精神科Q&A

【0540】アメリカで精神病になった姉への対処の仕方


Q:  姉は現在36歳で、アメリカ人の御主人と娘との3人でアメリカで暮らしています。5年前渡米して1ヶ月で精神病を発病しました。

 その時は長女を出産直後という事もあり、育児のストレスとアメリカでの生活を始めたばかりの疲れかと思われました。

 主な症状としては幻聴(複数の男女の日本語と英語)と妄想です。

 最初の頃は薬を飲んで2〜3日で声が消えていた事もあり、症状が出た時には自分で病院へ行き薬をもらっていましたが、2年前から薬が効かなくなり、「自分は病気ではない」と確信したようです。

 妄想の方は、何者かが自宅に侵入して家の中の物を動かしたり盗んでいるというもので、証拠をつかむために玄関にテープレコーダーを置いて録音しています。

 又、自分はFBIやCIA等の組織に狙われている。何故自分を狙っているかというと、自分は日本人で英語が不自由だからと思っているみたいです。

 病院の方ではschizophrenicsとschizoaffectiveと診断され、ZyprexaやSeroquelを処方されていましたが、一番最近の入院(1年前)でDelusional Disorderと診断されてAbilitを処方されました。

しかし彼女は
「病院は保険料を徴収する為に、病気でもない私を病気としている」
と思っています

 薬は3週間以上飲み続けた事はありません。

 ここ何ヶ月かは、御主人との口論の時や突然暴力をふるう事もあるようです。

 子供に手を上げる事はないのですが、自分が妄想にとらわれている間は面倒をみる事ができません。躁状態の時と妄想にとらわれている間が周期的に訪れています。

 今私達が悩んでいる事は、彼女に対して家族はどう接すればいいのかという事です。

 何か彼女が考えている妄想の事を言われた時には何と返事をすればいいのか?

 彼女を病院に通わせるためには何と言えばいいのか?

 躁状態と妄想の激しい時のどちらが通院を勧めるにはいい時期なのか?

 不安定な状態の母親と暮らしていて子供に影響はないのか?

 御主人も大分精神的にまいっているようです。私達は彼の負担を少しでも軽くしてあげたく、何か少しでも力になれるアドバイスをしてあげたいと思っています。


: お姉さまの病名としてこれまで告げられた、schizophrenics, schizoaffective, delusional disorderは、バラバラの病名のようですが、いずれも「精神分裂病圏」という意味では共通しており、治療は抗精神病薬が中心になります。この三つの診断名は、もちろん本当は違いがあるのですが、メールの内容からはどれが正しいかという判断は難しく、また治療的にはどれも大きな違いはありませんので、ここでは診断名にはこだわらず、「精神分裂病圏」の病気として回答いたします。(一応は最初に告げられた病名であるschizophrenics精神分裂病(統合失調症)としてお答えします。また、「メールの内容からはどれが正しいかという判断は難しく」といったばかりですが、あえて判断すれば精神分裂病(統合失調症)がもっとも考えられると思います)

 精神分裂病(統合失調症)が、出産をきっかけにして発症するのは時々みられることです。もっとも、出産後は一過性に精神症状が出ることがありますので(産褥精神病あるいは産褥期精神障害といいます。たとえば【0080】)、すぐに診断をくだすことはできないのですが、お姉さまのように何年も症状が続いていれば、産褥精神病ではなく、出産をきっかけに発症した精神分裂病(統合失調症)ということになります。

 そしてお姉さまのケースでは、薬物治療が始められました。これはごく普通の対応です。そして、少なくとも最初は薬がよく効いていた。これもごく普通のことです。

 ところがその後、薬が効かなくなったと書かれています。すなわち、

 2年前から薬が効かなくなり、「自分は病気ではない」と確信したようです。
という記載です。

 実際にはこのようなケースでは、薬が効かなくなったのではなく、薬を飲んでいなかったということがほとんどです。ある時期から急に薬が効かなくなるということはほとんど考えられません。お姉さまが、「自分は病気ではない」と確信したのは、薬が効かなくなったからではなく、

薬を飲まない → 症状の悪化 → それに伴う病識の欠如

という経過だった可能性が非常に強いと思います。これも、精神分裂病(統合失調症)の経過の中ではよくあることです。

 精神分裂病(統合失調症)の多くは、抗精神病薬をきちんと飲み続けていれば、かなり安定するものです。ほとんど無症状になる方もたくさんいらっしゃいます。今のお姉さまの状態は、明らかに薬を飲まないことによる症状の悪化です。つまり逆に言えば、薬をきちんと飲めば改善できるはずです。

躁状態の時と妄想にとらわれている間が周期的に訪れています。
躁状態と妄想の激しい時のどちらが通院を勧めるにはいい時期なのか?


と書かれていますが、お姉さまのケースでは、躁状態のように見えるときは、妄想も強くなっているときだと思います。ですから本質的にはどちらの状態も同じです。このふたつの症状が周期的に訪れている、というのは、表面上そう見えるだけでしょう。ですからどちらが通院をすすめる時期としていいかということはありません。どちらにしても、薬物療法を開始する以外に方法はなく、またこれまでの経過からいって、薬物療法の効果は十分期待できます。ご心配されているように、このままではお子さんの成長への悪影響が心配です。

不安定な状態の母親と暮らしていて子供に影響はないのか?
というご質問ですが、それに対する答えはもちろん「大いに影響があります」になります。

 薬物療法といっても、単に精神科を受診して薬を処方してもらうだけでは、同じことの繰り返しにすぎず、改善は期待できないでしょう。現地の医師によく相談し、実効ある対応をしてもらってください。治療をきちんと受ければ、症状は相当よくなると思います。


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