精神科Q&A

【0898】躁転(?)の既往があるうつ状態の治療方針


Q私は30歳男性です。病状が長引いて困っています。

 3年半前に転職した直後から、咽頭部の異物感、めまいで立っていられない、胃痛、下痢、下肢や顔がほてる、のどと口の中が渇く、食欲不振、動悸、微熱(37度台前半)が続く、等の不調が続き、3年前に電車の中で呼吸が出来なくなり激しいめまいと動悸で倒れてしまいました。近くの内科を受診したところ自律神経発作との診断でホリゾンが処方されました。

 症状の強弱もありましたが服用しても症状は頑固に続き、2年前には眠いのかだるいのか分かりませんが朝起きる事が出来なくなり、今度は精神科を受診しました。軽いうつ状態との診断で、パキシル30mg、マイスリー10mg(不眠時のみ頓服)の服用を開始しました。
また、当時の職場は衣食住が同じ環境下にあり、そのストレスが発病の原因であると考え転地療養(短期入院、その後会社を退職し実家にて静養)を行いました。
 
 その後3ヶ月ほどで好転。「アルバイト等の短時間の仕事から始めてはどうか」という医師の指導もありましたが、1年半前に正社員として再就職しました。薬(パキシル20mg)は飲み続けていましたが、働き過ぎてしまったのか、4ヵ月後から体がなんとも辛い状態になり、車の運転中急ブレーキの回数が増える、午前中に行った仕事(経理)の内容を夕方になって見返すと数字が滅茶苦茶ということが度重なるようになり、腹痛や食欲不振、下痢、頭痛といった症状が出始め、ついには車の衝突事故を起こしてしまいました。

 医師に相談したところ、不眠が強く眠れないことが重視され、半年前に入院になりました(会社は小さな会社だったのでマンパワー上、休職出来ず退職)。一ヵ月半の入院で不眠も収まり退院になり、次の処方で様子を見ることになりました。
  
  パキシル 40mg
  トレドミン 75mg
  ソラナックス 0.4mg×3t
  ガスモチン 5mg×3t
   
  ロヒプノール2mg
  マイスリー10mg
  デジレル50mg
 
  大黄甘草湯 2T×3

 イライラすることがあり、激昂感があることを伝えると、1ヵ月ほどでトレドミンが中止になりました(それでもイライラや激昂感は残りました)。結局、3ヶ月ほどで好転したのですが、前回の復職失敗もあり、しばらくは就労は控えて好きな事をして過ごす事にしました。
 
 しかし、まもなくベッドから起きられなくなり、何もやりたくないし、やることも出来ないという状態になりました。再び、うつ状態の再燃との診断で、上記の処方にトレドミン150mgが追加になり食事以外はずっと寝ている状態が続きました。
服薬は忘れずに続けていたにもかかわらず、うつ状態が再燃した事が何とも不思議だったので医師にも聞いてみたのですが、「いずれ薬が効いて良くなるから、のんびりしていなさい」との返事でした。

 そして、半年前に好転。旅行に行ったり、昨年の夏に始めた空手を再開したり、少しずつ動き始めることにしました。しかし、眠気が酷く、起きることが出来ない上、めまいや頭痛が止まらない、という症状が出るようになり医師にその旨を相談したのですが、なかなか対処してもらえませんでした。結局、うつの症状は不眠以外ほぼ消えていましたが3ヶ月前に転院しました。

  転院先の先生は、「うつ病にしては元気である。発症当時の話を聞いていると体の不調が主訴。もともと神経症圏か心身症圏内で、うつ状態であったのかもしれないが、うつ病そのものではなかったのではないか。身体症状がメインなので主作用、副作用の両面で漢方薬の方が妥当です。」との判断で、パキシル、トレドミンの減薬を開始。2週間後には、睡眠薬のロヒプノール以外のすべての薬が服用中止になりました。頭痛とめまいは漢方薬の処方になり、眠気については睡眠相後退症候群という診断でした。

