精神科Q&A

【0444】内科医である夫がインターフェロンの副作用で精神障害になりました


Q 32歳内科医(消化器内科)の主人について質問いたします。妻である私は33歳の内科医(呼吸器内科)です。主人も私も同じ大学病院に勤務しております。

 主人は一ヶ月前の深夜にパニック発作を起こし、精神科に入院しました。今も入院中です。

 パニック発作の内容は、まず恐ろしい地獄のような夢を見て、自分は自殺しなくてはならないと思いこみ、それが恐ろしくてパニックになり、叫び声をあげてから、ぶつぶつと同じ事を呪文のように何度も繰り返し言い、また神の声が聞こえるといってその神の声に従って行動しなければという強迫症状があり、普段の彼なら決してしないようなことをするといって聴かなくなり制止するのが大変でした。

 その時以来、主人は、言葉が悪いですが、正常と狂気のラインを超えてしまい、ずっとこちらの方へは戻ってこなくなりました。

 発症の原因は、恐らく、半年前から始めたC型肝炎の治療としてのインターフェロンの副作用と思われます。主人は消化器が専門のため、毎日のようにたくさんの肝炎の患者さんに接していますので、採血や肝生検の際に感染してしまったのでしょう、なんとなく疲れやすいという日々が続いていたので検査してみたらC型肝炎にかかっていたのです。

 インターフェロンには副作用があることは承知しておりましたが、主人のそれまでの治療経験では実際にインターフェロンで精神症状が出た患者さんは一人も見たことがないし、それにC型肝炎を放置すれば肝癌になる可能性も高いことなどを考え、夫婦でよく相談したうえ、勤務先の大学でインターフェロンの治療を開始してもらいました。24週の予定でした。ところで上記の症状のため、予定のほぼ半分の時点でインターフェロンは中止となりました。

 単なる副作用としての精神障害であれば一過性のもので、インターフェロン中止後、まもなくおさまるとのことでしたが、主人の場合はインターフェロンが気分障害発症の引き金となってしまった可能性が高く、長い目で見た治療が必要だといわれています。

 私の気付いた病気のサインは、インターフェロンを初めて二カ月後くらいで、些細なことで肩を振るわせて泣き出してしまうといった軽いうつの症状があり、そこでインターフェロンが中止となりました。

 そうなってから本人も自分自身の少し前からの変化に気付き始め、そういえば一ヶ月前くらいから集中力や根気が急になくなってきたと言っていました。主人は外来診療日は昼食もとらずに朝から午後4時ころまでやっているのが常なのですが、どうも昼ころになると集中できなくなってきて休憩をとらないと続けられなくなったと言うのです。私はそれを聞いたときに、年とったからじゃないのと冗談を言っていたのですが、その時に本人の口から休職した方がいいのかなという発言があったのでただごとではないと思い心配して主治医に相談したところ、インターフェロンを中止したのだからもう少し時間が経過すれば症状も治まってくるのではないか、様子をみましょうということになり、軽い安定剤を処方され、インターフェロンが抜け症状が治まるのをはらはらしながら見守っていたところでした。

 その後すぐに、仕事が楽しくこれまでになかった充実感が得られるというようになり、私が何を言っても仕事を休んでくれなくなりました。いま冷静になって考えると、これは躁状態に転じたのだと思いあたります。冒頭にお書きしたように、深夜にパニック発作を起こしたのはその一週間後でした。それから、入院生活が始まったのです。

 そして、この躁状態の時に、私(妻)のとった行動が違っていればここまで彼の病状を悪化させることはなかったのではないかと、彼が狂気の世界に入ってしまうことはなかったのではないかという恐ろしい自責の念があの時以来私の胸の中にずっとあります。
今日質問したかったことのひとつがそこにあります。

 そもそも、インターフェロンを初めて二カ月くらいの時に起こったうつの軽い発作(孤独感に怯え声をあげて泣き出した)も、私が彼の考えを自己満足だ、人を差別していると責めた直後のことでした。このような会話は結婚以来普通のことで、お互いに医師としての自分の考えをよく話しよく議論していましたので、彼のいつもとは違う過敏な反応にびっくりしました。

