精神科Q&A

【0670】69歳の母は脳梗塞か痴呆か甲状腺障害か統合失調症か


Q 私は39歳女性です。遠方で一人暮らしの母69歳の事についてお尋ねさせて下さい。

母はある宗教に入り霊にとりつかれたとの恐怖から42歳の時と45歳の時に幻聴・被害妄想が激しくなり精神科に強制入院させられました。その時の診断は精神分裂病でした。
退院後の経過は良く、薬も服用していなかったのですが、その後約20年間、再発はしませんでした。

しかし、父が亡くなった3年程前からごくたまに、「玉が飛んできて体中痒い」とか「父がふとんに入ってくる」などと言うようになりましたが、生活自体は普通にこなしていたので、「ふーん、私のところには来てくれないよ」などと軽くあしらっていました。
それが、今年に入ってから「悪い霊が父をそそのかして私の腹に入って腹の肉を食ってる」とか、「病院へ行ったら殺す、と言ってる」「玉が喉から入ってきて、つまる」「家中にサリンがまかれた」など、とにかく次々とほぼ一日中幻聴が聞こえるらしいのです。

糖尿病と高血圧の持病もある為、内科に自分一人で診察に行ったところおかしな事ばかり言うので、叔母が呼ばれ精神科に回されました。
そこでMRIをとったところ、脳梗塞の痕があるとの事で、脳神経外科へ回されました。そこでの診断は脳梗塞の痕はあるが、今は直りかけているので、脳梗塞防止の薬を出してもらい、しばらく様子を見ましょうと言われたようです。結局、精神科には戻されずに終わってしまいました。その時の診察では、脳に痴呆の形跡もあると言われたそうです。

また、母は10年程前に甲状腺に腫瘍ができて手術もしています。
その時は3つ程ありましたが、一番大きな腫瘍だけ取り除いて後の2つはまだ小さかった為そのまま残したそうです。
このホームページを拝見させて頂くと、甲状腺の異常でも幻聴が聞こえるとの事で甲状腺の腫瘍も大きくなってきているのかも・・・と思ったりしています。

本人はガンとしてもう二度と精神科へは行くつもりはありません。
その話をすると興奮して怒り出し、手がつけられなくなってしまいます。
痴呆であれば、無理に精神科を受診させても良くならないものなのでしょうか。
このまま、脳梗塞を防止する薬(血液をサラサラにするものと聞いてます)で様子をみるのが良いのでしょうか。
その後も大声で見えない父と喧嘩したりして、症状は良くなる気配はありません。
どうしたら良いかわからず、母のそばに住んでいる母の兄弟たちもかなりまいっているようです。私が4時間かけて母の所へ行ってもそばにずっと人がいるとイライラするらしく夕方になると「帰んなさい」と追い返されてしまいます。


: 現在のお母様の症状は、統合失調症(精神分裂病)によるものである可能性がもっとも高いと思います。脳梗塞や痴呆の影響はあったとしてもわずかでしょう。

このまま、脳梗塞を防止する薬(血液をサラサラにするものと聞いてます)で様子をみるのが良いのでしょうか。

このような対応ではよくなる見込みはありません。精神科的な治療が必要です。

確かにお母様のケースでは、幻覚や妄想が出る原因として、いくつかの病気が考えられます。しかしそれでも統合失調症(精神分裂病)による可能性がもっとも高いと判断する理由は、ひとつは記載されている症状(幻聴)の内容、もうひとつはこの既往歴です。

42歳の時と45歳の時に幻聴・被害妄想が激しくなり精神科に強制入院させられました。その時の診断は精神分裂病でした。

この病歴から、お母様が統合失調症(精神分裂病)であることは間違いないと思われます。

退院後の経過は良く、薬も服用していなかったのですが、その後約20年間、再発はしませんでした。

統合失調症(精神分裂病)では、このように薬なしでも安定した状態が続くことがあります。【0669】もご参照ください。
そして、

父が亡くなった3年程前からごくたまに、「玉が飛んできて体中痒い」とか「父がふとんに入ってくる」などと言うようになりました

これは再発の兆候であったと考えられます。お父様の他界のような、ご家族の状況の大きな変動が再発のきっかけになることはよくあることです。そしてそれ以後の経過をみますと、これが再発であったことは間違いないといえます。

もっとも、甲状腺障害の影響がないとはいえません。もちろん、42歳のときの症状がそもそも甲状腺によるものであったことも否定はできませんが、これは当時の検査所見をみなければなんともいえません。また、現時点での甲状腺機能の検査も必要です。

また、脳梗塞については、

MRIをとったところ、脳梗塞の痕があるとの事で、脳神経外科へ回されました。そこでの診断は脳梗塞の痕はあるが、今は直りかけているので、脳梗塞防止の薬を出してもらい、しばらく様子を見ましょうと言われたようです。

これも実際にMRIを見せていただかないことには何ともいえませんが、このように説明されたということは、おそらく小さな梗塞が複数あったということだと思います。高齢の方には比較的よくあることで、これは痴呆につながることもつながらないこともあります。

結論としては、いまお母様にもっとも必要なのは、統合失調症(精神分裂病)に対する精神科的な治療です。具体的には抗精神病薬による治療です。それをしなければどんどん悪化するでしょう。精神科の受診は拒んでおられるとのことですが、甲状腺については如何でしょうか。甲状腺の検査のためということで受診していただき(実際、甲状腺の検査は必要です)、その際に抗精神病薬の治療をしていただくという方法も考えられます。いずれにせよ、もこのまま様子をみていてはご本人のためになりません。早急に治療を受けさせてあげてください。

 

その後の経過(2010.5.5.)


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