精神科Q&A

 【0576】生涯抗うつ薬を飲むようにいわれました。妊娠はあきらめるべきでしょうか。


Q: 35歳女性です。3年前に実母が脳梗塞で倒れ、その介護などのために私は心身共に疲労し不眠となり、うつ病と診断されました。

 父が長くうつ病に悩まされ、何度も再発し最期は自殺してしまったという悲惨さを見ていただけに、この病気についての知識はありましたので、不眠の症状が出た時点ですぐに受診し、薬の服用も始めました。父だけではなく、父の家系には私が知っているだけでも少なくとも4人に同じ病気が現れていますので、遺伝的要素が強いのではないかと思い、結婚をためらっていましたが、理解してくれる方に出会え、昨年結婚しました。
 私のうつ病は、何度かの揺り戻しもあったのですが、一人ではないという心の拠り所ができましたためか何とかやれています。現在のところは良い状態を維持しています。

 ご相談したいのは、薬を生涯飲み続けなければならないのでしょうかという点です。現在はトレドミン25mgを6錠、デパス3mg、睡眠時にはレンドルミン、ハルシオンを処方されており、月1回の通院です。副作用はありませんが、便秘時にそなえて頓服が出されています。これらの薬をいつまで服用すべきなのか医師に尋ねますと、「やめない方がいい」との返答でした。セカンドオピニオンの医師も同様の回答でした。明確な根拠があるというのではなく、遺伝的な要素が強い場合は発症率が高く且つ再発者も多いのでしょうからその点で判断されたのではないかと思いますが、やはり生涯必要なのでしょうか?

 というのも、夫には子どもが欲しいという願望があります。私は無理と答えていますが、生涯服用が必要というのであればやはり諦めなければならないのではないかと考えています。医師は妊娠3週から3か月の期間だけ服用を中断すれば大丈夫といいますが、よほどの計画出産でない限り、普通は妊娠に気づいた時点で2か月くらい経過していると思います。やはり妊娠はあきらめたほうがいいのでしょうか。


: 妊娠をあきらめる必要はないと思います。一定期間薬を中断して、妊娠を計画されていいと思います。

 一般論としては、あなたのようなケースでは、生涯飲み続けるほうが安心だということは確かです。うつ病の中にはあなたのケースのように遺伝要因が強いものもあり、その場合は再発を繰り返す確率が高いからです。再発を予防するもっとも確実な方法は、抗うつ薬を飲み続けることです。

 しかし、人生の中のある一定の期間だけ計画的に中断することまでが絶対に危険とまでは言い切れません。
 薬によってはそうはいかないものもあります。たとえば重症な糖尿病ではインスリンを、たとえごく短期間でも中断することはできません。重症な高血圧での降圧薬も同じです。
 しかし、うつ病がいったん治ったあとに飲む抗うつ薬は、再発の防止のために飲み続けるものですから、文字通り厳密に「続ける」ことが必要というわけではないのです。胎児への影響を考えますと、あなたが理解されているように、妊娠3週間から3ヶ月の間だけ中断すればまず問題はありません。(これに関しては、【0032】【0552】や、うつ病の相談室p.101をご参照ください)

よほどの計画出産でない限り、普通は妊娠に気づいた時点で2か月くらい経過していると思います。
というあなたの文章で、「よほどの」という言葉でどの程度のことを考えておられるのか不明ですが、「よほど」かどうかはともかく、ある程度計画的に妊娠をされれば、リスクを最小限にすることができるでしょう。

 なお、再発予防のために抗うつ薬をずっと続けるべきかどうかを判断する基準として、うつ病になったときの症状も考慮するべきです。すなわち、いったん発症すると急激に悪化して、自殺の危険が急速に高まるタイプの場合は、短期間でも中断は危険と考えられます。あなたのうつ病の症状がどのようなものであったか、記載されていないので不明ですが、この点も十分ご考慮ください。


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