精神科Q&A

【0821】限度を超えたわがままな振る舞いの社員は境界型人格障害か


Q私は33歳の女性で、フリーのイラストレーターを生業としております。主に小さなデザイン事務所から仕事を受け、契約社員のような 形で出入りしております。特に、その事務所のディレクターB子さん(32歳の女性)とは学生時代からの友人で、公私に渡りお世話になってきました。 
B子さんは、1年程前に入社した男性社員とのトラブルで精神的に大変な打撃を受けており、一度は完治した鬱病が再発するのではないかと、少々心配な状況 です。また、この事務所では、男性社員の身勝手な行動の為に様々なトラブルが発生しております。この男性所員に何らかの精神疾患の可能性も考えられると 思い、専門家の先生の御意見を窺いたくお手紙させて頂きました。 
予め申し上げますが、文章が非常に長くなってしまいました。判断の材料になりそうな事は極力省略せず、私が知っている事を出来るだけ細かく書いてみまし た。 
お忙しい事とは存じますが、どうか宜しくお願いいたします。 

この男性は現在28歳、仮にA氏としておきます。美術大学の大学院を卒業後、一度小さなデザイン事務所に入社しましたが、一年程前にそこを辞めてこの事 務所に入社したとの事です。A氏は入社後しばらくすると、先輩であるB子さんに懐き、仕事上の様々な相談をしてくるようになったそうです。 
B子さんがA氏から聞いた話によると、彼が以前いた事務所では一部の同僚ばかりが贔屓され、彼の方は努力に見合った評価をまるで得られなかった、という事でした。彼女はそれを聞いてA氏にいたく同情し、また元々面倒見の良かった事もあり、非常に親身になって彼の面倒を見始めました。よくA氏に残業の手伝いを頼まれたからといって、遅くまで事務所に残っていたり、時には彼のミスの尻拭いのような事までしていました。この頃のA氏はB子さんを格別に信頼 していた様子で、普段は冷静で無駄話などはしない人でしたが、B子さんに対してだけは、別人のように明るく振る舞っていました。 

こちらのHPを拝見して思ったのですが、B子さんは『メランコリー親和型』なのではないかと思います。 
非常に責任感が強く仕事熱心で、面倒見がよく、A氏以外の人からもよく頼まれ事や相談をされており、いずれも快く引き受けていました。頼まれると断る事が出来ない性格に見えます。その癖、自分がピンチになっても、周囲には殆ど助けを求めないのです。 
驚いた事にそのB子さんが(1〜2度ですが)A氏に弱音を吐いた事がありました。それを聞いたA氏が自らB子さんの手助けに奔走する事もあり、なかなか 微笑ましい助け合いの光景が見られました。 

しかし、暫くするとA氏の言動に周囲が困惑するようになってきたのです。 
1)雑用を極端に嫌う。 
 小さな事務所なので皆が少しずつ雑用をこなすのが暗黙のルールだったのですが、A氏はそれをやろうとせず、言葉巧みに逃げる事が多々ありました。 

2)大した理由も無く特定の人を毛嫌いし、陰口を言う。 
A氏はディレクターのC氏を必要以上に避け、仕事の事で話しかけられても、返事もろくにしない事が多々ありました。B子さんがC氏を嫌う理由を聞いてみ ると、「C氏が自慢話をしているのを聞くとみじめな気分になる」と、答えたそうです。確かにC氏は優秀な人で、自慢話と取れるような事を言う事もありま すが、(少なくとも私やB子さんの感覚からいうと)他人の劣等感を刺激するような言い方ではありません。雑用や裏方仕事を積極的にやるなど、むしろ謙虚なイメージの人なのです。 
しかしA氏は、重箱の隅をつつくようにC氏の欠点を論い、彼が稀にミスを犯したりすると、鬼の首でも獲ったかのように勝ち誇った調子で「やっぱりC氏は駄目な奴だ」とB子さんに言うのだそうです。 

3)その時々で言うことがコロコロ変り、その為に周囲が振り回される。 
 昨日は『黒』と言った事を、今日は『白』と言う、そういった感じです。「昨日は『黒』と言ってませんでした?」と聞いてみても、決まって「そんな覚えは無い」の一点張りです。あくまで私が感じた事ですが、「嘘を吐いている」というより「その時の気分で、適当に受け答えをしている」印象です。 

