精神科Q&A
【0738】一卵性双生児の統合失調症について
Q: 妹は20代前半の一卵性双生児です。上の子をA,下の子をBとして経過を書きます。
始まりは、東京で一人暮らししていたBでした。
半年前につきまといや自分の情報が流れるといった妄想があったのですが、病気と気づかず、転居や警察に相談するなどしていました。
3ヶ月前には通りがかりの人が嫌がらせを言う又は歌うといった幻聴があり、警察の方に指摘され妄想と気づき、帰省させ、受診・内服を始めました。
現在まで実家におり、仕事も退職しました。
妄想は1ヶ月半くらいで消えましたが、不安・イライラ・焦燥感・興味活動の低下が続きました。
最近になって薬も落ち着き、本人らしさも多くなり、不安材料はあるものの就職にトライしてみようかというところです。
内服はリスパダール・アーテン・レンドルミン・ワイパックスです。
続いて発症したのが自宅で同居していたAです。
Bが帰省後の状況をAは薄々は気づいていたようでしたが、ショックを与えないようにと考え、はっきりとはBの状況を伝えませんでした。
すると、休みもなく日付が変わるまで働くなど自分もしんどいのにBに関心が行くということが不満らしく、両親にきつく当たるため2ヶ月前にAに状況を話し、つらいが家族で協力するように話しました。
その時は、ショックだが、わかったと言っていたのですが、数日後の夜、幻聴が出、夜中に裸足でとびだして行き、翌日幻聴におびえて出社できずにいるのを発見し、受診・内服となりました。
そして今も幻聴が続いています。
リスパダール・セレネースで改善が見られず、盗聴・盗撮の妄想が増え、夜も幻聴を確認に出て行こうとしたり、一度興奮すると人の話が聞けずに興奮がおさまらなくなるため、今月に入って任意入院となりました。
現在入院して10日程でジプレキサ・ベンザリン・安定剤(本人談で名称未確認)で普通に会話でき、落ち着きがみられはじめました。
妄想は続いていますが、考えると出るくらいで、普段はないと本人は言っています。
ただ、病院で聞こえるのは幻聴だが、家で聞こえたのは幻聴ではないと言っています。
2人に一気に症状が出たため、いろいろ聞きたいことはあるのですが、特に双子であることに関した実例や紹介がインターネットや本でもなかなかみあたらずに困っていますので教えていただきたく思います。
個々に違う人格で症状や経過は人によって様々とはわかるのですが不思議でわからないところもあるのです。
ひとりの症状が治まればもうひとりも同じように治まる可能性があると医師に言われたのですが、家族を安心させるためでしょうか?それとも経過や再発が影響しあうということがあるのでしょうか?また、一人が調子が良いともう一人が悪くなるところがあり(お互いに興味の引き合いをしているように思えるくらいです)、その傾向はAの方が強いように思うのですが、こういった症状の変化も関係あるのでしょうか?
そして同じ屋根の下で二人を看る上でやってはいけないこと、心がけた方が良いこと、双子のこうした例の文献などありましたら教えてください。
林: 一卵性双生児の二人に、互いによく似た精神症状が出た場合、その成因は二通りの可能性が考えられます。それは、(1) 一人の症状が、もう一人に影響を与えて発症した。(2) 遺伝的な要因。この二通りです。どちらかであるかを決定することは厳密には不可能ですが、ご質問の【0738】のケースは、(2)であるように思われます。
(1) のように、一人の症状がもう一人に影響を与えて発症する場合は、感応性妄想性障害 Induced Delusional Disorder、あるいは二人組精神病 Folie a duex (フォリ・ア・ドゥー)などと呼ばれています。これは一卵性双生児に限らず、家庭内などで非常に親密な関係にある二人のうち一人が妄想を持つと、もう一人も同じような妄想を持ってしまうという病態です(親子、夫婦などの場合が多いです。一卵性双生児というのはこの病態ではむしろ例外的です)。治療としては、まずその二人を物理的に離すことが第一となります。
【0738】のケースの主治医の先生が、
ひとりの症状が治まればもうひとりも同じように治まる可能性がある
とおっしゃったのは、この病態を念頭においてのことだと思います。
けれども、この【0738】のケースは、(2) の遺伝的要因によるものの可能性のほうが強いと思います。
というのは、(1)の場合、多くは妄想が前景とする病像であるのに対し、【0738】は、確かに妄想はあるものの、診断としてはかなりはっきりした統合失調症(精神分裂病)と思われるからです。それでも症状が影響したという可能性がないとは言えませんが、メールに記載されているような症状ですと(もっとも、症状の記載は簡潔なので詳細をお聞きしないとわからないところもありますが)、このお二人が発症したのは、影響というよりも遺伝的要因と考えるべきでしょう。一卵性双生児の統合失調症(精神分裂病)の一致率(二人ともが罹患する率)は、かなり高いものです。
ただし、要因はどうあれ、
一人が調子が良いともう一人が悪くなるところがあり(お互いに興味の引き合いをしているように思えるくらいです)
という状況では、現在の症状は互いに悪影響をおよぼしているようですので、何らかの形でお二人を物理的に離して治療したほうがいいと思います。
なお、精神疾患の双生児例についての最近の総説と、一卵性双生児のfolie a deuxの論文を、参考文献としてご紹介しておきます。