 その後2日くらいはいつになく元気がなかったのですが、すぐに立ち直り(躁に転じ)、自分は肝炎を言葉で治すことができる、と言い始めたのです。いま肝炎の治療として医療で行われていることはすべて無駄で、最近自分は何人もの肝炎の患者さんを、患者さんに言葉をかけることだけで治した、自分はこれを学会で発表し、論文も書くつもりだ。そうすることで日本、いや世界に広めて、肝炎に苦しむ多くの患者さんを救いたい、というのです。そして、肝炎が言葉で治ることがこれまでわからなかったのは、内科医や精神科医の怠慢にほかならない、とさえ言うのです。

 私としては主人のこの言葉にとても違和感と反感を持ったので、仮にあなたの患者さんがあなた独自の方法で治ったのだとしても、肝炎はそもそも安静だけでかなり良くなる病気だから、それはあなたの言葉で治ったのではなく、自然治癒である。医師のくせにそんなことがわからないのはおかしいのではないか、あなたの言うことはエセセラピストと同じではないか、と釘を差すと、今度は、いや違う、自分は、神もしくは神の代理であるから特別な力があると真顔で言い始めました。

 異常と思いましたがそれが病気の典型的な症状とは知らず、そこで私はそれは傲慢だ、そんなことを言ったら怪しい新興宗教と同じではないか、まともな医師の発言とは思えない、と彼の考えをきっぱり強く否定してしまったのです。

 パニック発作が起こったのはその晩深夜のことでした。

 躁になってから1週間ほど、睡眠を自分ではとっているつもりであったようですが、まったくといっていいほど寝ていなかったようでした。

 振り返ってみると、インターフェロンの治療を始めてから徐々に症状が出てきていたようですが、ここまでひどくなる大きなきっかけ(ショック)を私が与えなければ、このように狂気のラインまでは超えずに済んだのではないかと、彼の現在の状態は私の責任であるという思いで、私は押しつぶされそうです。

 振り返るたびに自分達の対応が遅かったり、間違っていた感を強くし、後悔するばかりです。

 現在の症状は、幻覚妄想(自分は神だ、神の声がきこえる、人々を救う使命がある、など)、感情の激変(鬱状態と躁状態を繰り返しています)をはじめとし、不安や落ち着きのなさもあり、それが夜中も続くこともあり、多量の睡眠薬が必要な状態です。また、入院しているのは大学病院の病棟のため、日中も強い鎮静剤を使っていただいている状態です。というのは、そうしないと本人が勝手に外に出て行ってしまうためです。それを防ぎながら治療するためには、閉鎖病棟のある精神病院に転院するか、日中も強い鎮静剤(主治医の先生は「過量気味」と表現しておられました)を使うかのどちらかしかないと説明を受け、私が大学病院での治療継続を希望して今のような治療法をしていただいています。今は薬のためふらつきが強く、トイレにも一人では歩いて行けないほどです。

 現在の治療に疑問があるわけではありませんがひと月経っても正気に戻る気配がなく(現在は全く別の人格になってしまっています)絶望感に苛まれているところです。主人は医師として仕事に復帰できるのでしょうか。主人がこのような状態になって、医療の世界こそ精神疾患に対して強い偏見があふれていることを実感していることも、私の強い心配の基礎になっています。

 教えて頂きたいことは(1)(2)のふたつです。
(1) まずは、回復せず、生涯このように別の人格となってしまったぬけがらのような彼のままで、狂気の中から抜け出せない可能性が高いのでしょうか。
もうひとつは、振り返っても仕方のないことですが、でもきちんと把握しておきたいのです。すなわち、
(2) やはり私の対応の間違いが彼をここまでの症状にしてしまった可能性は高いのでしょうか。

