精神科Q&A

【0658】アモキサンとホリゾンの処方について


Q: 35歳女性です。精神科看護師を12年続けています。独身ですが、彼との同棲生活が7年になります。
 そして、9年前から私自身が患者として精神科に通院しています(勤務先とは別の病院です。勤務先の同僚は、私が精神科に通院しているなんて夢にも思っていないと思います)。私の診断名は・・・精神科のベテラン看護師である身で言いにくいのですが・・・よくわからないのです。

 しかし、当初から抗うつ剤の処方があり、SSRIも認可と同時に服薬開始していることから、「うつ病」「抑うつ神経症」「抑うつ状態」など「ウツ」が入るのは間違い無いと思っています。気になって病名を聞いたことも何度かありますが、主治医に「そんなのあまり問題ないよ」と言われれば「そうですね」と思ってしまいます。「治ればいい」んですから、確かに病名は関係ないんですが、治らないんです。

ウツは間違いないと思うのですが、日内変動がずっと同じパターンなんです。
朝、仕事に行く時は気合が入ります。
仕事はむしろ過剰適応とも言えるほどに完璧にこなさないと気がすまないタイプで、それなりに患者さんや同僚、上司からも頼りにされ、責任ある仕事にも就いています。仕事のことになると、苦痛は感じることはありません。
しかし、夕方の退社のタイムカードを押すと同時に気分は沈んできます。「このまま車でどこかへ消えたい」という衝動に駆られて押さえ込むのに苦労します。「調子の良い時は」夕食の買い物もできます。

これまで「消えたい衝動対策」に自分なりに色々してきました。
規則的な通院・服薬はもちろんのこと、不安時(消えたい)の頓服も不眠時の頓服もいただいています。
彼と同棲を始めてから、マンションも購入しました。
命の責任を持つ意味で(元々好きなのですが)犬も飼いました。しかも2匹。1匹は心臓病で盲目の障害犬を承知で、里親になりました。「彼」と「犬」「マンションの支払責任」のために、私は職場から離れても、なんとかギリギリ社会適応しているのだと息苦しくなります。

なんだかヘンなのです。
こんなに恵まれているんです。
元々、目指した精神科の職場でそれなりに働き(ウツのそぶりさえ見せません)、大好きな彼と、家族(犬)、そして安心できる空間(自分たちのマンション)まであって、どうして、なにがウツなんでしょう?
泣けてきます。
夕方からウツ・・・と書きましたが、夜勤は別です。
これから朝まで責任を持って頑張るという気持ちで戦闘態勢に入れます。

当然のように、過剰適応タイプなので、友人からも「頼りになるヒト」と思われます。
メール相談にも親身になるし、真夜中の泣き言電話にも優しく付き合います。

私は「誰かから必要とされていると感じないと生きている実感がない」のでしょうか?
これは一般の人にも言えるのでしょうか?極端すぎるような気もしますが。
休日の私の姿は、平日とは別人のようです。
入浴、洗面さえ面倒です。おなかが空いても食べることを考えるのも面倒。
ノドが渇いても水を飲みに行くのにさえ決心しなければ動きたくないです。
そんな私が買い物にでかけ、掃除、洗濯、夕食の準備などをしていると彼は仰天します。それだけ珍しいのです。
突然、数時間だけ、生活能力が出ることもあるのです。(しかしこの7年間、躁転はただの一度もありません)
仕事に行く朝は、決して寝坊もしないし、シャワーも完璧。
朝のコーヒーも豆から挽きます。
なんなんでしょう?この差は。

仕事で200%使い切ってしまい、家にはマイナス100%なんて、彼が可哀想すぎるし、私ももうイヤになってしまいます。

主治医に「仕事中はいいんです」と話しても、「それはいいことです」と言われるだけですし。確かに、今の私から仕事を取ったら何もありません。廃人になってもおかしくないと思えるほどです。

本当に「こんなウツなんてあるんでしょうか?」

でも、職場以外での職場の人との付き合いはほとんどしません。
仕方なく送別会に出席するくらいで、忘年会や旅行など絶対に参加しません。

私は「仕事依存」なのでしょうか?