  薬も減り喜んでいたのですが、1ヶ月ほどたつと、また気分が落ち始め、居ても立ってもいられないという強い焦燥感、いつになったら働く事が出来るようになるのかという不安、食欲不振、家に居ても気が滅入るので散歩くらいはしたいが体を動かす事が苦痛、そして早朝覚醒という不眠が始まりました。始めのうちは、薬を止めた事による離脱現象と思っていましたが、なかなか治まりません。
医師に伝えたところ、「主訴がうつ病的色合いに変化している。診断をうつ病に切り替え抗うつ剤を出します。うつ病は、単剤で治ります。」とのことでルボックス75mgを1ヶ月ほど続けました。その間、漢方薬をいろいろと試すことが続きましたが一向に良くなりませんでした。

  また、前回の通院の際に診断が変わり、「これまでの経過をみると、一昨年の復職時と昨夏の調子の良い状態は躁転していると思われます。何回かうつ病を繰り返している途中で躁が出るのはよくあること。診断を躁うつ病に切り替え、次回からは副作用の少ないデジレルかトフラニールを低量で使用しましょう。」といわれています。

診断が「神経症か心身症」から「うつ病」、そして「躁うつ病」に度々変わる事に不信を募らせましたが、言われてみれば確かに、少なくとも昨年の夏に限っては、私にとって不思議な時期でした。

 昨年の夏はうつ状態から好転していましたが、今から思えばテンションが高くパワフルでした。初めは散歩をしていたのですが、飽き足らなくなりスポーツクラブに通うようになり、旅行に行ったり、空手、民謡、乗馬を始めました。また、頭が冴えて好奇心がとても旺盛になり、理科辞典を購入し不明な点は天文台に直接出向き質問し、地図帳を購入した時は今度は自分で地図を書こうと考え、環境団体のNGOにmailで応募したりしていました。
 その一方で、度々家の鍵をかけ忘れたり、定期券入れを二度落としたり注意力が散漫でした。また、些細なことで激怒してしまうこともあり、不在の社長を電話で呼び自動車の修理工場で1時間ほど怒鳴ると言うこともしてしまいました。やりたいことが次から次へと湧き上がり、それをこなして行く事が日課で、毎日出歩きヘトヘトでした。休めば良かったのかもしれませんが、それでは気が済まないし、何よりも頭に次々と湧き上がってくる疑問や好奇心そのものは抑える事が出来ないのです。今から思い返してみると、医師の軽い躁転との判断は妥当なのかもしれません。

 しかし、一昨年の秋の状態を躁転と判断するのは行き過ぎな感じもあります。確かにうつ状態から開放され、復職しています。連日連夜のサービス残業、休日出勤など当たり前な会社で数ヶ月の内に大抵の人が辞めていく労働環境でした。
毎晩遅くまで働き、家でも業界の資料を収集、仕事に必要な資格に向けて勉強するという行動は、離職率が高い会社であるが故に、早く仕事に慣れ一人立ちしなければならないという事情と、もともと何にでも一生懸命でやるからには徹底的にしないと気が済まない、という私の性格が大きかったのだと思います。睡眠時間は減っていましたが、「躁転していた為に精力的に働いていた」とは言えない気がするのです。

 ちなみに、今年抗うつ剤が服用中止になる直前も好転しています。この時期は、昨年の夏のように動き回ることもなく、頭の空転やイライラ感、不安感も無くおおらかな精神状態でした。これまでの中で比較的まともな時期だったと思いますが、就労という現実的な事には目が行かず遊んでいるだけでした。

 今のところ不眠が強く、寝入るまで数時間掛かる上、朝起きることが出来ず寝ては覚め、また寝ては覚めの繰りです。午前中になんとか起きようとするのですが、起きるのがとても辛く夕方になってようやくベッドから出るという状態です。処方されているロヒプノールだけでは寝ることが困難で起きられない状態が続いています。不眠以外は、悲壮感、将来に対して希望が持てない、気力が出ない、すぐに疲れる、等の状態です。

