精神科Q&A

【0440】一年前に精神分裂病の初期といわれた弟が、はちゃめちゃになってしまいました


Q: 弟は23歳、姉である私は25歳です。弟は友達に紹介された精神病院に連れて行ってもらっていると、一年前に母から聞いていました。その理由を弟に聞いても、「友達の事・・・」としか言わなかったそうです。

 弟は全く問題もないように見えるのに(会話の上でも問題なし)、どうして行っているのか家族は不思議に思いました。しばらくして、精神科の主治医に母も呼ばれたそうです。母はその病院に行って、重度の患者しか居なかったことに驚きました。主治医の先生は、「今は薬で落ち着いていますが、このまま治療を続けていかないといけません。精神分裂病の初期です」と言いきったのですが、実は弟は薬を1粒も飲んでいませんでした。重度の患者しか居ないような病院を紹介された事に母は腹を立てていますが、その先生の判断も信用できませんでした。

 そのまま事は大きくならずに1年たったのですが、最近弟の理解できない様子に、1年前の先生の言葉がよぎりました。今までまじめにしていた仕事も放って、突然行方をくらましては、電話口で泣きながら「俺は弱い弱い・・」と言ったり、帰ってきてからは、自分の意思や考えがまとまってないようで、大事な判断を「めんどくさい、めんどくさい、それでいいんちゃう?じゃあそうしたらいいやん?」しか言わないで済ませます。「野宿は慣れてる、ここで寝る、友達のとこ泊まる」など、葉茶めちゃなことを言って、本当に野宿しようとしていました。「友達のとこ泊まる」と言っていたのですが、夜中の2時でしたし誰も居ないことは家族も知っていました。それだけではなく、今言った発言が、1秒後には正反対の発言に変わっていて、はちゃめちゃでついていけません。

 これは、何か心の病気と関係があるのでしょうか?


: 弟さんは精神分裂病(統合失調症)だと思います。

これまでの経過を振り返ってみますと、

(1) 1年前に精神科受診。ご家族からみると理由ははっきりしない。しかし精神科医からは「分裂病の初期」と告知された。
(2) けれども、その後治療を受けずに放置された。
(3) 1年後の現在になって、理解できない行動が非常に多くなった。(ご家族からみると「はちゃめちゃ」になった)

 精神分裂病の初発症状は、幻覚や妄想が明らかなこともあれば、もっと漠然とした症状、たとえば何となく沈んでいるとか、元気がないとか、ひきこもりがちとかいう場合も多いものです。(たとえば【0404】の方はひきこもりです)。弟さんの一年前の状態(上の(1)の時期)は、それにあたる時期だったと思われます。

 この時期にはなかなか精神科への受診にむすびつきにくく、また受診しても診断がつけにくいことも多いものですが、あなたの弟さんは早期に精神科を受診されていますので、ここまでは非常によかったと思います。受診が遅れると知らず知らずのうちに悪化する(そうするとたとえば【0277】【0380】のような状態も予想されます)ものです。

 そして、弟さんの場合さらによかったのは、その時点で精神分裂病の診断がついたということです。ご家族からみてもまだどこがどう悪いかわからない時期に、はっきり診断がついて治療を開始できれば、それだけ良好な経過が期待できます。

 また、この時点の診断が誤診だった可能性はほとんど考えられません。その理由のひとつは現在までの経過(上記の(1)(2)(3)の流れ)が、精神分裂病として典型的であることです(治療を受けなかった場合に典型的という意味です)。もうひとつは、一年前に精神科医に「精神分裂病の初期です」とはっきり言われたという事実です。

 精神分裂病という告知はなかなかしにくいものです。特に初期には、もし誤診であったら不必要な治療を開始してしまうことになりますので、慎重にならざるを得ません。弟さんの場合は、そういう時期にはっきり告知されたということですので、精神分裂病であることはまず間違いないでしょう。ご家族からみてもどこが悪いのかよくわからない状態でも、精神科医からみれば診断は確実だったということだと思います。

