精神科Q&A

【0281】霊能力者と分裂病の違いは?


Q:  私の知り合いの22歳の女性は、霊視である事件を解決しようとしています。本人いわく、半年前に女の人の声が聞こえてきて、それ以来霊視ができるようになったというのです。「声が聞こえてきた」というので、私はその方が分裂病 (統合失調症) ではないかと疑いましたが、分裂病者は他者との関係は薄く、孤立すると聞いていますし、その方はむしろ積極的に周りとの接触を図っていて、またたいへん優しそうな方に思えたので分裂病であるという私の疑いは根拠に欠けると思いはじめました。そこで質問です。霊感がある、霊の声が聞こえるという霊能力者の方たちと分裂病の方たちの違いは何なのでしょうか?
 それから、この女性がもし分裂病である場合、私ができることはありますか? 分裂病の方は病識がない、認めたがらないと聞いてますので、とりあえず私は「休んだ方がいい」とだけ伝えましたが、全くの他人である私が病院にいけとは言いづらいです。

: 「他者との関係が薄く、孤立する」というのは、分裂病 (統合失調症) の人の中の一部にすぎません。ですから、「積極的に周りとの接触を図っていて、またたいへん優しそうな方に思えた」ということは、分裂病を否定する根拠にはなりません。人との交流に積極的な分裂病の人もたくさんいます。優しい分裂病の人はさらにたくさんいらっしゃるでしょう。
 この方がもし病気だとすれば、やはり統合失調症(精神分裂病とか分裂病と呼ばれていました)の可能性がもっとも高いと思います。もうひとつの可能性は解離性障害です。
 ただしどちらにしても「もし病気だとすれば」というのが重要な点です。精神科を受診した人が、霊感がある、霊の声が聞こえるということなら、精神分裂病という診断が第一に考えられ、それはほぼ正しいと思います。しかし、精神科を受診しない霊能者と呼ばれている人のはたして何%が統合失調症であるかは、精神科でいくらたくさんの患者さんを診てもわかり得ないことでなので、私にはお答えしかねます。(これと同じようなことは【0271】白い服しか着ない友人は病気でしょうか にも書きました)
 ですから、病院に来る人だけを診ていたのでは物事の一面しか見えないので研究や調査を行うわけですが、そうした文献によれば、霊能者と呼ばれる、または自称する人の中には少なからず統合失調症の人が含まれているとされています(たとえば【0772】)。おそらく、統合失調症の人、他の病気の人、さらには職業上「霊の声が聞こえる」と言わざるを得ない人などが混在しているのだと思います。詐欺師もいるかもしれません。
 また、これも文献上のことですが、時代によって、また文化によって、統合失調症の人が霊能者として尊敬されたり、少なくとも病気ではないと認識されていることがあります。人によっては、統合失調症を病気と考えることが本人の不幸につながっているのであって、病気というネガティブな見方ではなく、逆に特異な能力を持っている人と考えるべきである(たとえば霊能者というように)、という意見に賛成する人もいます。
 この意見はもっともな点もなくはないのですが、現実にはまわりの人から認められるような能力を持っている統合失調症の人は少数なので(または、仮に能力を持っていても、それに加えて本人やまわりを悩ますような他の症状がある)、統合失調症一般に拡大するのは無理があります。
 実際、いかなる文化であっても、治療を受けない状態で特異な能力者として適応しているのは、統合失調症の人の中のごくごく一部だと思います。しかも、おそらくそうした文化の中では、大部分の統合失調症の人はより不幸な扱いを受けているでしょう。したがって、統合失調症を病気とみなさない考え方は、机上の理想論にすぎないと私は思います。
 
続きを読む


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る