 長くなりましたが先生に質問したいのは下記の通りです。

 1・病状が長引いている上に芳しくなく就職できない状態が続き困っています。一人目の精神科医は、「うつ病の再燃とパニック障害」という診断で、二人目の精神科医は「躁うつ病」という診断です。結局、どちらが正しいのでしょうか。それとも診断(告知された病名)が食い違っていても、治療方針はうつ状態の今は、あまり変わらないものなのでしょうか。

 2・薬物躁転による躁うつ病が疑われる場合、抗うつ剤の服用を止めても、再発を考慮して気分安定剤は飲みつづける方が安全でしょうか。

 3-1・二人目の医師の話では、抗うつ剤を服用すると「多幸感」という作用が出るそうで、この多幸感の作用により、うつ状態が消滅して行くそうです。この多幸感の作用が出過ぎて躁転してしまう事はあり得るのでしょうか。私としては抗うつ剤による薬物躁転の気がするのです。

 3-2.また、「抗うつ剤を飲んでも躁転する事はありません。何故なら、普通の人が抗うつ剤を飲んでも多幸感はでないから。」とも言っています。しかし、「・・・・昨夏の調子の良い状態は躁転していると思われます。・・・」という診断をこの医師から受けています。これはどのように捉えるべきでしょうか。前述した、3-1の説明(多幸感作用でうつが改善するという事)と矛盾する気がするのですが・・・。

 4・パキシルやトレドミンを服用するとうつ状態が改善し悲しみや孤独感が消え、前向きになることは確かなのですが、他方で物事に対する判断や考え方が現実的ではなくなってしまうのです。この感情は何とも言葉にするのが困難なのですが、自分が何か別の次元に行ってしまっている状態なのです。何ともフワフワとし心地は良いが何か通常の自分とは違う違和感を覚えます。今回、抗うつ剤の服用を中止した事でうつ状態が再燃した事は確かなのですが、皮肉にも抗うつ剤が切れてようやく浮世から現実に戻った感じです。この、隔世感も(例えば希死願望を消し去る為に必要な)抗うつ剤の一つの作用なのでしょうか。


 5・次回から抗うつ剤の服用を再開するといわれています(気分安定剤は処方になるか不明です)。医師は低量に留めると言っていますが、果たして低量で良くなるのでしょうか。再開するのなら十分量を処方して欲しいところですが、前述の3のような精神状態にまた陥るのではという懸念もあり不安なところです。低量、十分量のどちらにしても不安という誠に身勝手な質問なのですが・・・

 以上、宜しくお願いします。

                                      
  



 1・病状が長引いている上に芳しくなく就職できない状態が続き困っています。一人目の精神科医は、「うつ病の再燃とパニック障害」という診断で、二人目の精神科医は「躁うつ病」という診断です。結局、どちらが正しいのでしょうか。それとも診断(告知された病名)が食い違っていても、治療方針はうつ状態の今は、あまり変わらないものなのでしょうか。

あなたの診断名は、うつ病または躁うつ病だと思います。両者の違いは躁状態の有無ですので、あなたのケースでは昨年の夏の状態をどう考えるかが診断のポイントになります。すなわち、

今から思えばテンションが高くパワフルでした。初めは散歩をしていたのですが、飽き足らなくなりスポーツクラブに通うようになり、旅行に行ったり、空手、民謡、乗馬を始めました。また、頭が冴えて好奇心がとても旺盛になり、理科辞典を購入し不明な点は天文台に直接出向き質問し、地図帳を購入した時は今度は自分で地図を書こうと考え、環境団体のNGOにmailで応募したりしていました。
 その一方で、度々家の鍵をかけ忘れたり、定期券入れを二度落としたり注意力が散漫でした。また、些細なことで激怒してしまうこともあり、不在の社長を電話で呼び自動車の修理工場で1時間ほど怒鳴ると言うこともしてしまいました。やりたいことが次から次へと湧き上がり、それをこなして行く事が日課で、毎日出歩きヘトヘトでした。休めば良かったのかもしれませんが、それでは気が済まないし、何よりも頭に次々と湧き上がってくる疑問や好奇心そのものは抑える事が出来ないのです。


