精神科Q&A

【0342】5年間も症状が続いている母は、うつ病? 精神分裂病?


Q:  現在55歳の母は、5年ほど前、一時期急におかしくなりました。
 そのころ祖父が散歩中にころんで骨折し入院したため、母は毎日看病に行っていたのですが、まず病院にいかなくなりました。
 そして、母には恋人がいたのですが、その恋人から家に盗聴機が仕掛けられているといって家中を探し回り、父には誰かがいるといって家の周りの捜索を一晩中頼みました。翌日、恋人から前に来ていた普通の手紙を脅迫状でメッセージがこめられていると言い張り、警察へもって行きました。私は離れて暮らしていましたので上記は父に後から聞きました。
 警察へ行った次の日、私は丁度実家へ帰る予定があり、母に会うと「ごめんねごめんね、そんなつもりじゃなかった」を連発し、母は泣き崩れました。そして私たちに家には盗聴器があるからといって話すことを禁じ、苦肉の策でビジネスホテルに泊まることにしましたが、そのビジネスホテルでも一晩中泣き、怯え、トイレに閉じこもりました。その怯えようは尋常ではなく、戸をノックしただけでパニックになり、テレビでアベマリアが流れると、信仰はないのですが、神様がみているといってまた怯え、泣き叫ぶといったありさまでした。
 その後も何日か車の中から外を見て、知らない人に「あの人がメッセージを送っている」信号で止まると、「メッセージが流れてきた、私にはわかる」等を連発し、確実におかしな言動、行動を繰り返していました。
父の知り合いの精神病院の医者に連れて行き、強制入院することになりましたが、翌日に父が面会に行くと、前よりはしっかりした様子で「ここから出してほしい。余計におかしくなってしまう」と泣き崩れたため、父もやりきれず、医者に断らずに母を連れて帰ってきてしまいました。
 病院から帰ると少しはしっかりしていて、しばらくはたまにテレビがメッセージを送っているなどの言動もありましたが、父が、恋人から別れ話をされた、あるいは何かで脅迫されたショックから精神的に限界を超えたのかもしれないと考え、原因のわからない不安感(立ったり座ったりを繰り返し落ち着きがない、玄関の外をずっとのぞいている)を取り除く為に、目の前で恋人に電話して母とかかわらないように話をつけたり、家から出ない母に代わり買い物、食事の支度等を引き受け、母に心のよりどころとして犬をプレゼントし、安心感を与える事を父なりに努力した結果、時間がたつにつれておかしな言動も薄らぎ、今では完全ではないながらも普通に生活できるようにはなりました。
 ただ、今までは精力的だった母が、何にたいしても興味がなくなってしまい(外見、趣味)何とか外に出られるようにはなりましたが、自分からは出かけません。昔だったら相談したことに対して的確な意見をくれた母が、今は電話で話しても心ここにあらずというような感じで、私と話すことが普通にできません。何でも私の顔色を伺いながら話す、とでもいいますか、まるで性格が変わってしまいました。何にでも迷い、自分で決めることができません。そのため、夕飯の買い物も苦痛のようです。それに電話ではまだ何かに心の根底で不安があるようで、例えば住所や電話番号や私の通っている病院などの話をすると、「こんな話は電話じゃないほうがいい。またあったときに聞くね」となんでもない話でも聞きたがりません。相変わらず多少落ち着きのない部分も残っています。そして、犬に対しては尋常ではないほど愛情を注いでいます。というか、彼女にとって「犬」という概念ではなく、わが子のようです。「この子は私の言ってることがわかる。ほら、今うんって返事したのよ、えらいねぇ」などと言います。そして、あの時以来、信仰には無関心だった母が「神様」のことを妙に信心しています。どこの宗教というわけではないのですが、漠然と「神様」に対して畏怖があるようです。
 私も父も、母が完全ではなく、本当は病院に行ったほうがいいのはわかっているのですが、精神病院の入院の経験が彼女にとってよほど屈辱的だったようで、病院や薬の話を出すと感情が高ぶって怒りだします。母には5年前のあの時のパニックの時期は忘れてしまっているようで、そんな事があったの?という感じであまり聞きたくないというような態度を示し、更年期だから少しおかしいんだといいます。母の言葉を借りれば「今は頑張って何とかやっている」のだそうです。
 私たち家族は迷って困っています。あの一時の異常な時期は精神分裂病に当たるのではないかと林先生のサイトを見て感じました。しかし上記もふまえると、今の症状はうつ病にも見えるのですが、5年間も症状が続く事があるのでしょうか?また、父の言うように、心に何か大きなショックが与えられると一時期そういう症状が出てしまうことがあるのですか? (確かに、母はおかしくなる前、精神的に大きな負担がかかりました。恋人とも何かがあったのかもしれませんが、その他にもいろいろありました。
 今が比較的軽快しているせいか、私自身としてはうつ病かショックで、この先少しずつ直ってほしいという気持ちもあります。もし、病院に行ったとしたら、このような母の変化は以前のように戻ると林先生はお思いになりますか?だとすれば、嫌がる母に私は何と言ったら良いのでしょうか・・・。
このままでは家族が崩壊してしまうと最近感じています。

