精神科Q&A

【0753】物忘れと妄想が目立つ母にカウンセリングを受けさせたい


Q私が最初に母の様子がおかしいと思ったのは、2年前で、母が56歳のときでした。 
物忘れが急にひどくなり、その頃から、いつも表情は暗く、家の中でもカーテンを閉め切ることが多くなりました。 

1年半前ごろ、習い事の発表会の際に、仲間全員分の食事券のような物を預かったりして、その数時間後にはそういった事実も忘れ、人から言われても本人はちんぷんかんぷんで、記憶がないので、探すといっても、どこを探したらいいかわからず、仲間の人が母の荷物の中から、そのチケットを見つけ出す、ということがありました。そして同じ月には、父と母と旅先の温泉旅館で、「持ってきたはずのネックレスがない」と言い始め、大騒ぎしました。旅行の間中、「あそこは泥棒ホテルだ!」と異常な表情で言い続けていました。ネックレスは家にありました。それを見つけた時の母の反応がまたとても病的に見えましたので、私は病院に連れて行くことを決めました。母は自分は病気だとは思っていないし、痴呆みたいに近所の人たちから思われるのはいやなので、せめて遠い病院に行きたいということで、片道1時間半ぐらいかかる病院に行きました。 

神経内科に回され、MRIや血液検査などを受けました。その検査結果では、どこも病的な数値は見られず、身体的には健康体だということでした。物忘れのチェックのような(長谷川式というのでしょうか?)テストもやりました。 

この神経内科には、約半年ほど通いましたが、ずっと物忘れの進行を遅らせる薬をもらっていました。でも、特に変化は見られず、最後の一ヶ月ぐらいのときに、先生が「どちらかというと、欝のようにみえますね。」といわれ、そのときに、ドグマチールというお薬をもらいました。そして、「心療内科を紹介します」と言われました。 
それをきっかけに、もう少し家に近い病院に行こうということになり、紹介状だけを書いてもらいました。1年前のことです。 

その後母が病院に行きたがらず、次になんとか病院に連れて行ったのが半年前です。 

この間に、母がお通じが悪い悪いといい、「がんじゃないかしら・」と言い続けるので、消化器科で検査も受けました。この検査結果でも、先生から「うらやましいぐらいの健康な数値です」といわれました。その際に先生が、「落ち込みが激しいみたいですね。」と言い、「眠れないといっても、それは実際にはそれほど疲れてないってことだと思います。毎日散歩にでもでかけてみてください。最初は疲れるかもしれませんが、気晴らしにもなって気分もよくなるし、運動すれば疲れるので、よく眠れるようになると思いますよ。」のようにお話されました。そのときに母は涙ぐんでいました。 

それから、半年前にまた病院に行くまでの間に、妄想のようなものが出てくるようになりました。なんとかまた病院に連れて行きました。神経内科で診察してもらいました。再度、MRIなどの検査をしましたが、ここでもまた健康な数値しかでませんでした。そして、「うつの症状がでてますね。」ということで、同じ病院の精神科を薦められたのですが、母は家の近所での通院を嫌がったため、また紹介状を書いてもらっただけで終わりました。 

そして、最近の母の様子なのですが。。次のような言動をします。 
「隣家の奥さんにいつも見られている。私がトイレに行こうと、ドアをあけると、もう家の外にでてきて、塀の影に隠れて、聞き耳を立てている。お風呂に入ろうとすると、覗いてくる。この間はトイレに入ったら、わっと笑われた。トイレにも行かれない。外に出かけると、お隣さんがすぐに出てくるから、でかっけられない。お隣さんが聞きみみをたてているから、大きな声でしゃべらないで。(母はいつもささやくようにしかしゃべりません。歩くときも、忍び足で歩いています。) 
お隣さんが、今度はこちらの家にいって、私の悪口を言っていた。家の中から聞こえた。あそこの家にもいって、私の悪口を言っていた。この間、あそこの家の人と話をしたら、お隣さんのことをよく言っていたから、、私は「あぁ、この人はお隣さんから何か言われてるんだな」と思って、もういいや、と思ったの。 
お父さんがお風呂に入ると、すぐに覗く。お隣さんは男の人が欲しくて欲しくてたまらないみたい。お隣さんがお父さんのこと好きなんでしょう。お父さんがお隣さんと口を利いたら、私、舌を噛み切って、死んでやる。 
(父がお風呂にはいると、メモに’お隣さんが見てるけれど、頑張ろうね。’などと書いて父に見せにいきます。または父がお風呂に入ってると、’あ、お隣さんと話をしてる!’といい始め、ものすごい剣幕で、お風呂場に行き、お風呂のドアをたたいたり、隣家の側の家の壁をたたいたりします。) 
お父さんがお風呂に入ってると、お隣さんがお父さんのペニスを見に来るのよ! 
あぁ、イヤだいやだ。お隣さんがいやでイヤでしかたない。イヤだねー、どうしてあんなにいやみな人なんだろう。 
私が泣いてるのをきいて、今喜んで笑ってるでしょう。 
お父さんが私に口を聞かない。食事中に私の目を一度も見なかった。お父さんが好かん!(というかと思えば、次の瞬間には)お父さんはそんな悪い人じゃないの。 
みんな私がどんなに辛い思いをしてるかわかってくれない。。どんなに嫌な思いをお隣さんからさせられてるか、どうしてわかってくれないの」 

母は有名私立大学の英文科出身で、上品で、温厚で、でも明るい母でした。その母が今では、指で人を指しながら、「私の気持ちなんて誰もわかってくれないんでしょ!」といいます。私たちにはとても衝撃的でした。 