この状態ですが、確かにこれは躁状態または軽躁状態と判断できると思います。
 問題は、これが薬の副作用として出たものか、それとも躁うつ病の躁状態かということで、この判定の難しさは【0581】【0866】でご説明したとおりです。

あなたのケースがどちらと判定できるかは何とも言えません。今後慎重に経過を見る必要があるでしょう。もっとも現在は、

診断(告知された病名)が食い違っていても、治療方針はうつ状態の今は、あまり変わらないものなのでしょうか。

とあなたがおっしゃるとおり、治療方針はあまり変わらないので、厳密に診断名を追求するよりも、今のうつ状態の改善を目指すべきでしょう。


 2・薬物躁転による躁うつ病が疑われる場合、抗うつ剤の服用を止めても、再発を考慮して気分安定剤は飲みつづける方が安全でしょうか。

上記の「慎重に経過を見る必要がある」ということに関連したご質問ですが、躁うつ病の可能性が強いと考えれば、リチウムなどの継続服用の検討が必要です。
(なお、「薬物躁転による躁うつ病」という表現であなたが何を指しておられるのかが不明です。躁うつ病である、ということなのか、それとも薬によるものなので真の躁うつ病ではない、ということなのか、この表現ではわかりません)

 3-1・二人目の医師の話では、抗うつ剤を服用すると「多幸感」という作用が出るそうで、この多幸感の作用により、うつ状態が消滅して行くそうです。この多幸感の作用が出過ぎて躁転してしまう事はあり得るのでしょうか。私としては抗うつ剤による薬物躁転の気がするのです。

これに関しては【0581】【0866】をご参照ください。
なお、この医師の説明として書かれている、

抗うつ剤を服用すると「多幸感」という作用が出る

というのは基本的には誤りです。通常は抗うつ薬で多幸感は出ません。


 3-2.また、「抗うつ剤を飲んでも躁転する事はありません。何故なら、普通の人が抗うつ剤を飲んでも多幸感はでないから。」とも言っています。しかし、「・・・・昨夏の調子の良い状態は躁転していると思われます。・・・」という診断をこの医師から受けています。これはどのように捉えるべきでしょうか。前述した、2-1の説明(多幸感作用でうつが改善するという事)と矛盾する気がするのですが・・・。

この部分はよくわかりません。上述のように、そもそも3-1の医師の説明とされている内容が、あなたの聞き違いではないでしょうか。


 4・パキシルやトレドミンを服用するとうつ状態が改善し悲しみや孤独感が消え、前向きになることは確かなのですが、他方で物事に対する判断や考え方が現実的ではなくなってしまうのです。この感情は何とも言葉にするのが困難なのですが、自分が何か別の次元に行ってしまっている状態なのです。何ともフワフワとし心地は良いが何か通常の自分とは違う違和感を覚えます。今回、抗うつ剤の服用を中止した事でうつ状態が再燃した事は確かなのですが、皮肉にも抗うつ剤が切れてようやく浮世から現実に戻った感じです。この、隔世感も(例えば希死願望を消し去る為に必要な)抗うつ剤の一つの作用なのでしょうか。

SSRI, SNRIでは、時にあなたのような体験をされる方がいらっしゃるようです。ですからこれは「抗うつ剤の一つの作用」ではあります。しかし、好ましい作用とはいえず、副作用と考えるべきでしょう。
 私があなたの主治医であれば、パキシルやトレドミンは中止し、三環系の抗うつ薬で治療します。


 5・次回から抗うつ剤の服用を再開するといわれています(気分安定剤は処方になるか不明です)。医師は低量に留めると言っていますが、果たして低量で良くなるのでしょうか。再開するのなら十分量を処方して欲しいところですが、前述の3のような精神状態にまた陥るのではという懸念もあり不安なところです。低量、十分量のどちらにしても不安という誠に身勝手な質問なのですが・・・

上記4. の回答の通り、三環系抗うつ薬が最善だと思います。最初は低量から始めるとしても、効果が不十分なら増量します。そして躁転の兆しが見られればリチウムを追加します。最初からリチウムを併用するという方法もあるでしょう。




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