そりゃ、経験上、患者の数だけ症状は違うことも理解しています。
自分で「境界型人格障害」を疑ったこともあります。
でも主治医に「境界型人格障害なんてとんでもない!」と軽く笑われてしまい
「あれこれ頭でっかちに考えないで、そのままでいいじゃない?」と・・・。

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ここまで書いて読み直してみて、治療内容のことに触れてないことに気づきました。なにしろ9年も前のことですので、最初のころのことはあまりよく覚えていないのですが、思い出すままに書いてみます。

受診当初はまだSSRIも認可されていないときでした。
確か、ネブスン、メイラックス、PZC、テシプール、といった処方だったと思います。

メジャーが入っていたことにとてもショックを受けたことを覚えています。
しかし、テシプールが入っていることから、診断名はわからなくても「うつ」がつく状態だったのだな、と理解していたように思います。

ただ、眠気があまりにも強く、PZCは1ヶ月ほどで中止されました。
まもなくネブスンも中止され、眠気は減ったものの、少しも気分は良くならずにイライラ感が増強していたころ、「今度SSRIが認可されて処方できるようになった」と主治医から「使用してみるか?」と提案され、それに従ってみることにしました。

処方は、シンプルになり、デプロメール25r2錠/日とメイラックス2錠/日のみとなりました。服用していてもなんの副作用もないかわりに、主作用もなにも感じない日々でした。

あまり神経質になってはいけないと思い、処方内容の詳細なメモをとることもせずにいました。ただあまり状態が変わらなかったことは確かで、数回にわたり(しかも何年もかけて)デプロメールは1日150rまで増量されました。
メイラックスは同量です。それでまた数年。
しかし全く「変わりない」状態に、「もう一生治らないのではないか?」「本当はうつ病なんかじゃないから、治らないのではないか?」と疑念は深まり、それでも職業柄か生真面目な性格のせいか、他院を受診することはドクターショッピングになる…主治医を信頼していないことになる…これ以上地元で精神科にはかかりたくない…といった思いから、動きがとれない状態で、やっと仕事だけはこなしている毎日が続きました。仕事には張り合いが持てていました。

しかし、今年の4月から6年ぶりに病棟の勤務異動がありました。いままで閉鎖病棟でバタバタと走り回っていた私は、開放病棟に来てからなんだか自分が無能になったように感じはじめました。実際には開放には開放の仕事がたくさんあって、楽しみもいくらでも見つけられることを知りながらも。

それに加えて、実習指導者として看護学生の指導に関わることが決まりました。さらに、今年から私が看護学校へ精神看護の講師として行くことが決定しました。

元々仕事は好きだったのですが、学生指導や講師など、考えてもみなかった話で(実習指導者の研修には行っていましたから、学生指導はしかたがないとしても)ひどい緊張を強いられました。

それまで好きだった仕事にも行きたくなくなり、不眠が初めて現れました。
通院を始めて以来、不眠を訴えたのは、初めてでした。
毎日憂うつな気分で、自分を激励しながらの出勤でした。
これは以前の状態とは違う…
少なくとも仕事だけは生き生きとできていたはず…と思い、主治医に思い切って
「薬が効いていないと思うんです。夜も眠れなくなりました」と話しました。
主治医は今の状況などを一切聞こうとはしないので、症状を話すだけで精一杯でした。

そこで、はじめてアモキサンが処方されたのです。
アモキサンとネブスンを1日3回、就寝前にマイスリー1錠。
(アモキサンとネブスンのrはわかりません。散剤でしかも10倍散だったりするのです。処方箋にアモキサン10%70r×3と書いてあったはずですが。)

またあまり効果は期待していませんでしたが、翌日、たった翌日の朝に頭の中の霧が晴れ渡るような体験を初めてしました。

良く眠れたせいなのかもしれませんが、
それだけではない、何か〜
今まで処方されたことがない薬といったらアモキサンしか考えられませんでした。

1週間分の処方だったので、1週間後再診の時に、頭が冴えていること、良く眠れること、仕事以外に家事も億劫ではなくこなせるようになったこと、を報告しました。本当に長い経過の中で夢のような1週間でした。