: まずお母様の診断に関しては、やはり精神分裂病の可能性が最も高いと思います。「うつ病かショックで、この先少しずつ直ってほしい」というお気持ちはよくわかりますが、症状と経過からは、うつ病やショックとは思えません(もちろん完全に否定はできませんが)。精神分裂病であると考えるべきでしょう。
 その第一の根拠は、症状です。
・盗聴機が仕掛けられているといって家中を探し回る。
・誰かがいるといって家の周りの捜索を一晩中頼む。
・普通の手紙を脅迫状でメッセージがこめられていると言い張り、警察へもって行く。
・ビジネスホテルでも一晩中泣き、怯え、トイレに閉じこもる。りました。
・テレビでアベマリアが流れると、信仰はないのですが、神様がみているといってまた怯え、泣き叫ぶ。
・車の中から外を見て、知らない人に「あの人がメッセージを送っている」信号で止まると、「メッセージが流れてきた、私にはわかる」等を連発する。
 これらはいずれも精神分裂病の典型的な症状です。特に、普通の手紙にメッセージがこめられているとか、外で偶然会った知らない人からのメッセージを確信するというような症状は、精神分裂病以外ではまずみられないものです。
 症状が5年続いているという経過も精神分裂病を裏付けるものです。精神分裂病だとすれば、治療(特に、継続的な服薬)をしなければ5年でも10年でも症状は続くのはむしろ普通です。
 現在は以前のような激しい症状ではなく、むしろ「何に対しても興味を失ってしまった」というのは、陰性症状であるとも解釈できますし、表面化していない陽性症状の表れ(つまり、よく話をお聞きすれば、幻覚や妄想がかなり存在することが明らかになる)とも解釈できます。メールの記載だけ拝見しても、妄想を疑わせる言動が認められますので、陽性症状がかなりあると推測できます。
 「今の症状はうつ病にも見える」と書いておられますが、精神分裂病の初期や、激しい症状がおさまった後に、うつ病によく似た症状が見られるのもやはり精神分裂病としては典型的です。
 せっかく入院させたのにもかかわらず、十分な治療をせずに退院させた、しかも医師に無断で退院させたというのは非常にまずかったと思います。事実上は、「入院させたのに治療はしなかった」というのと同じことですので、ご本人からすれば、「無理に入院させられて嫌な思いをしただけで、全然良くならなかった」という経験しか残らないわけですから、病院や薬に拒否反応を示されるのは当然でしょう。退院させる時点では、ご本人の懇願する態度に心を動かされたというのはよくわかりますが、ご本人のためには何が一番必要なことで、長い目で見たら何が一番ご本人のためになるのか、よくお考えになって行動されるべきでした。少なくとも専門家である医師によく相談するべきでした。
 その一方で、現在、症状が比較的軽快しているのは、退院後のご家族の接し方が良かったためであると思われます。しかし、精神分裂病は接し方だけで治る病気ではありません。病院での治療が必要です。もう一度ご家族間でよく話し合われて、病院での治療を再開する方法をお考えください。それ以外の方法はないと思います。


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