精神科Q&A

 【0832】うつの症状には痴呆と似たものがありますか


Q:54歳の父のことで相談です。
今思うと約2年くらい前から父の様子がおかしかったように思います。
3ヵ月前に脳神経外科で「髄膜腫」とよばれる良性の腫瘍がみつかりましたが、手術は成功し腫瘍は全て摘出ができました。
ですが、その後1ヶ月が経過しても父の症状が改善されないことから、ドクターより
「腫瘍はたまたまできたもので記憶障害とは関係がなかったようです。」と言われ、先月精神科を受診しました。そこでは、
「アルツハイマーではなく、うつ病の可能性が大いに考えられる」
と言われました。
その後の「かなひろいテスト」などの診断結果からは
「どちらとも今はわからない」
とのことで朝は「アリセプト」夜は「パキシル」を服用するよう言われました。
ドクターが言うにはうつの場合、計算などもできるし痴呆の症状は出ないとのこと。
父が肩が痛がっているとドクターに言ったところ「それは、ここで言われても」
と一笑に付されてしまいました。

父は肩が痛いと、よく言います。昔よりヤル気がなくなっています。漢字をほとんど書けなくなり、ひらがななどを音読するのがやっとです。2桁以上の足し算などができなくなってきています。セルフケアは十分できます。
「りんご」などの単語は口から出なくても、それがどんな果物かはわかっています。
「青森」とか「お正月に買った」とか説明しますので。最近は花壇に花を植え始めました。塞ぎこんで、何もしないということはありません。道で人にあっても自ら挨拶します。

上記のような父の症状でもうつ病と診断されることはあるのでしょうか? それとも父は認知症(痴呆)なのでしょうか?

今通っている精神科は、予約制で診察も1〜2ヶ月に1度のため不安です。次回の受診は2ヵ月後です。そんなものなのでしょうか?原因がわかないまま父と接するのも不安です。認知症なら「旅行に連れて行く」のはいいことのようですが、うつ病なら「むやみに連れ出さない方がいい」というふうに病気によって私たちの接し方が左右されるからです。


: まず、ご質問の中心である、

うつの症状には痴呆と似たものがありますか?

に対する答はイエスです。【0049】【0815】でご説明したように、特に高齢の方がうつ病になると、痴呆(認知症)に非常によく似た症状が出ることがあり、これは偽痴呆(ぎちほう)と呼ばれています。ですから、

ドクターが言うにはうつの場合、計算などもできるし痴呆の症状は出ないとのこと。

これは誤りです。計算などができなくなることもあります。(ただし、このドクターの説明をあなたが誤解された可能性もあると思いますが)
また、肩などの体の痛みがうつ病の症状として出ることもあります。

したがって、お父様の診断名はうつ病である可能性は十二分にあります。
ただ、このメールの記載の中にはその他に気になる症状があります。それは、

「りんご」などの単語は口から出なくても、それがどんな果物かはわかっています。
「青森」とか「このまえ八百屋で買った」とか説明しますので。


この症状は、健忘失語と呼ばれる、失語症の一型と解釈できます。もっとも、これだけでは(つまり、りんごの例だけでは)診断まではできません。失語症についての詳しい検査が必要です。
 そして、失語症だとすれば、それは脳の一部の損傷が疑われます。髄膜種を摘出したとのことですが、脳のどの部位の腫瘍だったのでしょうか。手術前と手術後のMRI画像を見せていただきたいところです。部位によっては、いまのお父様の症状は、脳の一部の損傷によるものとして説明できるかもしれません。
その観点からすると、

漢字をほとんど書けなくなり、ひらがななどを音読するのがやっとです。2桁以上の足し算などができなくなってきています。

これらも脳の一部の損傷の症状としても矛盾はありません。
さらに、それが正しいとすれば、

セルフケアは十分できます。最近は花壇に花を植え始めました。塞ぎこんで、何もしないということはありません。道で人にあっても自ら挨拶します。

これらの記載も理解できます。もちろんうつ病でもこのようなことはありえますが、落ち込みが全くなく、言語や計算などだけに症状が見られるとすれば、うつ病よりは脳の損傷の方が考えられます。

そうは言っても、私はお父様のMRIを見ていないのですから、

ドクターより
「腫瘍はたまたまできたもので記憶障害とは関係がなかったようです。」と言われ


このドクターの言葉のほうが正しいという可能性も充分あります。

原因がわかないまま父と接するのも不安です。認知症なら「旅行に連れて行く」のはいいことのようですが、うつ病なら「むやみに連れ出さない方がいい」というふうに病気によって私たちの接し方が左右されるからです。

あなたのこの記載はもっともです。しかし、メールの情報だけからは上記以上の回答は不可能です。もう一度診断を確認されることをお勧めします。


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