精神科Q&A

【0376】てんかんの夫が、人が違ったように意地悪になってしまった


Q: 私は33歳の会社員です。夫(38歳)は、てんかんの発作を持っています。10年前、結婚してちょうど1年くらいのときに、わたしの目の前でいわゆる大発作というのを起こし、病院でてんかんの診断を受けました。婚約中に、「目が覚めたら口の中を切っていて枕が血だらけだった」と聞いたことが2、3度あったので、発病は12年くらい前のことだと思います。ある大学病院を受診したところ、MRIで頭の右斜め上くらいのところで頭蓋骨が少し内側に凹んでいることがわかり、即、手術と言われました。しかし念のため別の大学病院で診断を受けてみたところ、それが発作の原因かどうかはわからない、急いで手術する必要はないと言われたので、手術はしませんでした。入眠時に脳波が乱れるとのことで、今も病院で定期的に検査を受けています。薬は、デパケンという薬を処方されて飲んでいます。薬が効いてくれていて、ここ5年間は発作がありません。
 いま困っているのは、発作ではなく、意地悪になったり癇癪を起こしたりすることです。こういうことは病気の影響だと本に書いてあったのですが、それにしても、以前とは違う人のようです。以前は穏やかでお洒落、年より上に見られるタイプで暇さえあれば本を読んでいる人だったのですが、最近はとても怒りっぽく、子どもっぽくなり、奇妙な言動が目立ちます。本も、ほとんど読まなくなり、家にいるときは寝ていることが多いです。こういったことも全ててんかんの影響なのか、また、家族はどんな対応をすればよいのか教えていただけると幸いです。具体的な例があった方がよいかと思いますので、下に書きます。ひとつひとつは大したことではないのですが、毎日のことなのでとても疲れますし、どうやって対応したらいいかわからなくて絶望的な気分です。夫を奇妙と感じる自分の方がおかしくなっているのではないかとも思います。
・お菓子などをみんなで食べようと誘うといらないと言うのに、誰もいない時を見計らって食べ、食べたことを隠します。
・食事の時、自分の分は急いで食べ終わってしまい、他の人が食べているものをじろじろ見ます。子どもがゆっくり食事をしていると「食べ過ぎだ」といって取り上げ、自分が食べます。
・単身赴任(6年間・昨年帰京)をしている時、料金滞納で電話や電気をしょっちゅう止められていました。
・バスや電車に乗っていると、2、3秒に一回くらい顔に触ったり貧乏揺すりをしたりします。
・食事をするとき、箸の上げ下げがだんだん速くなって口の開閉とリズムが合わなくなり、口の周りを汚してしまいます。
また、私に対しては、常に私が悪意を持っているかのように対応します。ちょっとしたことでも、すぐ変に裏を読んだ対応をされるので、どうしたらいいかわかりません。
例えば、
・カップが台所に置いてあったので、「これ、使ったの?」と聞いたところ、突然怒りだして「一つだけだから まだ洗う必要がないと思った」と怒鳴り続けました。洗った方がいいのか、しまっていいのか知りたかっただけだったので、特に責める口調で聞いたわけではないのですが。
・戸棚を整理していて夫が後ろを通りたいのに気が付かなかったとき、それから1時間くらいしてから、わたしが通ろうとしたところに突然どっかり座り込んだので、ふざけているのかと思って「ちょっと通してね」と声をかけたところ「お前がさっき俺の邪魔をしたことの仕返しだ」と怒鳴られました。
怒鳴ったりしていない時も、基本的に家族といるときは不機嫌で、ほとんど表情が動かず、文章の途中から話したり途中でやめたりするので、声は大きいのですが言っていることがはっきりわからず、それがまた、わたしが夫を理解していない、悪意を持っていることの証明にされてしまいます。以前の夫に戻ることもあるのですが、安心して話していると突然また怒り出します。
子ども(小3、男)に対しては非常に口うるさく、必要以上に世話を焼きます。
例えば、
・宿題をしていると横に行って5秒おきくらいに「鉛筆の持ち方が悪い」と言い続けます。トイレに行っても走って戻ってきて注意し続けます。
・着替えをしていると「裏返しにするな」「後ろ前に着るな」「靴下の左右を間違えるな」といったことを、本人がそうしてもいないのに命令し続けます。
 こういったことは、全ててんかんの影響なのでしょうか。それとも、単にだらしがなかったり落ち着きがなかったりイライラしているだけの状態で、奇妙だと感じるわたしの方が病気になっているのでしょうか。夫に対して、どういう対応をすればよいのでしょうか。本来なら主治医の先生に伺うべきなのだと思いますが、病院にわたしがついていくのを本人が嫌がるため、ご相談させていただく次第です。
 なお、会社では元気で明るい係長という印象で見られており、仕事も普通以上にこなしているようです。夫の母親は13年前、父親は昨年亡くなってしまい、知り合う以前のことはよくわかりません。
 長々と細かい家庭内のことばかり書きまして大変失礼いたしました。夫がだんだん壊れていくようで、このままでは家庭そのものが崩壊しそうで、怖いです。お目通しいただき、HP上でアドバイスいただけると、本当に助かります。どうぞよろしくお願いいたします。



