精神科Q&A

【0659】カウンセリングに治療効果があることは証明できるのでしょうか


Q私は29歳男性です。 
 8ヶ月ほど前から、憂鬱である、集中力が落ちる、疲れやすいなどの症状がではじめ、うつ病を疑い、3ヶ月ほど前に会社のカウンセラーに相談しました。それによると、「うつ状態」 の可能性あり、とのことで、精神科の病院を紹介され、そこで「うつ状態」と診断されました。現在病院では1〜2週間ごとに薬の治療のみ(そういう方針の医者だそうです)を行なっています。これは一進一退を繰り返しながらも、まあ、治癒に向かっているという実感はあります。カウンセラーのほうにも週1で通っており(掛け持ちはまずいのではと思いましたが、どちらの先生も掛け持ちの状態のことをご存知の上で特に気にしていらっしゃらない様子です)、こちらでは心理療法(自分の感情などを自分で分析させるもので、たぶん、認知療法というものだと思います)をおこなっています。このカウンセリングが思うように進まず困っております。 

以下のような疑問をカウンセラーの方にお話いたしました。 

「わたしはもともとカウンセリング(心理療法)に不信感をいだいていた、ということがあるのかもしれません。 薬なら二重盲検でプラセボとの効果の差がどの程度あるかが数値で判断されているでしょうし、ある程度信頼はできます。しかし、心理療法には原理的に薬のような検定が行なえないのではないか、という疑問があります。もちろん、治療効果があればプラセボ効果だろうがなんだろうが良いのでしょうが、私が疑問を持っている以上、カウンセリングの意味も薄れてしまいます」などなど。 

 初めはいろいろ聞いていただいていたのですが、先日には、そういう疑問をもつこと自体がうつ状態の特徴である。治ろうとする意思が無い。何十年も続いている治療法を否定す るのは考え方が合理的でない。等、とりあってもらえませんでした。カウンセラーも人の子ですし、自分の職務に疑義を挟まれるのは愉快ではないと思います。しかし、私としても感情的なわだかまりもあり、これ以上カウンセラー本人には直接言いにくく、また他に相談するところもなく、メールを出させていただきました。 

林先生への質問は以下のとおりです。 

1)私の一方的な主張だけでは判断しかねるとは思いますが、どのようにカウンセリングを続けていけばよろしいでしょうか。疑問を持つことが治療を遅らせていることだけは確かでしょうから、疑問を抱かないようにするにはどうすればよいのでしょうか。 

2)これは付けたしの質問ですが、「うつ病」「うつ状態」の違いが判然としません。医者に聞いてもなんか良くわからない答えでしたが、食い下がるのも悪いみたいでそれ以上聞けませんでした。 


: あなたの疑問はもっともです。この問題については【0622】でも触れましたが、カウンセリング(心理療法といっても、精神療法といってもほぼ同じです)の効果の判定は、心理や精神の臨床家であれば当然つねに抱いているものです。(いや、時にそういう疑問を抱かずにやっている人がいて困るというのが本当のところでもあります。それだとカウンセリングといってもまじないと同じようなものでしょう。)

精神科に限らず、医学的治療については、「客観的な効果が証明されている治療法があれば、それを最優先させるべき」ということが、論理的にはいえると思います。そうなりますと、あなたのお考えのように、「客観的な効果が証明されている薬物療法をするのはいいとして、効果の証明がないカウンセリングを受けるのは疑問」というのも、当然正しいということになります。

しかし、このように厳密に考えすぎると、薬を過大評価することになりかねません。あなたの主治医の先生が、

1〜2週間ごとに薬の治療のみ(そういう方針の医者だそうです)

という方針だとすれば、もしかすると薬を過大評価しているといえるかもしれません。

けれども、いくら効果が実証されているといっても、うつ病の人がただ薬だけ飲めばそれで治るのか、というのは、素直な疑問でしょう。多くの患者さんは、薬プラスアルファの治療を求めておられると思います。

実際、うつ病の治療については、
a. 薬のみ
b. 薬プラス精神療法
を比較した研究はいくつもあり、b. 薬プラス精神療法 の方が有効という研究データはいくつもあります。

ただしこの場合、精神療法をひとまとめにして比較できるのか、という問題があります。薬なら、ある特定の薬を同じ量飲んだ人同士の比較ができますが、精神療法では、その精神療法を行った治療者による違いがあるのは当然予想されます。ですから、薬と違って、効果判定にはどうしても限界があるのです。

このような説明を続けていくときりがありませんので、やや無理を承知で簡単にまとめてしまいますと、

『カウンセリング(精神療法、心理療法)の効果は、厳密には立証しにくいが、おそらく有効であることは間違いない』

ということになるかと思います。「おそらく」などといわれては、そんな治療は信用できないと言われるかもしれませんが、これが現実的な線でしょう。ですから、やむを得ない場合を除いては(たとえば【0067】)、薬だけの治療というのはあまりお勧めできません。

以上をご理解のうえで、あなたがどうされるかをお決めください。
もしカウンセリングを続けるのなら、効果を強く疑うのはどうかと思います。というよりも、どうしても不信感がぬぐえなければ、カウンセリングを続けることにはあまり意味がないと私は思います。

それから最後のご質問のうつ病とうつ状態ですが、ごく簡単にお応えすると、うつ状態のほうが範囲が広いということになります。うつ病の相談室の213ページ以後もご参照ください。




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