4)自分の非を絶対に認めない。屁理屈で正当化を試みる。 
 例えば、あるパソコンのソフトの機能について、A氏が間違った知識を主張した事がありました。私が「マニュアルには違う事が書いてあった」と訴えても 頭ごなしに否定され、後日B子さんがマニュアルを出してきて彼の間違いを指摘したところ、やっと認めるに至りました。 
仕事が上手くいかないと、パソコンのソフトの性能のせいにしたり、「○○(一緒に仕事をしている人)が無能だから仕事が上手く行かない」などと、B子さ んに愚痴る事も多々あったそうです。 
 また、A氏はB子さんにだけは、愚痴と共に激しく他人の陰口を言っていたそうです。自分の事は棚に上げながらB子さんに同意を求めてきたそうですが、 真面目なB子さんは適当に相づちを打つ事が出来ず、度々「あなたも似たような事してたでしょう?」といってたしなめたそうです。するとA氏は、屁理屈を言っ て自分を正当化してきたのだそうです。 

ちなみにB子さんは、A氏から交際を仄めかされた事もあったそうなのですが、上述の事で疲れてしまい、到底そんな気になれなかったそうです。その気が無 い事をやんわりと伝えたそうですが、A氏は特にがっかりした様子でも無かったそうです。 

そしてある時を境に、A氏のB子さんに対する態度が急変しました。B子さんを露骨に無視するようになったのです。周囲から見ても変貌ぶりが明らかでしたので、B子さんに何かあったのかと訊ねたところ、以下のような事件が発覚しました。 

なんでもB子さんが、A氏と話している時に、軽い気持ちでC氏の事を引き合いに出したのだそうです。するとA氏は急に怒り出し、「自分(A氏)よりもC 氏の方が優れているような言い方をした、許せない」といって、彼女を責めたそうです。B子さんの方はそんな言い方をした覚えは無かったものの、不本意と はいえ結果的にA氏を傷つけた事を悔やみ、彼にその旨を伝えて謝罪したところ、彼も一旦は態度を和らげたそうです。しかし次の日、用件があってA氏に話しかけたところ、再び怒り出して、「(B子さんが)何事も無かったかのように話しかけてきたのが気に入らない、反省の色が見られない」等といって、またしてもB子さんを激しく責め、それ以降は手の平を返したように、B子さんに冷たく当たる様になってしまいました。 
私自身はその場面を直接見てはいないのですが、A氏の隣の席のD嬢が、一部始終を見ていたそうです。彼女の証言によれば、B子さんは確かにC氏の話をしたが、C氏とA氏を比べるようなニュアンスは全く無かった、という事です。 

正直、28歳にもなる大人の行動とは到底思えません。B子さんもかなり参っているようでした。私は「あんな人とは関わらない方がいいと思う」と言ったの ですが、B子さんは「そうした訳にもいかない。あの人はもしかしたら心の病気かもしれない」と言うのです。 
最初に書きました通り、B子さんは一度、重度の鬱病を経験しております。ですから、A氏が少なくとも鬱病では無い事ははっきり分かっていましたが、しかし彼女はA氏のような症例について、何かで読んだ記憶がある、というのです。 
B子さんは、なんとかA氏の信頼を回復して、精神科の受診なりカウンセリングなりを受けるように勧めなければならない、と言いました。彼女はショックを受けながらもA氏に同情している様子でした。 
それからのB子さんは、表向きはA氏と距離を置いたものの、影ながら彼を見守っているような感じでした。 

この少し前からA氏は、同期入社で隣の席の女性D嬢と急激に親しくなりました。D嬢は、気さくで朗らかな女性なのですが、B子さんとは違って不真面目な 面があり、私語が多かったり、仕事中にパソコンのゲームで遊んでいる事も多々ありました。その為かA氏とB子さんの関係とは逆に、むしろ彼がD嬢の面倒を見ている感じでした。 

やがてA氏は、入所始まって以来の大きな仕事を任されました。しかし〆切間際になっても終わる目処が立たず、窮地に立たされていたところへ、見かねたB子さんが手助けをし、なんとか急場を凌ぐ事が出来ました。すると彼は、B子さんに対する態度を急に軟化させ、また以前の様に頼み事や相談事をするように なりました。 

しかし、私から見るとA氏の態度は非常に虫の好いものに思えました。普段はB子さんの事を半ば無視しているのに、自分の都合の良い時は猫なで声で手助けを求める、そういった感じでした。しかも、学生アルバイトにでも出来るような(しかし時間はかかる)雑用ばかりなのです。それこそゲームや私語に興じているD嬢に頼めばいいだろうに、と非常に腹立たしく思えました。私には、B子さんが言葉巧みに利用されているようにしか見えませんでしたので、彼女にA氏を甘やかすのは止めるように訴えました。 

B子さん本人も、いいように利用されているという感じがしていたそうです。A氏はよく「後でこっちもB子先輩の手助けをするから、手を貸してくれ」と 言ってくるものの、いざB子さんが手助けを要請すると、「今日はやる気が出ない」等と勝手な事を言って逃げてしまうのだそうです。 
後のD嬢の証言によると、A氏は普段から「B子先輩には感謝している、恩返しをしたい」などと言っていたそうですが、私やB子さんから見ると「感謝している」ようにはとても見えなかったです。 

