精神科Q&A

 【0626】ゲーム漬けの生活をしていて、急に動けなくなる


Q: 私は61歳の男性です。25歳の息子についてご相談したいことがあります。家族は55歳の妻(本人の母)と、30代前半と20代後半の娘で、5人家族です。

息子は、大学(理科系)4年生の時の厳しい研究室での1年間の研究室生活の間に、夜間12時を超える研究室生活、帰宅後はストレス解消のために、攻撃的なインターネット・コンピュータゲームを夜明けまでやり、昼前起床で、大学へ登校と言う生活を続け、ようやく卒業はしたものの、修士1年の4月末、とうとう登校できなくなり、その後、休学、復学を繰り返し、3年間を経過して現在に至ります。最初の2年間は精神科の個人クリニックにかかり、約1年前から大学病院の精神神経科に転医し、2ヶ月の入院生活を経て、「うつ」はかなり改善し、一時修士に復学しましたが、また、2ヶ月程度で大学生活について行けず、再び「登校拒否・休学」となり、現在に至っております。

個人クリニックでの当初の診断名は「うつ」でしたが、大学病院での入院をはじめとする治療により「うつ」はほぼ寛解し、現在は「回避性人格障害」の疑いがあるとのことです。
そこで、2ヶ月前から「社会的引き籠り」対応のある私立病院に1ヶ月入院をしましたが、入院生活に耐えられず、当該病院の売りの「社会的引き籠り」対応の「デイケア」も2回ほどの出席で、退院し、現在は元の大学病院に通院しながら自宅での療養をしています。

現在の投薬は、アナフラニール25mg*2錠*朝昼夕3回、セパゾン2mg*1錠*朝昼夕3回、リーマス錠200を朝夕1錠、他に睡眠導入剤(アモバン7.5mg)、睡眠薬ベンザリン錠5mgなどです。

以前の個人クリニックの医師は、「うつの症状が相当重いのだから、ゆっくり、のんびり」することだけの生活指導でしたが、大学病院の医師の生活指導は、まず、「自主的に体を動かし、規則正しく運動をし」「生活のペースを保ち」「両親以外の人と合う機会を作り」、その後、「頭が活性化し」「意欲が出てくるようになる」ので、「社会的な復帰を目指して生活する」ように、とのことですが、本人は、「体を動かすのは絶対にイヤ」「運動は死ぬほど嫌い」「生活パターンは乱れっぱなし」「インターネット・コンピュータゲームを夜中の2時3時まで続け、朝は7時頃起床し」「朝食をとった後不規則に睡眠」、「昼食、夕食はほぼ定時摂取、それ以外はコンピュータゲーム」という生活で、「大学病院通院時」以外、自主的な外出は全く無し、両親が出かける時に声を掛けると、同行することもあるが、精々週1回、自動車に同乗し、その後の自由行動は1時間程度が限度です。

最近、自動車での移動をなるべくやめるようにしているので、両親と同道外出時に、徒歩や、公共交通機関での移動をする時に、15分から30分程度の歩行で、「急に動けなくなる」状況が頻発しています(直近の2週間に3回発生)。過去3年間の間も、復学している時も、同様な状況は月1回程度は起こっています。その度に、病院での検査(血液検査、心電図検査)を実施しても、異常は無し。空腹時血糖値も異常なし。(内科医受診で、肝機能障害が診断されているが、糖尿病の疑いは無いとのことで、糖尿病負荷試験はしていない。)
ダウンすると、1時間ほど、イスに座り込んだり、寝ころんだりして、《意識も多少もうろうとし、手などが少々冷たくなり、体は全く動けなくなります。その後、あめ玉、清涼飲料水などエネルギー補給をし、多少動けるようになり、タクシーなどを使用して帰宅している状況です。

