的または外的きっかけに曝露された場合の生理学的反応性」

それから、あなたのパニック障害とこのトラウマは、どちらが先だったのでしょうか。もとトラウマの後にパニック発作が起こるようになったのだとすれば、発作もPTSDの症状と言えるでしょう。

あなたの症状を総合的に見たとき、はたしてPTSDの診断基準を満たすかどうかはわかりません。けれども、PTSDと類似のメカニズムが脳内に生じていることは確かだと思います。ということは、診断基準を満たすにせよ満たさないにせよ、PTSDに準じた治療が望まれるということです。(【0953】のケースと同様です。)

またもしPTSDだったとして、私のようなケースではどんな治療が有効なのでしょうか。

そこでこのご質問への回答になるのですが、ひとことで言うと、治療法は確立していないというのが現実です。
 もちろん研究は多数なされています。
 有望とされているのは、認知行動療法やEMDRと呼ばれるもので、有効性を強く主張する医師もいますが、無効、もしくはかえって悪化させるという説もあり、まだまだ確立した方法とは言えません。
 もちろん新しい治療法には常にリスクが伴うものですから、試みるかどうかはあなたご自身が決めるべきでしょう。
 しかしその一方で、PTSDの症状の成り立ちそのものを理解されることで不安が緩和され、時間とともに症状が消えていくこともしばしばあることですので、このまま今の治療を続けていくことも勧められます。
 つまり、積極的に治療するか、いわば安静による自然治癒を目指すかということです。あなたのケースではどちらがいいとも言い難いと思います。



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