 この先どのように生きていけばよいのか、考える度に絶望感に襲われます。私の気力体力もいつ限界が来るのだろうかと思います。


: まずご質問への回答です:
(1) この症状は回復する可能性のほうが極めて高いです。おそらく何事もなかったようにすっきり治ると思います。
(2) あなたの対応と今の症状は関係ありません。


インターフェロンは、副作用として精神症状が出る可能性が比較的高い薬です。その多くはうつ状態で、うつ病にそっくりの症状が出ることもあります。

 一方、あなたのご主人様の症状は、まず軽いうつ状態から始まり(「集中力や根気が急になくなってきたと言っていました。主人は外来診療日は昼食もとらずに朝から午後4時ころまでやっているのが常なのですが、どうも昼ころになると集中できなくなってきて休憩をとらないと続けられなくなったと言うのです。(中略) その時に本人の口から休職した方がいいのかなという発言があった」がそれにあたります)、その後躁状態になり(「仕事が楽しくこれまでになかった充実感が得られるというようになり」が躁状態の始まりでしょう)、その後強い不安や幻覚・妄想が出てきたという経過で(なお、このとき深夜に起きた発作は「パニック発作」ではありません。気分障害をペースとした不安発作です)、インターフェロンの副作用としては典型的ではありません。しかし、副作用でないとは言い切れません。

 軽いうつから始まって現在までの症状は、主治医の先生がおっしゃるように、ひとことでいえば気分障害(躁うつ病)といっていいと思います。ご主人様のような幻覚、妄想、激しい不安や興奮は、重症の気分障害ではときおり見られるものです。こういう場合、「精神病症状を伴っている」ということもあります。

 けれども、インターフェロンが気分障害発症の単なる引き金になったのか、それとも今の症状もインターフェロンの副作用なのかは、まだ判断できかねるところです。両方の可能性があると思います。

 診断よりも、もっとも気にかけておられるのは、この状態が治るのかどうかということだと思います。それに対する回答は、冒頭に記したとおり、治る可能性のほうが極めて高いです。

 気分障害一般としても、このような激しい症状は、ほぼ例外なくきれいに消えるものです。ある時点で症状が重いからといって、治りにくいということは全くありません。

 ご主人様の場合、インターフェロンの副作用が長引いている可能性もあるわけですから、もしそうなら治る可能性はさらに高いということになります。これが上記(1)の回答です。

 そして、この症状の発症・悪化と、あなたの対応は関係ありません。

 当初みられた軽いうつ状態や軽い躁状態の時期は、たとえていえば、非常に細い塀の上を歩いているような状態だといえます。この時期は非常に不安定なので、ほんの少しのことがきっかけになって、塀から落ちてしまう、つまり激しい症状が出てしまう(あなたの表現を一部お借りすれば、正気の世界から狂気の世界に落ちてしまう)ことになります。

 ですから、あなたの言葉の影響がゼロとは言いませんが、仮にあなたが何も言わなくても、あるいはご本人の安心につながる対応をしても、どこかで何かをきっかけに塀から落ちてしまったことは間違いないと思います。たとえば、「自分が神もしくは神の代理である」と職場で発言した場合、それに対して誰ひとり反発しないとは考えられません。また仮に誰も反発しなければ、徐々に症状は進行していきますので、結果としては同じことだったでしょう。どう対応しても発症は避けられなかったと思います。(唯一、避ける方法があったとすれば、この時点で薬物療法を開始することですが、それは難しい状況であったとお察しします。・・・精神科を受診すると、たとえ軽い症状に見えても服薬をすすめられることがあるのは、こういう背景があります。つまり、激しい症状の発症をとめるには薬しかないことが多いのです)

 以上をまとめますと、冒頭に記したとおりですが、ご主人様の症状は治ると思います。そして初期のあなたの対応がまずかったということはありません。現在のような症状を目のあたりにされると、つい絶望的な気持ちに襲われる方は多いのですが、この症状は一時的なものです。あせらず治療を続けてください。

 

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