精神科Q&A

【0412】急に首がねじれたのは、薬の副作用でしょうか


Q: 20歳女性、自覚症状うつで精神科に通院中です。
 
 先日、急に、首から右の肩、そして右上半身胴の筋肉が攣りだし、ぎっ、ぎっ、ぎっ、とどんどん締め上げられるようにねじれて、ついには首と体が完全に九十度以上右にねじれたまま自分の意思では戻せなくなりました。とても筋肉が固まっているようでした。症状は朝の十時ぐらいに始まり、最初は首が右を向くなあ、ふらふらするなあ、と感じて、寝違えたのかとでも思っていたのですが、だんだん座らなくなってきて、保健室で一時間休んだあと、元に戻ったように感じたので授業に戻ったら、さらに筋肉が縮むようにつり始めたので、急いで学校を早退し、精神科も受診している総合病院の午後緊急(の受付)へと向かいました。首が完全に天井を見上げ、そのまま不可能と思われるほど後ろに倒したような状態から右を向き、胴体も右にねじれるような感じでした。ねじれは常に強烈な力で引っ張られているような感じで、息も浅くとても苦しく、自分でもこれは異常だ、と思われるくらいでした。ねじれるので、目もカッと開いたようになり、自分ではどうしようもなく、ただ不安と焦りが襲ってきました。
 
 しかし病院では、明白なことがわからず(専門のお医者さまがいなかったのかもしれません)、横になって首を無理やりまっすぐにするとどうにか戻ったようになるので、その状態で湿布と痛みどめを出されて帰されました。
 
 実は、精神科の方で出されている薬が、ドグマチール200ミリ、アモバン、以前にレンドルミン、頓服でソラナックスなのですが、このうちドグマチールという薬は、自分で薬辞典で調べたところ副作用に悪性症候群というのがあり、そこに筋肉が固くなると出ていたので、病院でも薬の副作用ではないかと聞いてみたのですが、首がねじれる副作用というのは聞いたことがありませんね、という回答が帰ってきました。
(診察に当たられたのは恐らく内科の先生です。)
 
その後は、一晩寝て、不思議とねじれなくなったようなので、翌日外来で形成外科に行き、レントゲンを撮りましたが異常なしとの事で、しばらく攣っていた場所に筋肉痛のような痛みが残っていましたが、一週間経った今はほとんど治りました。
 
 精神科の担当医の先生には、まだこのことは伝わっていません。
 
 私としては、あれは悪性症候群 なるものだったのではないかという考えがよぎるのですが、ネットや本などで調べられるだけの情報だと、やはりどこか違う気がしますし、不安に感じるところがあります。
 
 林先生はどう思われますでしょうか?
 また、私のつぎの診察で精神科の先生に報告すべきでしょうか?
 
 今現在は、まだその時の恐怖が残っているので勝手に薬の服用を止めてしまっています。
 鬱が怖いのですが、あの時の怖さの方が勝っていて、自己判断はよくないとわかっているのですが、そのような次第です。


: これは急性ジストニアです。悪性症候群ではありません。原因はドグマチールだと思います。
 
急性ジストニアは、【0411】に解説した通り、普通は精神分裂病(統合失調症)の薬の副作用です。けれども、ドグマチールで出ることも稀にはあります。それは、ドグマチールが、うつの薬としては特殊な性質を持っているからです。
 
というのは、やや専門的になりますが、うつ病の薬は、脳内の神経伝達物質のセロトニン系かノルアドレナリン系に作用するのが普通で、精神分裂病(統合失調症)の薬はドーパミン系に作用するのが普通です。ところがドグマチールは、ドーパミン系への作用が強く、この点がうつ病の薬としては例外的なのです。
 
このためドグマチールには、他の抗うつ薬とは違った副作用が出ます。よく見られるのは、無月経、乳汁分泌などで、これについては【0117】に説明があります。
 
ドグマチールの副作用としては、さらに、パーキンソン症候群があります。これは、ドーパミンがブロックされることにより起こります。
 
そして、急性ジストニアも、ドーパミンがブロックされることによる副作用なので、ドグマチールでも出る可能性があるのです。
 
「可能性があるのです」というのは、稀だということです。ただし、ドグマチールの添付文書には、この副作用が明記されています。
 
急性ジストニアは、あなたの気にしておられる悪性症候群とは全く違うものです。悪性症候群は【0014】に解説しましたが、筋肉が固くなるだけでなく、高熱が出るなど、命に関わるものです。また、悪性症候群では、筋肉が固くなるといっても、あなたの経験されたように奇妙な形に曲がってしまうことはまずありません。いわば、単に固くなるのです。
 
急性ジストニアの対策は、【0411】の通り、抗パーキンソン薬です(アキネトンなど)。しかし、精神分裂病(統合失調症)のように、どうしてもドーパミン系の薬が必要な場合はともかく、あなたの場合は必ずしもドグマチールが必要とも思えませんので(もちろんこの点は主治医の判断が必要ですが)、ドグマチールを中止して他の薬に変えたほうがいいと私は思います。いずれにせよ、次の診察の時に主治医にあなたの経験された症状をお伝えすることが必要です。救急受診の際には、「首がねじれる副作用は聞いたことがない」と言われたとのことですが、それは専門外の先生だったからであって、精神科医なら薬の副作用としての急性ジストニアの診断を誤ることはあり得ないと思います。

 


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