精神科Q&A

【0223】階下の住人にストーカーされていると信じている妻は統合失調症(精神分裂病)でしょうか


Q: 妻はいま33歳ですが、29歳のころから被害妄想的なことをよく言うようになりました(ただ,それ以前からも同様な言動はあったと思いますが,その時はただ妻が勘違いしているのだと思い,それほど気に留めていませんでした。)。当時わたしたちはアパートの3階に住んでいたのですが、妻がトイレに行ったり風呂に入ったりすると、それを2階の(同世代の夫婦が住んでいました。子供はいらっしゃいませんでした。)奥さんが聞いていて,「また,トイレにいったわよ。」「またお風呂だわ」などと旦那さんとクスクスわらっていると言います。 トイレで生理用品の袋を開ける音を2階の奥さんが聞いて笑っていると言います。
 
 このため,私が会社に行っている間に,妻は2階の人に文句を言いにいきました。そのことが原因で,休日私がアパートの前にある駐車場に一人でいるときに,二階の夫婦が私のところへ来て,まったく身に覚えの無いことだと言われました。そしてたまたまその現場を妻が見て,また2階の夫婦と口論となりました。2階の夫婦は出るところへ出ても良いという構えでありましたが,妻も強気で捨て台詞のようなものをはき,部屋へ戻っていってしましました。私も妻を信じてあげれば良かったのかもしれませんが,全面的には信じてあげられず,2階夫婦には謝りその場は治まりました。2階の夫婦とも気まずい感じになってしまったこともあり,その後我々夫婦は別のところへ引っ越しました。

 今度は賃貸マンションの3階に住みました。引越ししてしからは,しばらく何も起こりませんでいしたが,1年経つか経たないうちに,今度は1階の奥さんが妻にストーカ行為をしているというのです。たとえば,その奥さんに尾行されているだとか,妻がその奥さんの玄関前を通るときにその奥さんが隠れるだとか,また3階の私たちの部屋での話を1階のその奥さんが聞き耳を立てているだとかです。
 
 しかしながら,幸いにも1階の夫婦はしばらくして引越していきました。これで,大丈夫かと思いましたが,1階の夫婦が引っ越したあとも(空き部屋でも),妻は1階の人が聞き耳を立てていたり,クスクス笑っていたり,尾行していると言っていました。その為,妻を郵便受けのところまで連れてゆきましたが,(引っ越して空き部屋ができると,よく郵便受けに電力会社や水道局の申し込み用紙が入れられていたり,「また引っ越しましたので郵便物は新住所へおねがします。」などの張り紙があるのでそれを妻に見せようと思いました。),妻はそれはカムフラージュだと思い込み信じてくれません。しばらくして,新しいひとが1階に入居して来ましたが,妻はその人たちを以前いた夫婦だと今でも思い込んでいて,時々大きな声で「聞いてるんだろ!」などと叫んでいます。
 
 そのほかにも,妻は自分の身内を嫌っていて,もう3,4年正月でも実家には帰っていません。 口癖のように「思い出した。」「そういえば,前にもあった。」などと言い,そのときの恨みみたいなことを言い出します。 1ヶ月ほど前から私に対しても敵視するようなになりました。今では,ほとんど口も聞いてくれません。一人でぼそぼそ何かを言いますが,聞きなおしても「独り言だから話しかけるなぁ!」などと言います。 
 
 最近のある日,妻は出かけるというので,どこに行くのかと聞いてみましたが,「私がどこへ行くか知っているんだろ,あぁ,あんたは知らないか,ふふ...」などと訳のわからないことを言いました。問いつめると,「まだとぼけるのか,もうはなしかけるなぁ!」などと妻が興奮してきたので,私は引き下がりました。妻は,働いていません。結婚して半年くらいは働いていましたが,職場の人とうまくいかずやめてしましました。結婚前もよく職場の人と喧嘩をして,会社を変えていました。妻は,掃除,洗濯,料理は普通にやります。
 
 本を読んでみると、妻の症状は統合失調症(精神分裂病)に似ているようでもありますが、典型的ではないようにも思います。妻はやはり病気なのでしょうか。病気だとしたら統合失調症(精神分裂病)でしょうか。それとも何か他の病気でしょうか。病院に行くべきでしょうか。


: 奥様は典型的な統合失調症(精神分裂病)です。できるだけ早く精神科を受診し治療を開始するべきです。
 近所の人が自分の陰口を言っているとか、監視しているというのは、統合失調症(精神分裂病)の初発症状としてかなりよく見られるものです。

「また,トイレにいったわよ。」「またお風呂だわ」などと旦那さんとクスクスわらっている

などのように、自分の一挙一動について批評めいたことを言っている、自分の行動についてその都度何か言われる、というのは昔からよく知られている典型的な症状です。たとえば

「臨床精神病理学(シュナイダー, 1950年)」には、
ある分裂病の女性は、食事しようとすると、「そら、食べるよ。そら、またガツガツ食べるよ」という声を聞く

「分裂病のはじまり(コンラート, 1966年)」には、
(症例60) 彼が何かをすると、たとえば煙草を吸ったり、食事したりすると、「ほら煙草を吸っているぞ」とか、「飯を食っているぞ」とか、「今煙草に火を着けたぞ」とか言うのだった。そして、このコメントは彼が今いる部屋ではなく、隣の部屋から発せられるのだった。

という記載があります。もちろん本だけでなく実際の臨床でも統合失調症(精神分裂病)の方からこういう話を聞くことは多いものです。

 奥様はご結婚の前からよく職場の人と喧嘩していたとのことですが、これも妄想(あるいは妄想とは言えないくらいの軽い妄想)が関係していたのかもしれません。だとすると奥様の統合失調症(精神分裂病)の発症はこのころだった可能性もあります。それが29歳にはっきりした被害妄想という形になり、33歳の現在には妄想が拡大してご主人に対しても妄想的な言動が見られるようになったということは、数年にわたって徐々に進行しているとということです。迷っている時間はもうありません。すぐに治療を開始する必要があります。治療しなければ、妄想の対象となっている人に対して逆に攻撃に出てしまう可能性もあります。その前に治療が必要です。


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