精神科Q&A

【0607】アルコール依存症の治療は断酒会だけで出来るのでしょうか


Q: 50代後半の父についての質問です。
父は若い頃から酒好きで、毎日の晩酌は欠かしたことがありませんでした。
自営業者なのですが、ここ何年も経営状態は思わしくなく、現在では、利益はまったくでていない、いつ倒産してもおかしくない状態です。
そんな中、だんだん酒量が増えてゆき、先日とうとうアルコール性脂肪肝・急性肝機能障害により入院し、一時はガンマGTPが2千を越え、血小板が2万まで下がり、医師からは命が危ないと言われました。

幸い命は取り留め、肝機能も驚くほど良くなってきているのですが、本人はあまりに簡単に(数日の断酒で)肝機能が回復した為か、離脱症状があまりなかった為か(これについては本人は何も言わないのでわかりません。でも、入院翌日に会った時は、常に落ち着きがなく、人よりも汗をかいているような状態でした。また、医師から鎮静剤を投与されています。)、医師からの「断酒」の申し渡しもあまり真剣には受け止めていないようで、いまから退院後の再飲酒についてとても心配な状況です。

何とかして本人に「アルコール依存症」の治療を受けさせ、断酒を本心から決心させたいと思い、先日母が一人で国立総合病院の精神科に相談に行ったのですが、そこではもっと重篤な精神障害(幻覚などをみて暴れるほど)に至った患者しかみておらず、それより軽い症状の患者は、断酒会などに参加しながら自分で頑張るしかない、ということを言われたそうです。

最近の父は、酒に酔って翌日連絡もなしに仕事を休んだり、常に酒臭かったり、顔は赤ら顔でしゃべると語尾がはっきりしなかったり、入院一週間前からは、仕事もせず朝からずっと酒を飲んでいたようです。
ここまで酒浸りだった父が、3週間そこそこの入院で家に戻って、そして、断酒会に参加したとして、それだけでアルコール依存症から回復できるものなのでしょうか? 専門家の指導は受ける必要はないのでしょうか?


: あなたのお父様はアルコール依存症だと思います。今回は一命をとりとめたようですが、次にアルコールを飲み始めれば、今度こそ生命にかかわることになるでしょう。あなたのご質問にあるように、専門家の指導を受けることはやはり必要でしょう。しかし、断酒会だけでは回復できないかというと、そうとも言い切れません。あなたのお父様を取り巻く現状では、断酒会にしっかりと通うことが回復につながる唯一の方法かもしれません。ぜひ断酒会に定期的に通えるよう、ご家族が援助してください。

うつ病の相談室の87ページからにも書きましたが、精神科であってもアルコール依存症の治療や対応はできない所が多いというのが現状です。あなたのお母様が相談にいらした病院の精神科で、

そこではもっと重篤な精神障害(幻覚などをみて暴れるほど)に至った患者しかみておらず、それより軽い症状の患者は、断酒会などに参加しながら自分で頑張るしかない、ということを言われた

ということは、この精神科ではアルコール精神病は扱うけれど、アルコール依存症は対応できないということでしょう。アルコール依存症は、数からいっても非常に多い疾患ですから、この病院のように対応を放棄するようでは精神科として問題だと私は思うのですが、そんなことを言っている間にお父様の病状は悪化していきますので、現実的な対策を考えなければならないでしょう。それは、断酒会を信頼することだと思います。

精神科でアルコール依存症の治療をする場合でも、断酒会やAAなどの自助グループにも通うことを勧めるのはごく普通のことです。精神科通院だけを続けた場合と、断酒会だけを続けた場合を比較すると、どちらのほうがアルコールをやめられる率が高いかは、実は微妙なところなのです(比較した研究はいくつもあります)。ということは、人によっては精神科に通うよりも断酒会に通ったほうがいい場合もあるということです。

もっとも、お父様の場合は、体の障害もかなり重篤のようですので、断酒会だけを続けて何とかしようというのは危険なことは確かです。ですから本来なら病院でアルコール依存症の治療を受けつつ、断酒会にも通うというのが望ましいのですが、ないものねだりをしても何も解決しませんので、体の方は内科でとりあえず診てもらいながら、断酒会を続けるというのが現実的には最善だと思います。


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