仕事と家事の調子が整ってきたため、職場で薬を飲むのをイヤがった私に主治医は1日2回の処方に変更してくれました。アモキサン10%はこの時点で60r×2に減量されました。マイスリーでは早朝覚醒してしまうため、ユーロジンとセパゾンに変更になりました。

活動性が高まった反動からか、イライラ感がひどくなり、ホリゾン5rを頓服として半錠のむようにと処方されました。
今は、気分は良いというほどではないけれど、以前にくらべるとずいぶんマシという感じです。しかし最初の1週間のような感動的な解放感はもはやありません。(念のため、最初の1週間も躁転などとは程遠い精神状態で、やはり低め安定といった感じでしたが)

現在はこの処方で、仕事も講師もなんとかやっています。しかしホリゾンに頼ってしまうことが多く、追加処方をお願いに通院することも多くなりました。とても不安が強く、イライラを静めるために、私はホリゾン5mgを2錠飲んでからでなければ(それも講義の1〜2時間前に)とても教壇には立てません。
そのことを主治医に話すと、当然「よくない…」と言われましたが、他に方法を思いつかないのです。入院患者さんの「イライラ時」に相当するくらいの量だと自覚はしています。もちろん不安時の注射と同量だということも。

アモキサンで動けるようになったのに…今度は不安とイライラに負けてしまいます。主治医はホリゾンを次回から2rにしようか?と心配してくれます。困りました。
私は薬に依存しすぎなのでしょうか?
仕事に依存、薬に依存、もしかしたら彼にも依存しているのかもしれません。
これじゃまるで境界型人格障害のうつ状態…と勝手に自己診断しては泣きたくなります。

どうか、何かアドバイスをいただけないでしょうか?


: あなたはうつ病だと思います。そして、アモキサンが最もあなたにあった薬なのだと思います。アモキサン増量すべきでしょう。そうすればより改善することが期待できます。

メールの前半に書かれている状態は、確かに仕事のみは非常に生き生きされている様子で、あなたが

こんなウツなんてあるんでしょうか?

私は「仕事依存」なのでしょうか?


とお考えになるのもうなずけるところです。しかし、この時点でも、日内変動が非常にはっきりしており、また休日の状態は病的なうつと判断できますので、やはりうつ病と考えていいと思います。

 それをさらに裏づけるのは、最近の状態です。学生指導や講師といった仕事の負担が増すことによって、仕事においてもうつの状態が出現しているのが明らかです。このことから、以前の状態は、たとえストレスはあってもやり甲斐のある仕事に集中できている間は、うつが表面化していなかったと判断できます(【0661】の方もその意味では似たケースと言えるかもしれません)。もちろん重いうつ病ではそのようなことはありえませんが、あなたのうつ病はそこまで重くはなかったということだと思います。

そして、あなたにあっている薬がアモキサンであることは明らかです。

翌日、たった翌日の朝に頭の中の霧が晴れ渡るような体験を初めてしました。

良く眠れたせいなのかもしれませんが、
それだけではない、何か〜
今まで処方されたことがない薬といったらアモキサンしか考えられませんでした。

1週間分の処方だったので、1週間後再診の時に、頭が冴えていること、良く眠れること、仕事以外に家事も億劫ではなくこなせるようになったこと、を報告しました。本当に長い経過の中で夢のような1週間でした。


抗うつ薬の効きがこのように劇的にあらわれることは、治療経過中には時にあるものです。ですから本来なら、ここでアモキサンを減量すべきではなかったと思います。このときあなたに処方されていたアモキサンの量を210mgと仮定しますと、もし昼の仕事中に飲むことが困難であれば、朝と夕食後と寝る前に飲むとか、場合によっては朝と寝る前の2回に分けて飲むことも可能です。今からでもアモキサンを増量するのがいいと思います。

頓服のホリゾンですが、10mg程度まででしたら、それほど心配する必要はありません。もしこれを飲むことで仕事中の安定が得られるのなら、続けていいと思います。
ただし、これ以上は増やさないほうがいいでしょう。
また、アモキサンを増量することで、ホリゾンの必要量や回数は減ることも期待できると思います。

 以上まとめますと、あなたはうつ病で、アモキサンが最もあなたにあっている薬です。必要十分なアモキサンの服用をお勧めします。


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