こうしたA氏の態度に、B子さんはかなり参っていました。自分の人間性が完全に無視されていると感じ、自分の健康の為に、もう彼とは関わるべきでは無いと考えたそうです。 
彼女は後日、A氏を捕まえて、「口先だけの言葉で私を振り回すのはやめて頂戴」と、厳しいながらも穏やかな調子で頼みました。(この時、私は二人のすぐ傍で、一部始終を見ていました) 
するとA氏は、例によって自分の行為を正当化するような、妙な屁理屈をこねました。 
「その時は本当に恩返ししたいと思ってたけど、急にやる気が出なくなったんですよ。出ないものは仕方ないじゃないですか云々」 
・・・といった調子でした。そこでB子さんが 
「何も貴男を糾弾しようという訳ではないの。ただ、私の事はもう、そっとしておいて貰いたいの」 
というと、A氏は急に逆上し始めて支離滅裂な事を言い始めました。彼が逆上する様はこの時始めて見たのですが、普段の冷静な彼とは別人の様でした。A氏の台詞は概ね、以下の様なものでした。 
「先輩が後輩の面倒を見るのは当たり前、自分が恩返しする必要なんかない」 
「お返しを要求するような親切は本当の親切じゃない、そんな事を要求するアンタ達はおかしい、狂ってる」 
そして、こんな事も言いました。 
「アンタの無礼(B子さんがC氏の話をした事を言っていると思われます)を許して『やった』じゃないか、その俺の努力を評価してはくれないのか」 
あれだけB子さんに冷たい仕打ちをしておきながら、彼女が去っていくのが納得出来ないとでも言うのでしょうか。その上「許して『やった』」等という高飛車な言い方をするなんて目茶苦茶です。 

また、妙な言いがかりをつけてきました。かなり遠回しな言い方でしたが、要点を纏めると以下のような内容です。 
「B子さんは自分(A氏)に対して恋愛感情を持っており、自分の恋人役を奪ったD嬢に嫉妬して、彼女に対してしつこく嫌みを言った。それでD嬢は酷く傷 ついたと、自分に訴えてきた。今後は彼女に近付くな。」 
前述の通り、B子さんはA氏に交際を仄めかされても、断っています。それなのに「B子さんがA氏に対して恋愛感情を持っている」という発想が何処から出て来るのか、全く理解出来ません。 
また、後日D嬢に確かめたところ、そんな事をA氏に訴えた覚えは無いそうです。ただ、彼のB子さんに対する態度があまりにも非情なので、それを見ているのが辛い、と話した事があるそうです。それを誤解したのではないか?という事ですが、無理にこじつけるにも程があります。 
また彼は、「D嬢は自分の恋人だ」と断言していましたが、D嬢は、彼とはそんな関係ではない、と言っていました。端から見ると、確かにD嬢とA氏は仲が良いのですが、彼女が言うには、そもそもA氏から交際を申し込まれた事など無いそうです。 

後日、A氏の態度を不審に思ったD嬢が、何かあったのか?と訊ねてきました。彼女に事情を話し、A氏の事を3人で色々話しあってみたのですが、彼女とB子さんの話に多くの食い違いがみられ、どうやらA氏は二人に嘘を吐いていたらしい、という結論に至りました。 

この直後からA氏は、アルバイトのE嬢と急激に親しくなり、彼女を腹心の部下のように扱い始めました。彼女はA氏の嘘混じりの話を全て鵜呑みにして、彼を「悲劇のヒーロー」か何かのように思っている様子です。 
E嬢と親しくなると同時に、A氏はまた急激にD嬢に冷たくなり、ろくに挨拶もしなくなってしまいました。相手がB子さんにしろD嬢にしろ、まるで彼女達 と親しくしていた事など、忘れてしまったかのようです。 

ちなみに、このE嬢(22歳女性)という人も、私から見ると尋常ではありません。 
ろくに話した事もない相手に、急に(旧知の友人の様に)馴れ馴れしい態度で接したり、酒の席とはいえ妻子ある男性に人目も憚らずにしなだれかかったり、 逆に「○○さんがしつこく言い寄ってくる」等と吹聴して回ったりと、その時々で言動が180度違います。 
また、事務所に遅くまで残っていた折、「この事務所は先が見えている。こんなところ辞めて、もっと良い事務所にいく」と大声で叫び出し、A氏がそれをなだめる、といった事件もありました。しかし「なだめる」といっても嗜めるわけではなく、むしろE嬢のご機嫌取りに終止しておりました。どちらも、周囲で 仕事をしている人達に対して、酷く失礼な言動です。皆、極力二人には関わりたくないので、注意せずに黙っていましたが・・・ 