: ご主人の今の状態は、病的だと思います。つまり、「単にだらしがなかったり落ち着きがなかったりイライラしているだけ」ではないと思います。てんかんと何らかの関係があることが疑われます。
 問題はその「何らかの関係」がどのようなものかということです。
 
 「意地悪になったり癇癪を起こしたりすることです。こういうことは病気の影響だと本に書いてあったのですが」とのことですが、実は本当にてんかんの影響でそういうことがあるかどうかは、まだよくわかっていません。
 「てんかんという病気は、発作だけでなく、脳に徐々に影響をおよぼし、性格が変化してくる」、これは古典的な考え方で、「てんかん性性格変化」といいますが、今では疑問とされています。
 疑問とされている、ということは、必ずしも否定されているわけではないので、こういうことはあり得るかもしれません。
 それから、薬で発作を抑えることで、かえって性格が変化する、という説もあります。これは、脳波を強制的に正常化することによる悪影響という意味で、「強制正常化」といいます。これもひとつの説にすぎません。
 また、見落としやすいこととして、ご主人に見られるような状態が、実はてんかんそのものの症状ということがあり得ます。つまり、発作は抑えられているものの、まだ薬が不十分だということです。これは脳波の検査をすればわかります。
 
 ご主人のケースでは、もっと重要なことは、12年くらい前に大学病院で指摘された、「MRIで頭の右斜め上くらいのところで頭蓋骨が少し内側に凹んでいることがわかり、即、手術と言われました」ということです。この所見は本当のところは何だったのかが重大な問題です。なるべく早く確認(再検査)する必要があると思います。
頭蓋骨が少し内側に凹んでいる」だけでは、確かに手術の必要はなかったでしょう。しかし、本当にそういう説明だったのでしょうか。私の経験では、患者さんが「他の医者にこう説明された」とおっしゃっても、実際にはその患者さんが医者の説明を誤解していることは非常に多いものです。たとえば、「頭蓋骨が少し内側に凹んでいる」という説明そのものは実際にあったとしても、その他の説明、それが医学的には重要だったのに、聞き逃したか軽視されたということも考えられます。
 特にご主人のケースでは、「頭の右斜め上くらいのところで頭蓋骨が少し内側に凹んでいる」ことと、「即、手術」ということは、医学的につながらず不合理なので、なおさら何か説明を誤解されていたことが考えられます。
 
 また、その後に受診された病院では手術の必要がないと言われたとのことですが、なぜこの病院の方の見解を信用されたのでしょうか。どちらの病院が正しいか、確率は半々だと思いますが。
 一般に、A病院で手術が必要と言われ、B病院では手術の必要はないと言われると、患者さんとしてはB病院の方を信頼することが多いようですが、これは「できれば手術は受けたくない」という患者さんの気持ちを反映していることは明らかで、論理的に考えればB病院の方を信頼する根拠はなく、非常に危険な判断だと思います。手術には時期というものがありますので、それを逸すると手遅れになりかねません。
 ご主人のケースに戻りますと、最初の病院でMRIの結果、即手術と言われたということは(上にお書きしましたように、「頭の右斜め上くらいのところで頭蓋骨が少し内側に凹んでいる」と言われたということは私はあまり重視していません。説明を誤解されている可能性があるからです)、脳の病変、たとえば脳腫瘍が発見された可能性もあると思います。だとすると、腫瘍が大きくなってきて、性格変化などの症状が出てきたということも考えられます。
 もうひとつ気になるのは、ご主人の状態として記載されている項目の中の、

・バスや電車に乗っていると、2、3秒に一回くらい顔に触ったり貧乏揺すりをしたりします。
・食事をするとき、箸の上げ下げがだんだん速くなって口の開閉とリズムが合わなくなり、口の周りを汚してしまいます。


の二つです。この二つは、神経症状(脳に器質的病変、つまり目に見える病変がある時に出る症状)の可能性があります。あるいは、てんかん発作の一種なのかもしれません。

 上にお書きしたことはどれも可能性にすぎません。しかし、早急に脳波MRIの検査が必要であることは確かだと思います。
 
本来なら主治医の先生に伺うべきなのだと思いますが、病院に私がついていくのを本人が嫌がる」とお書きになっていますが、そんなことを言っていられる状況ではないと思います。主治医の先生に早急にご相談ください。


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