精神科Q&A

【0383】姉(うつ病?)の主治医は、姉を甘やかすことしかしません。先生を変えるべきでしょうか。


Q: 27歳の姉のうつ病のため、同居している母親は極限状態になっています。
 姉がうつ病と診断されたのは2年前で、体調を崩したのをきっかけにだんだん不安発作や過呼吸がひどくなり、近所の心療内科で薬を処方されるようになりました。しかし、その後病状は悪化する一方です。
 途中、違う先生に診てもらい、うつ病じゃないよといわれたこともありましたがその病院に入院してもすぐ自主退院してきました。今は最初の心療内科の先生のいうことしか聞く耳をもちません。彼女は母に対してとても攻撃的です。いままで仲良くしていた同僚との友情を自分から壊すような事をしたり、リストカットをよくします。私達は姉はうつ病だと思っていたのですが、私の知人(臨床心理士)に話をしたところ、それはうつ病ではなく人格障害がメインではないか?ということでした。先生のホームページを拝見したところ境界型人格障害にあてはまる部分が相当あるように思えます。彼女が信頼をおいている心療内科医は彼女を甘やかすことしかせず、薬も彼女の言うままに増やしているようです。家族には「できる限り彼女のわがままを聞いてあげるように」と指示しますが二年間そうしてきて一向によくならないのです。無理にでも他の先生のところへ連れていきたいのですが、それは逆効果でしょうか?彼女はしいていえば弟である私の言うことならば聞いていたのですが、つい先日攻撃の刃が私にむきました。私を中傷する内容の強烈なメールを送ってきました。
 私たちは同居していないので平気ですが、一緒に住む家族がかわいそうです。家族は彼女の主治医には信頼感を持っていません。私たちはまず先生を変える事から始めるべきだと思ってるんですがそれは良いことだと思われますか?

: 医師への信頼・不信が、患者さんご本人とご家族で解離することは時々あることです。つまり、ご質問のケースのように、患者さん自身は信頼しているが、ご家族は不信を感じておられるケース。また逆に、ご家族の方は信頼しているが、患者さん自身は不信に思っているケースもあります。その理由はケースによって様々で、誰の見解が正しいのか、またその医師が本当は信頼できるのかできないのかは、いちがいには言えません。
 メールを読ませていただいた限りでは、お姉さまの主治医は信頼できないように見えます。「できる限り彼女のわがままを聞いてあげるように」という指示は、一時的にはもっともなこともありますが、二年間となると周囲がそれに耐え続けるのは無理でしょう。
 診断についても、うつ病ではなさそうです。境界型人格障害のように見えます。
 けれども、では主治医を変えるべきかどうかとなると、それは難しい問題です。
 ひとつは、当然ながらご本人が納得しないでしょう。仮にそれでも何かの方法で無理に他の医師を受診させても、本人が嫌々診察を受けるような状態では、とうてい状態の改善は望めません。医師のほうも、前の主治医をあらためて受診し直すことを勧めると思います。
 もうひとつは、これは申し上げにくいことですが、当事者の一方からだけの情報では判断できないという理由です。
 先に私は、「メールを読ませていただいた限りでは、お姉さまの主治医は信頼できないように見えます」とお書きしました。あくまで「メールを読ませていただいた限りでは」という条件つきです。メールに記されているひとつひとつは事実だとは信じておりますが、細かいニュアンスまでがその通りかどうか・・・これはメールでは常に問題ではありますが、ご質問のケースのように一種の対立した状況について判断する場合には、特に注意すべきであると私は考えます。
たとえば、

彼女が信頼をおいている心療内科医は彼女を甘やかすことしかせず、薬も彼女の言うままに増やしているようです

とのことですが、あなたがそう判断された根拠は何でしょうか。「甘やかしている面もある」のはおそらく事実だと思いますが、本当に「甘やかすことしかしていない」のでしょうか。境界型人格障害の治療は容易ではありません。仮にお姉さまの行動にかなりの問題があったとして、単にそれを指摘し諭せば治療になるというものではありません。治療が、一見甘やかしているだけに見えるのもよくあることです。
 薬についても、「言うままに増やしているようです」とのことですが、医師が患者の言うままに薬を増やすことはまずないことで、たとえそのように見えてもそれは治療上意味があるから増やしていることが大部分でしょう。
さらに言いますと、
「できる限り彼女のわがままを聞いてあげるように」という指示についても、「できる限り」がどの程度のことを指しているのか。
上のようなことはすべて、あなたないしご家族が直接主治医に聞く必要があると思います。
  こうして見ると、あなたが主治医を信頼しない理由は、「主治医は〜のようだ」ということが非常に多いようです。このような曖昧なことを理由にして信頼しない状況では、どんな医師に変えても信頼はできないでしょう。

というような問題があると思います。

 印象としては、あなたの意向が正しいように確かに思うのですが、あえて逆の可能性も書かせていただきました。しかしどちらにしても(つまり、あなたのおっしゃることがすべてもっともであったとしても)、主治医を変えることは難しいでしょう。最大の理由は最初にお書きしたように、本人が納得しないのに主治医を変えることは困難だということです。
 ではこのまま耐えるしかないのか、ということになりますが、対応方法としては、前にも似た回答をしたことがありますが【0184】、本人の希望を受入れられることと受入れられないことをはっきり示して、無理な要求に対しては厳しい態度で臨むことだと思います。それは主治医の指示である「できる限り彼女のわがままを聞いてあげるように」ということに反することではありません。「できる限り」というのは、無制限という意味ではありませんる「できる限り」の範囲を、はっきり示してあげることが、本人のためにもなると思います。なお、この場合、その範囲をご家族で話し合って統一しておくことも大切です。


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る