ですから、ここまではよかったのですが・・・

もうおわかりと思いますが、そこからの対応は非常にまずかったと思います。

 せっかく診断され、治療の必要性の説明を受けながら、一年間無治療でほうっておいたことは、弟さんにとって非常に不幸なことでした。

もしその先生が信用できないのであれば、他の精神科医の診断を受けるべきでした。

 そもそも、あなたのお母様が、この病院と先生を信用できないと判断した理由は何だったのでしょうか。

 ひとつは、重症の患者しかいない病院を紹介されたことに驚き腹をたてた、とお書きになっていますね。

 その病院を見てもいない私がコメントするのは難しいですが、本当に重症な患者しかいなかったのでしょうか? というのは、誰でも、自分の家族については、希望的観測をしたくなりますので、病院に行くとまわりの患者はみんな重症で、自分の家族はいちばん軽いと思っている方は多いものです。そうすると、自分の家族はこんなところに来るべきではないとお考えになることになります。あなたのお母様もそういう心理だったかもしれません。

 あなたのお母様とあなたがその医師を信用できないと判断したもうひとつの理由は、精神分裂病の初期と告知されたという事実そのものではないでしょうか。

精神科の病名告知は、非常に神経を使う問題です。

 医師がある初診の患者さんを診て、精神分裂病と判断した場合、何をおいてもまず第一に考えるのは、確実に治療をしなければならないということです。

 ですから病名を告知するかしないかは、この線で考えます。つまり、どちらが確実な治療につながるか、ということです。

「精神分裂病です」と告知した場合、ご家族はどう感じられるでしょうか。

 ひとつは、きちんと治療を受けなければならないということ。そう感じられると予想すれば、医師は病名を告知することになります。

 けれども逆に、そんな診断をするなんて、こんな医者は信用できない、と感じて、その後の治療を受けなくなってしまうことも考えられます。あなたのお母様のケースです。

 反対に告知しなかった場合には、軽いと判断されて、その後病院にいらっしゃらなくなる可能性があります。それは当然病気の進行・悪化につながります。(なお、精神分裂病という病名を告知しないとすれば、病名は何も告げないまま治療を続けるか、うつ病などの他の病名を告げることになります。これが擬態うつ病を生む背景のひとつでもありますが、それはまた別の問題でしょう)

 したがって、精神分裂病という病名を告知したほうがいいかしないほうがいいかは、単純には判断できない問題です。あなたの弟さんのケースでは、主治医の先生は、告知したほうが治療を受けていただけると判断されたのでしょう。それが逆に治療中断につながったのは、不幸なことでした。

また、付け加えますと、

「今は薬で落ち着いていますが、このまま治療を続けていかないといけません。精神分裂病の初期です」と言いきったのですが、実は弟は薬を1粒も飲んでいませんでした。

ということも、この先生の判断を信用されない理由のひとつだったとおっしゃるかもしれません。つまり薬を飲んでいないのに飲んでいると思い込んでいたということに関してです。

 しかし、私の判断では、やはり精神分裂病と告知されたこと自体が不信を持たれた最大の理由だと思います。この病名を告げられると、ご本人やご家族は色々な理由で不信をお持ちになることがよくあります。「一回の診察だけでわかるのか」と言われるのが代表的ですが、その一方で「こんなに何回も診察するまでわからなかったのか」という場合もあります。つまりどの時期であっても、不信を持つ人は持つということです。おそらく精神分裂病という診断に対する抵抗が最初にあって、それを信じたくないという気持ちが、不信につながっているのだと思います。

 弟さんのケースでは、薬を飲んでいないのであれば、それを医師に伝えるのが弟さんのためにご家族がするべきことであって、治療を中断するのは実に不合理かつ不適切なことでした。その結末が現在の「はちゃめちゃな」状態です。

 というようにいろいろ反省すべき点はありますが、いま必要なことは早く治療を始めることです。精神分裂病の初期と告知されてから一年は経過しています。一日も早く精神科を受診すべきです。このまま放置したら悪化する一方で、取り返しのつかない事態になることも考えられます。
 


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