大学病院医師の診断では、「神経内科」系統の病気の疑いがあるとのこと、近々その診断を受ける予定です。
「急に動けなくなる症状」に関して付加的に申し上げると、CTも、脳脊髄液も調べていません。筋肉の萎縮も来ていないと思います。いつも、自主的に歩こうと思うと歩けるらしいので、だんだんひどくなっているのでは無いと思います。外出などや、散歩などをするつもりでも、ゲームで忙しいし、ゲームの仲間から外されるのが怖いので、ゲームから離れられず、ゲームにかまけているので、やること、やるつもりであったことを忘れてしまうのではないでしょうか。どうも、意志が弱いので、何を始めても3日坊主どころか、1日坊主で、続かないし、外に出て筋肉を動かさないから、だんだん動けなくなる。体重が正常な状態より30キロも多いし、少し動くと猛烈な発汗をする(特に背中に)。そのような状態です。そして、動けなくなる。筋肉がたるんでしまっているからだと思いますが、萎縮ではないと思います。

神経内科にかかると、多少はそのような診断、検査もするのかもしれませんが。CTや脳髄液というと、アルツハイマー病の事かなと思ったりもしております。牛肉も好きだし、ハンバーグや牛丼は若者だから以前から大量に摂取してきた。だから、BSEの、変異性クロイツフェルト・ヤコブ病の可能性がある?→一時はそんなことも考えましたが、あれ以来3年を経過する今はそんな可能性はなさそうです。

「なぜ動けなくなったか?」と言うことに関してですが、一度ですが、本人は、「自分の中の誰かが命じている」とか言う、「イド」だとか、「エゴ」、多重人格とか、第三者が上から見ているとか、大学の心理学の授業を受けて知識を仕入れたらしく、その聞きかじりを引っ張り出してそんな恐ろしげなことを言っているから、この間、動けなくなる直前、途中で休憩してはどうかとか、もう少しゆっくり歩いてはどうだとか助言をしても、全く聞き入れず、駅近くまで歩いてきてそこで突然ダウンしました。その理由を本人に聞いても、「頭が止めろと命令しているが、体が勝手に動き出す」とか、「頭が命令しても、体に命令が伝わらない」とか、私には全く理解できない、バーチャルな回答しか帰ってこないのです。

正直言って、「糖尿病」「パーキンソン症候群の初期症状」ではないかと恐れていますが、それの方が、他のもっと重篤な病気よりはましかもしれないのですが。25歳なんだから、もう大人で、まともな話が出来るなんて思わないほうがよさそうで、幼稚園生と同等くらいの知能ではないかと思うことも時々あります。時々、寝転がって母親に甘え、「僕、偉いでちよぅ」「もっとやるからね...」など、「児戯的」と言われるような行動が見られます。そうは言っても、その後の行動は全く伴いません。そして、暢気にゲーマーの生活を1日10時間以上続けております。

ゲームについては、医師はどなたも「悪い」とは言いません。私自身も他の依存症に比べて特段に悪いとは思いませんが、中学受験、大学受験の時も、他の2人の子供は自主的にゲームをやめ、勉強をしていました。しかし、本人は、強制的に取り上げないと、ゲームをやめませんでした。大学病院に入院した時、外泊許可が下りて帰宅した時に、無断でPS2を持ち込み、医師に見つかりました。入院中は、携帯電話で1日に2時間も3時間も「寂しい」「寂しい」を連発していましたが、外泊して帰ってきて、親としゃべる暇もおしく、ゲーム機に向かいます。そして、何も無かったようにけろっとして家に居ますが、病院に戻ると、「寂しい」の連発です。ゲームを少し控えたらと言うことを言うと、医師も「悪いとは言っていない」、勝手に判断するな、といって、キーッとなり、殴られたこともあります。それ以来注意はしません。

ゲームの世界でもトラブルがあります。ここ数日機嫌が悪いし調子が悪いので、理由を聞いて見ると、同じチームを組んでいるある人が、やるべきことをやらないのでめちゃくちゃになったので、注意をし、どんどんエスカレートして、喧嘩に発展し、非常に強いけん責的な発言をしたため、収拾がつかないようになり、その後も、それを収めきれず、悩んでいるらしい。ゲームの世界はゲームなりに楽しめばいいのだが、本人にとってはそれだけが他人と触れることの出来る自分の世界だから、大事なんだろうが、何とも理解しがたいことを続けています。

さて、以上について、親の判断では、下記のような状況ではないかと思われます。

・だらしない生活をしているので、体重が健康時70キロ程度であったが、現在100キロ近くになって、運動が出来にくい体力になっているし、体形も余り好ましくない。これが、外出拒否を導いているのか?

