精神科Q&A

【0524】統合失調症と思われる友人の電話にどのように対応したらよいのか


Q32歳女性です。私の友人(32歳女性、かりにF子とします)のことで相談したくメールを書いています。病気の友人にどのように対応したらよいのか教えてください。

 F子とは大学の山岳部で同期になって以来の長いつき合いです。彼女は、もとはどちらかというとおとなしい控えめな性格でした。
F子は大学3年生の時の山岳部の合宿中(人のいない奥深い山の中で総勢5人の女性のみのパーティで入山)でサブ・リーダーを務めている時、突然様子がおかしくなりました。
当時、私は別の山で別のパーティを率いていたので、F子と同じパーティだった別の友人から聞いた話しになります。
 それによると、F子には「お前のせいでみんな(山岳部の仲間)が全員死んでしまった」という声が聞こえ、F子自身もこの幻聴を信じており、まず恐怖を訴えてテントから外に出られなくなり、そのうち叫んだり暴れたりして手がつけられなくなりました。
部の本部からご両親に連絡が行き、F子は合宿途中から抜けて、以後長いこと入院していました。退院後、直接本人から「みんな私のせいで死んじゃったと思っていた、どうして会いにきてくれなかったの?会えば、みんな元気だとわかって安心できたのに」と問いただされました。(面会は家族の方から拒絶されていたのですが)
病名は未だにはっきりとは知りません。(貴サイトを読みますと、おそらく精神分裂病ではないかと思われるのですが、いかがでしょうか?)

 その後F子は復学して卒業し、就職もしました。就職した直後は、なんというか、精神的にひどく高揚しているというか、やたらに陽気で、「ハイになっている」というのがぴったりの状態だったのですが、その後どん底に落ち込んで、ひどく鬱になってしまいました。
 そして就職後一年ほどでまた様子がおかしくなって退職し、以後は入退院を繰り返しています。
 いろいろなお稽古事に手をだしたり、たまにアルバイトなどもしているようですが、すぐやめてしまいます。定職にはついていません。何事も長続きしないことをとても苦にしています。
 薬をたくさん服んでいるようで、いつも半分眠っているような、ぼんやりとした感じです。そしてとても太りました。
 2年前に病院で知り合った患者さんと結婚しましたが、結婚後1年ほどでまた病気が悪化し、その後半年間入院し、退院したと思ったらこんどはご主人が入院してしまいました。

 私は結婚してからずっと海外で暮らしており、F子とはもう5年ほど直接会っていません。
 しかしF子が結婚する前後から、入院期間中をのぞいて、時々(場合によってはかなり頻繁に)電話がかかってくるようになりました。
 時差の関係で、日本の真夜中がこちらでは夕方なので、F子は眠れない時かならず私に電話をかけてきます。不眠に苦しんでいるのです。
 私自身は、仕事も育児もあって忙しい身なのですが、時間が許す限り、F子の話につき合っています。国際電話で先方の電話料金が気になるので、長くとも一時間ぐらいで無理矢理切り上げるようにはしています。こちらから切り出さないと、何時間でも話し続けそうな勢いなのです。
 薬のせいでしょうか、F子はろれつがまわらなく、彼女の言っていることの半分くらいしか私には聞き取れません。
 それで、ほとんど適当にあいづちをうっているだけで終わるのですが・・・。

 電話で話している限りでは、F子の症状はどんどん悪化しているように感じられます。
とにかく電話魔で(病気になる以前はまったくそんなことはありませんでした)、手当たり次第いろいろな知人に電話をかけまくっているようなのですが、実家などに電話して電話番号を教えてもらえないことがあるといって憤慨しています。
 電話以外にもいろいろ常識に外れた行動があるようです。たとえば見知らぬ家の呼び鈴を押したい衝動にかられ、実際に押してしまったとか、夫婦喧嘩して家を飛び出し、タクシーに乗ったら帰りの電車賃すらなくなってしまったとか、先日はパジャマで駅までいって、見知らぬ通行人に卑猥なことを話しかけて、警察に通報されたと言っていました。
 なにもかもすべて捨てて、衝動的に飛行機に乗って私のところに逃げていきたいと言ったり、先日は日本時間の夜中の2時に、彼女の家から2時間ほどの繁華街の公衆電話から電話してきました。

 こういう電話の相手をしていて、どのような受け答えをすればいいのか、とても困ることがあります。
 彼女が常識とははずれた行動をとったときに、「そんなことはするべきではない」とはっきり指摘してもいいのでしょうか?
 それとも、ただたんに「大変だったね〜」などと、何もいわないのと同じようなお茶を濁した返答をしたほうがいいのか?
 私が不用意に言った一言でF子の病状が悪化することはないのでしょうか?
 あるいは、夫婦の問題などについてアドバイスを求められた時、ほんとうに正直に私の考えを述べても差し支えないのでしょうか?(たとえばF子は子どもを欲しがっていますが、私は今の状態では彼女ら夫婦に子どもを育てるのは無理だと思っています)
 F子と長話をすること自体、彼女にとって良いことなのでしょうか?

