精神科Q&A

 【0855】パニック障害の遺伝が心配なので子どもを作るのはあきらめようと思っているのですが 


Q: 35歳の妻は、パニック障害に悩まされ10年ほどになります。
何年経っても発作が起きる為、2ヶ月程前に病院を変え、そこで初めてパキシル錠10mを処方して頂き、(1日2錠服用)今は以前に比べほとんど発作も起きなく、本人も確実に効果が出ていると実感しています。
他にコンスタンを1日3回と発作が起きた時などに頓服としてエチカーム錠1mgを処方して頂いております。

そこで妊娠出産についてなんですが、今までは主治医からも「薬を飲みながらでも出産はできますよ」と聞いていたのですが、それは奇形児が生まれるかどうかのことを言っていたようで、ある本には、(山田和男 著「パニック障害の治し方がわかる本」参照)
「遺伝的要因も指摘されています。各国の調査によると、パニック障害の患者の一親等(妻の子は一親等ということになります)ではパニック障害の発症率が一般に比べて八倍高くなっています。」
と書かれていました。妻との話し合いの結果、これが本当なら子供はすごくほしいけど子供にまで同じような苦しみを味あわせたくないという妻の意見を尊重し、子供は諦めようと思っています。林先生の意見をお聞かせください。よろしくお願いいたします。


: そんなことで子どもをあきらめることはありません。あなたがたご夫婦の今の結論に、私は反対です。

子どもをあきらめるとお決めになった理由は、パニック障害に遺伝的要因があることを本で読んだからですね。しかし、【0022】でもお書きしたように、いかなる病気にも遺伝的要因はありますので、本で調べるまでもなく、文字通りいかなる病気でも、一親等の方の発症率は一般に比べて高くなるのは全く当然のことです。パニック障害の場合それがどのくらいになるかということは、診断基準や調査法によってデータは変わって来ますので、八倍という数字が本当に妥当かどうかはわかりませんが、そう大きく外れた数字とは言えないでしょう。ですから仮に八倍が正しいとしましょう。だとしても、もともとパニック障害の一般人口中の発症率は1パーセントに達しませんから、あなたのお子さんの発症率も数パーセントにすぎません。

子供はすごくほしいけど子供にまで同じような苦しみを味あわせたくない

と奥様はおっしゃっておられるとのことですが、数パーセント程度の発症率を心配して、「すごくほしい」子どもをあきらめるというのはナンセンスだと思います。パニック障害以外にも病気はたくさんあるのですから、他のもっと重い病気になる可能性も、逆にならない可能性も、ほとんど無限にあるのです。つまり人間であれば、別に親がパニック障害であろうがなかろうが、何らかの病気になる(何らかの病気の遺伝的要因を持っている、と言い換えることもできます)可能性は十分あるわけです。奥様がパニック障害だからといって、妊娠出産をあきらめるのは、未知の病気の可能性を心配して妊娠出産をあきらめるのと全く同じことで、ナンセンスだと思います。


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