このE嬢と親しくなった頃から、A氏の様子が今までとは変ってきました。 
自信過剰な態度が目立つようになり、自己判断のスタンドプレイが多くなりました。所長の意見にも聞く耳持たなかったり、クライアント(お客様)や下請け の方など、事務所外の人々に失礼な言動をする事が増えました。 
態度も酷く不真面目になりました。特に、仕事中にE嬢とイチャイチャする事には、皆、閉口しています。二人とも人目も憚らず、お台場公園に居る恋人達のような台詞を言いあったりするのです。周囲が呆れて不愉快な表情をしていても、全く気付かない(気にしない)様子です。 

最後にもう一つ、A氏の気になる変化(?)について御報告しておこうと思います。 
丁度彼がE嬢と親しくなった頃、仕事の関係で、さる有名なデザイナー氏がこの事務所に出入りしていました。この方は話し方や仕草に独特なところがあるの ですが、何故かA氏の話し方が、この方そっくりに変ってきたのです。周囲の笑いを取る為に、わざと口真似をしている訳ではありません。本人には真似をしている自覚が無いようなのです。今ではもう、この方とそっくりの話し方・仕草をしていて、正直なところ気味が悪いです。 

長くなりましたが、以上でA氏の話を終わらせていただきます。 
ここで質問に移らせて頂きます。 
B子さんは「A氏は境界型人格障害に違いない」といっており、やはり周囲が協力して受診を勧めるべきではないのか?と未だに悩んでいます。 
私も御サイトを拝見し、また先生が勧めて下さった『「心の悩み」の精神医学』も読んでみました。確かに境界型人格障害の方の言動にぴったり一致するところもありますが、そうでない部分も多々あるように思います。 
例えば、この本には「ボーダーラインは、暖かくヒューマニズムに溢れた人間関係を希求する」とありますが、私から見ると、A氏が求めているのは「主従関係」或いは「単なる馴れあい」であって、「ヒューマニズムに溢れた人間関係」とは程遠いような気がするのです。 
A氏は境界型人格障害なのでしょうか?それとも、ただの我が侭な人なのでしょうか?先生はどう思われますか? 
また、B子さんが言うように周囲が協力して、精神科や心療内科の受診を薦めるべきだと思われますか? 
(勿論、素直に受診に行くとは到底思えませんが・・・) 

また、E嬢の言動もかなり極端だと思いますが、この人の方はどうでしょうか。 
何か精神疾患の可能性が考えられるでしょうか? 

長々と失礼致しました。本当はA氏と関わりが深いB子さんから、質問のメールを送ってくれるように頼んでみたのですが、彼女は「A氏は境界型人格障害」 だとほぼ確信しているそうで、分かり切った事を訊ねて忙しい先生を煩らわせてはいけない、と断られてしまいました。 
彼女の言う通り、お忙しい事とは存じますが、もしQ&Aでお答えを頂ければ幸いです。 
最後まで読んで下さって有り難う御座いました。


: 人格障害か、それとも単なるわがまま、未熟などの性格の問題というべきかの判断は時に難しいものです。もともとその区別は曖昧であると考えることもできます。
この【0821】のA氏に関しては、確かに境界型人格障害の特徴は見られると思います。けれども、はっきりとそう診断できるかどうかは何とも言えません。人格障害の他のケースと比較なさってみてください。

なお、

「ボーダーラインは、暖かくヒューマニズムに溢れた人間関係を希求する」とありますが、私から見ると、A氏が求めているのは「主従関係」或いは「単なる馴れあい」であって、「ヒューマニズムに溢れた人間関係」とは程遠いような気がするのです。 

このあなたの指摘は、境界型人格障害でないと考える根拠にはなりません。境界型人格障害の方が「暖かくヒューマニズムに溢れた人間関係を希求する」というのは、かなり内面まで踏み込んでみてはじめて感じ取れるもので、表面的にはとてもそうは見えないことが多いものです。

また、このA氏が境界人格障害であるかないかにかかわらず、B子さんは彼とは十分距離を置くようにしたほうがいいでしょう。裏切られるような仕打ちにあってもなおA氏のことを心配される彼女の、

B子さんは、なんとかA氏の信頼を回復して、精神科の受診なりカウンセリングなりを受けるように勧めなければならない、と言いました。彼女はショックを受けながらもA氏に同情している様子でした。

この姿勢は敬意を表すべきものであるとは思いますが、かりにA氏の受診が現実となっても、そのあとの経過はとてもスムースにはいかないでしょう。そしてB子さんのタイプの方は、いろいろ苦悩されて最後はひどく傷つくという結果に終わることが非常に多いものです。

また、E嬢の言動もかなり極端だと思いますが、この人の方はどうでしょうか。 
何か精神疾患の可能性が考えられるでしょうか? 


この方に関しては、このメールだけの記載では全くわかりません。未熟で非常識な印象があるとまでは言えますが、それ以上はわかりません。


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