 最後に、F子はとても私に会いたがっています。
 たまたま来年、日本に一時帰国する予定があるのですが、そのときF子に会うべきか会わないべきか、迷っています。
 正直言って、会うのが怖い気持ちがあります。
 でも会った方が彼女にとって良いことなら、会おうと思っています。


: F子さんは、あなたのおっしゃるように、精神分裂病(統合失調症)だと思います。20歳代前半に、ストレスのかかった状況で発症した、というのはまず典型的なパターンです(これは、ストレスが「原因」という意味ではありません。ストレスはきっかけと考えるべきでしょう)。精神分裂病(統合失調症)発症後の経過は人によってさまざまです。比較的すぐによくなる人もいれば、よくない経過になる人もいます。F子さんは、残念ながらよくない経過のほうに入ってしまっているようです。入院期間は長く、薬もかなり多く飲んでおられるようですが、それでもあなたがお書きになっているような行動が頻繁に見られることからそう判断できます。入院期間は短いにこしたことはなく、薬も少ないにこしたことはないのですが、F子さんのような状態ではやむを得ないでしょう。こういう方を見ると、精神分裂病(統合失調症)のことをあまり知らない方の中には、薬が原因ではないかと考える人もよくいらっしゃいますが、それは間違いです。薬がなければ、F子さんはおそらく一生入院を続けることになったでしょう。また、薬のない時代には、もっと悲惨な人生になっていた患者さんがたくさんいたのです。

 F子さんのような症状の方の対応は難しいので、あなたがお悩みになるのも理解できます。けれども、F子さんにとっては、友人であるあなたが大きな支えになっていることも是非ご理解ください。その一方で、友人といっても他人のできることには限界があるのも事実です。以下、あなたのご質問に対し、現実的な回答をいたします。


彼女が常識とははずれた行動をとったときに、「そんなことはするべきではない」とはっきり指摘してもいいのでしょうか?
それとも、ただたんに「大変だったね〜」などと、何もいわないのと同じようなお茶を濁した返答をしたほうがいいのか?

→ お茶を濁したほうがいいことが多いです。ただし病状がある程度よい時期であれば、むしろはっきり指摘したほうがいいでしょう。もっとも、病状の判断はなかなか難しいので、実際の場面では迷うことと思います。「ほとんど適当にあいづちをうっているだけで終わる」とお書きになっていますが、それでも話し相手になることは、F子さんの安心につながっていると思います。


私が不用意に言った一言でF子の病状が悪化することはないのでしょうか?
→ あります。けれども、それをあまり気にしすぎないほうがいいと思います。気にしすぎると何も言えなくなってしまいますし、そもそも会って話すことを避けることにもつながりますので。悪化させることをおそれるあまり接触を避けることは、かえってF子さんにとって悲しいことだと思います。


あるいは、夫婦の問題などについてアドバイスを求められた時、ほんとうに正直に私の考えを述べても差し支えないのでしょうか?(たとえばF子は子どもを欲しがっていますが、私は今の状態では彼女ら夫婦に子どもを育てるのは無理だと思っています)
→ 本当に現実的な問題(たとえば今あなたが言われた子どもの問題など)については、正直におっしゃっていいと思います。(もちろんそれによってF子さんが怒ったり、病状が悪化する可能性はあります。しかし、すべて本人の希望にかなう意見を言うのは、アドバイスではありません。)


F子と長話をすること自体、彼女にとって良いことなのでしょうか?
→ もちろん「長話」の程度によりますが、話し相手になることは良いことです。あなた自身の時間も考慮したうえで、どの程度までつき合うかをお決めください。


最後に、F子はとても私に会いたがっています。
たまたま来年、日本に一時帰国する予定があるのですが、そのときF子に会うべきか会わないべきか、迷っています。
正直言って、会うのが怖い気持ちがあります。
でも会った方が彼女にとって良いことなら、会おうと思っています。

→ お会いになったほうが、F子さんにとって、総合的には良いことだと思います。「総合的には」という意味は、ここまでの回答の内容の通り、病状を悪化させるなどのリスクはあるということです。リスクはあっても、プラスとのバランスを総合的に考えれば、良いことだと思います。


 以上、あまり役に立たない回答と思われたかもしれませんが、これが現実というものです。また、F子さんの病状によって、この回答は変わってきます。病状がある程度以上悪い時期には、かなり細心の対応をしてもうまくいかず、残念ながら入院以外に方法はないこともあります。
 さきほどの繰り返しになりますが、あなたがF子さんの支えになっているということをご理解のうえで、この回答を参考にしてみてください。


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