・何らかの障害(たとえば、糖尿病)で、空腹時の検出機能が動作せず、従って適切なエネルギー補給などの行動に結びつかないため、エネルギー切れを起こして、急に動けなくなっているのではないか。(糖尿病の負荷検査をすれば分かることだが、本人がその検査を拒否しているし、大学医師も、糖尿病の可能性はないと言っている。また、肝機能障害であると診断している近隣の内科の医師も、特に糖尿病の可能性を示唆しない)

・インターネット・ゲームに1日10時間以上漬かりっぱなしで、それ以外の生活への意欲が喪失されているし、このインターネットゲームでのバーチャルな友人達が唯一の外界との窓になっており、これを取り去ると、外界との干渉が全く無くなる。(このバーチャルな世界では、自分は負担の少ない、「女の子のキャラ」になっている)

・社会的引き籠りからの脱出の意欲は全くみられず、口では「何とかこの生活から脱出したい」「この状態から抜け出たいと一番思っているのは自分である」「それが出来ない苦しみを分からないのか」と言い、時に怒るが、実際の行動は伴わず、1日後にはそのようなことを口に出したことすら忘れて、「ゲーム漬け」の生活を何の「懊悩」も無く続けている。

・リーマスは今年になってから大学病院医師が投薬を開始したものであるが、それ以前は、「レボトミン」「ヒルナミン」などの鎮静剤(5mg程度)を、いらいら時に服用する頓服投薬であったが、親への暴力沙汰が月1回程度発生するので、リーマスの朝夕定時投薬になり、暴力沙汰は収まっているが、いらいらを抑えきらないことも頻発し、夜間、夢を見て、「壁を数回〜10数回殴りつける」ような興奮状況になることもある。幸い、リーマス投薬後は覚醒時には暴力沙汰は起こっていないが、両親は、発言・行動に非常に気を使い、息子の気に障らぬようにする必要があるのが実情です。
多少、自主的な外出を勧めたり、自分での生活を見直し、医師の生活指導に沿った生活をするようにとの発言すら「はばかられる」状況である。(暴力沙汰を引き起こす可能性が大であり、力のある息子に殴られたことが実際数回ある。)

・息子は、いわゆる「良い子」の生活を小学校から大学まで継続して送ってきており、それ以外の生活を知らないし、出来ないと思われる。第2次反抗期を経過した上の二人の子供は、厳しい会社生活を何とかやりくりして過ごしているが、「良い子」を通してきた息子にはそれだけの耐性が無い。この世代の共通的な現象ではないだろうか?また、運動などをやる時は、徐々に段階的に増やすのではなく、どんと増やし、徹底的にやるので、ダウンし、二度とそれをやることは無い。

以上、長くなりましたが、質問は

(1)このような状況から判断し、本人の「病名」は、「回避性人格障害」が適切なのでしょうか。それとも他の病気なのでしょうか? (統合失調症の可能性もあるようにも感じます。)

(2)外出先での「急なダウン」が頻発しているが、その原因はどのようなもので、どのように診断を進めてゆけばよろしいでしょうか?また、ダウンした時、本人ないし、親としてどのように対応をすれば良いでしょうか?

(3)今後の生活指導として、社会的引き籠りについての本などによると、30歳を節目に、生涯を見越しての処置・対応を考えるようにとの記載がありますが、どのような対応が可能でしょうか。それとも、「社会的引き籠り」ではないのでしょうか?(単なる逃避では?)


