精神科Q&A

【0545】Brief Psychotic Disorder (短期精神病性障害)の早すぎる社会復帰


Q: 主人の兄(アメリカ人、30歳)が1ヶ月前に日本へやって来たのですが、着いて2日目から様子が変わってしまい滞在2週間でアメリカへ返しました。
 まず、夜眠らなくなり睡眠時間は2時間で妄想や幻覚幻聴が出て自殺も口にするようになり、騙すようにしてやっと帰国させました。病院に通院してちょうど1ヶ月ほどになり、状態がほぼ以前と変わらなくなったという事で通院も薬ももういらないと医者に言われたそうです。病名はBrief Psychotic Disorderだそうで、今いち私には統合失調症との違いが分かりません。国によって治療等違いがあるのかもしれませんが、こんなに早く治療が終わる事はあるのでしょうか。症状がひどい時はとても攻撃的で自身過剰で金銭感覚がなく、字も読めませんでした。また長く薬物(カナビス)を常用していたらしく、これも関係しているのではないかと思います。本人は病気の深刻さが分かっておらず、また近いうちに日本に来る気でいます。こんなに早く社会復帰させる事ってあるのでしょうか。本当にもう通院も薬もいらないのでしょうか。

: Brief Psychotic Disorder (短期精神病性障害)は、DSM-W (アメリカ精神医学会の診断基準)にある診断名で、ごく単純にいうと、症状そのものは精神分裂病(統合失調症)にそっくりで、ただしそれが1ヶ月未満で完全に回復した場合につけられる診断名です。確かにこういう病気はあります。つまり、一見するとどこから見ても精神分裂病(統合失調症)としか考えられない症状の人が、ごく短期間に完全に良くなってしまい、その後はなんの治療も必要としないというケースです。(【0237】にも解説があります)

 しかしその一方で、同じようなケースで、ごく短期間に完全に良くなってしまったものの、しばらくするとまた精神症状が再発してきて、精神分裂病(統合失調症)という診断がはっきりする場合もあります。この場合は、ふりかえってみれば、最初の症状はやはり精神分裂病(統合失調症)の初発だったということになります。

 したがって、一ヶ月未満で精神症状が完全に回復した場合には、もう何の治療も必要としない場合もあれば、精神分裂病(統合失調症)としての治療を必要とする場合もあるということになります。そして、そのどちらであるかは、経過をみなければわからないということになります。ですから、最初の時点では短期精神病性障害と診断する以外にないのですが、その後も慎重なフォローアップが必要になります。

 それは、すぐに社会復帰させてはいけないという意味ではありません。社会復帰自体は、早ければ早いにこしたことはないでしょう。ただ、同時に、症状の再発に注意を向けた観察が必要だということです。ですから、薬を飲むのは中断するにしても、通院は続けたいところです。

したがって、
通院も薬ももういらないと医者に言われた
とのことですが、「薬」はともかく、「通院」についてのこの見解には賛同できません。

 ただし、この医者の言葉の背景には、アメリカの医療制度が関係しているのかもしれません。アメリカでは、治療が適切かどうかを決めるのは基本的には保険会社です。つまり、病名ごとに適切な治療の範囲がはっきりと決められていて、それ以上のことを行えば過剰診療であると保険会社が判定し、医療費は支払われません。短期精神病性障害 Brief Psychotic Disorder と診断がついた場合には、一ヶ月以内の治療しか認められていないのかもしれません。とすれば、「薬も通院もいらない」というしかないのでしょう。

 なお、お義兄さまが長く常用されていたカナビスとの関係も、ご指摘のとおり気になるところです。もしこの精神症状がカナビスのためであると判断されれば、短期精神病性障害という診断名ではなくなりますので、主治医はカナビスとの関係はないと判断していたと考えられます。実際には、過去に常用していたドラッグと精神症状の関係の有無の判断は難しいことが多いので、その判断のためにも、本当なら通院が必要だと私は考えます。しかし、これも医療制度上不可能となれば、残念ながらどうすることもできないことです。

 ですから、現実的な対応としては、お義兄さまの様子をよく観察されて、精神症状再発の兆候があればできるだけ早く病院を再受診することだと思います。おそらく精神分裂病(統合失調症)という診断名になれば、アメリカの病院の対応も変わってくるのだと思います。


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