多くなりすぎてしまいましたが、以上のようなことを言ったりします。 
そのほかに、相変わらず、記憶力はよくありません。迷子のような事が2回ぐらいありました。 
家族で出かけたテーマパークで、トイレに行った際に、家族のいるところに戻って来ず、一人で駐車場の車のところへ戻っていました。他には、待ち合わせ場所がわからず、一人で勝手に家に帰っていたりしました。携帯を持っているのですが、連絡をせずに、家に帰ったりしていました。 

そして、2ヶ月前より、別の病院に通いはじめました。そこでは、「決して欝とは思えない。」といわれました。「物忘れから始まっているし。それより、関係妄想と言うのですが、何でも自分と関連づけて見てしまいます。お薬を飲めば、良くなります。というより、気にならなくなるでしょう。」といわれました。 
週に一回通って、今のところ3回行きました。通院と通院の間では、一日のうちでも、ごく普通の時もあれば、、上に書いたように、、ひどくお隣さんのことを気にして、泣いて訴えたりします。診察のときは、先生に何かを尋ねられても、上手く説明できなかったり、、先生に(周りからすれば)妄想話をしたりしています。ときおり、先生が母を外にだして、私たち家族だけに話をしたこともありました。そうすると、家に帰ったときに、「何を話してたの?私を仲間はずれにして、あの病院には絶対に行かない!」といったりします。 
時には、父をたたいたり、蹴ったりします。ある晩は、「お隣さんを呼んできて!」 と父に言ったり。「今からお隣さんに文句言いに行く!」と言ったり・・。ある時は、「小さいころに男の子達に追いかけまわされて、必死で走って逃げて家に帰ってた・・」と言い、泣いたりします。 

周りにいる家族も、できるだけ母の気分を害さないように気をつけていますが、、色々な言動に対応するのもとても辛く感じています。 

母の言動を見てて、寂しいのかな・・と思ったりすることがあります。 
母が5,6年前に、高校時代の友達に裏切られたことがありました。そのときも、ものすごくショックを受けていたのを覚えています。 

今後の母の治療は、今現状通り、お薬を飲み続けるのももちろん大切だと思うのですが、、、母がこうなってしまった原因となる、心の問題が何かというものを、見つけ出すことも必要じゃないかと思うのですが、いかがなものでしょうか。 
今のお医者さんのところでは、最初に家族が様子を伝え、母の話も聞いてもらいました。その上で、「関係妄想」と言われ、お薬を処方してもらったわけですが、、、母を見てると、心理テストなどし、心の問題が何かをはっきりさせ、、カウンセリングを受けたほうがいいのではと思うのですが。。。 

アドバイスいただけたら幸いです。 

(私は先日まで数ヶ月ほど海外にいましたが、母が心配で、帰国し、今は働かずに、家で母と一緒にいます。帰国後3週間ですが、友達にも会うことが難しいです。私が友達と電話で喋っていると、物を投げてきたりします。自分だけ楽しそうに、と。父が出かければ、自分だけ楽しそうに、あんなに遊ばなくてもいいのに、と言います。。) 




: 現在お飲みになっている薬の内容が不明ですので、

今現状通り、お薬を飲み続ける

のが適切かどうかは判断できません。ただ言えることは、お母様の症状は薬で治療する以外にはないということです。他の治療法の効果は期待しないほうがいいでしょう。

母がこうなってしまった原因となる、心の問題が何かというものを、見つけ出すことも必要じゃないかと思うのですが、いかがなものでしょうか。

あなたのその気持ちはわかりますが、それをいくらやってもお母様の今の症状はよくならないでしょう。

症状に関して、「こうなってしまった原因となる、心の問題があるはず」、こう考えるのを心因論といいます。ご家族や親しい人が心の病にかかったとき、誰もが心因論を考えるものです。それは全く自然のことです。けれども、心の病の中には、心因によるものもあれば、そうでないものもあることがわかっています。心因でないものに関して、心の問題を追究することは、無意味とは言わないまでも、治療的にはほとんど意味がないものです。したがって、

母を見てると、心理テストなどし、心の問題が何かをはっきりさせ、、カウンセリングを受けたほうがいいのではと思うのですが。。。

あなたがこのようにお考えになることは理解できますが、それはあなたの願望にすぎません。今のお母様の症状に対してカウンセリングはまず効果はありません。

話が前後しましたが、お母様の診断と治療方針について、今の主治医の先生は正しいと思います。これは関係妄想です。そしてこれだけ激しい関係妄想は、心因で生ずることはありません。

最初は物忘れで始まり、後にうつの傾向が出てきたというところまでの経過を見れば、うつ病も考えられるところでした。うつ病の症状として仮性痴呆というものがあります。うつ病なのに、一見すると痴呆にみえるというものです。

けれども、今の状態を見ると、関係妄想の内容がうつ病的ではなく、しかもかなり激しい妄想ですので、うつ病とは診断できません。最初はうつ病であったということも考えられません。

病名として考えられるのは、ひとつは統合失調症(精神分裂病)です。もうひとつは、中枢神経系の変性疾患です。

今の症状だけを見れば、かなり典型的な統合失調症(精神分裂病)の妄想といえます。けれども、これまでの経過を見ると、物忘れなど認知機能の低下からはじまっていますので、単なる統合失調症(精神分裂病)ではなく、変性疾患に分裂病様の妄想を伴っているというほうがどちらかというと可能性が高いように思います。

どちらにしても、カウンセリングの効果はほとんど期待できません。あなたが本物の患者ならにお書きしたように、治療法というものは、「あなたの好きな方があなたに適しているとは限らない」のです。幻想を追うのはやめて、現実を直視してください。



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