: 現時点では、回避性人格障害と考えざるを得ないでしょう。ただしこれは暫定的な診断です。あなたがおっしゃるように、統合失調症(精神分裂病)の可能性もかなりあると思います。また、神経内科的な病気も否定できません。したがって、まずは入院して検査を受けるという方針は正しいと思います。検査の結果、神経内科的な病気でないということになって初めて、回避性人格障害や統合失調症(精神分裂病)の診断を考えていくというのが正しい診断手順です。

神経内科的な病気を疑う理由は、「急に動けなくなる」という症状を繰返していることです。このような症状からまず考えられるのは、
周期性四肢麻痺 (しゅうきせいししまひ)
ギラン・バレー症候群 (Guillain-Barre)
間欠性跛行 (かんけつせいはこう)
などです。あなたが心配しておられる糖尿病の関連も考えられます(空腹時血糖が正常ということだけでは、糖尿病でないとはいえません)

 もっとも、メールに書かれている、動けなくなる時の描写を読んだ限りでは、どの病気も少しずつあてはまらない点があります。が、確実にそうでないということを言うためには、やはり入院しての検査が欠かせません。たとえばギラン・バレー症候群の診断には、髄液検査が必須です。糖代謝の関連では、やはりブドウ糖負荷試験が必須で、この検査を拒否していては診断はつかず、命に関わることになりかねません。
それから、入院のもうひとつの意義としては、入院中に動けなくなるという症状が出て、医師に診察を受ける機会があれば、正確な診断の可能性はそれだけ高まります。この時の神経所見(反射や麻痺など)を見ることは、診断上大きな意義を持っています。

以上のように、まずは入院して検査を受けることが必要ですが、その結果神経内科的な病気ではないということになれば、今後こそ精神科での診断ということになります。

この回答の最初に、「現時点では、回避性人格障害と考えざるを得ないでしょう」とお書きしたように、今の時点での診断はなかなか難しく、慎重に経過を見ていく必要があると思います。というのは、統合失調症(精神分裂病)の疑いが否定しきれないからです。

ひとつは、動けなくなった時の本人の説明です。

「なぜ動けなくなったか?」と言うことに関してですが、一度ですが、本人は、「自分の中の誰かが命じている」とか言う・・・
「頭が止めろと命令しているが、体が勝手に動き出す」
「頭が命令しても、体に命令が伝わらない」


この表現は気になるところです。「自分の中の誰かが命じている」という表現は、誰でもたとえとしては使うことがありますので、文字だけでは判断が困難なのですが、これを単なるたとえではなく、本当の意味で(ここが難しいのですが)自分の意志とは関係なく体が動くと言っているのであれば、それはさせられ体験ということになります。させられ体験であると判断されれば、これは統合失調症(精神分裂病)にかなり特有の自我障害のひとつです。

それから、児戯的な言動です。

時々、寝転がって母親に甘え、「僕、偉いでちよぅ」「もっとやるからね...」など、「児戯的」と言われるような行動が見られます。

上記はもちろんですが、生活全般にわたって、退行している様子が窺われます。このような形で統合失調症(精神分裂病)が発症することもあります。
もっとも、このような退行は、未熟な人格とまとめることも可能です。

息子は、いわゆる「良い子」の生活を小学校から大学まで継続して送ってきており、それ以外の生活を知らないし、出来ないと思われる。第2次反抗期を経過した上の二人の子供は、厳しい会社生活を何とかやりくりして過ごしているが、「良い子」を通してきた息子にはそれだけの耐性が無い。この世代の共通的な現象ではないだろうか?また、運動などをやる時は、徐々に段階的に増やすのではなく、どんと増やし、徹底的にやるので、ダウンし、二度とそれをやることは無い。

あなたのこの解釈も否定できないところです。
ただし、このような心理的、あるいは社会的な解釈は、どんな場合でも可能ですので、解釈そのものがもっともらしいからといって、それと決めてしまうのは危険なことでもあります。成長の環境などがからんだ心理的な問題で、したがって病気とは言えないと思っていた症状が、実は統合失調症(精神分裂病)の発症だったり、あるいは神経内科的な病気だったりということもあるものです。そしてこれらの病気だった場合は、早期の治療が必要になります。

以上まとめますと、現時点では診断についてはっきりしたことは言えませんが、様々な病気の可能性を視野に入れて、慎重に経過を見ていくべき時期だと思います。


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