【3975】高校生のとき教師から受け続けていた性的虐待と、自分の中のもう 1 人の自分

Q: 30代女性です。 2年程、興味深く先生のホームページを拝読しております。というのは、自分自身の心理状態について知りたかったからです。
私は、高校生の時に姉の担任から性的被害を受けていました。ラブホテルに連れていかれたり、校内や車内で卑猥なことをされたり、休日も呼び出されたり、3年間ずっと相手の好きにされてきました。
犯罪のような被害にあったのに、今までずっと自分が悪いと思ってきました。
当時は、今思えば自分がされていることの意味を理解できていなかったし、何度もこの関係をやめたいと言ったのに、そのたびに泣いたり怒鳴られたりして結局言いくるめられてしまうので、途中から諦めてしまいました。
また、一方で相手への愛着さえ感じていました。だから、自分が被害者だと気づけなかったんだと思います。気づいた今は、私が望んでいるかのように思わされたことが悔しくてなりません。
高校を卒業し、相手との関係が終わってからずっと、フラッシュバックに苦しんできました。
相手からされたことや、言われたことが、今目の前で起きてるように感じられて苦しかったです。自分自身を斜め上から見ているような角度で(自分と相手が見える)状況が思い出されたり、その時の自分の目線で思い出されたり、湿度や暑苦しさを感じます。
大学の時は、ずっと部屋で泣いていました。頭が鉛のように重くなってきて、身体が硬直し動かなくなることもありました。
あとは眠くて仕方なくて、1日10~12時間くらい寝ていました。
夢を見るしかないと思っていましたが、夢もまた疲れるものでした。
奇妙な形の家を探検する夢をよく見ました。半分海につかった塔のような家や、半分大学の構内に繋がった夢、古い日本家屋で入口が這いつくばって入るほど小さくて狭いのに、部屋は学校の教室みたいに広くて、古いタンスや日本人形がぎっしり詰まっているような夢です。
高校生の時も、そのあとも、誰にも相談できませんでした。

家庭では、父が鬱病で一時仕事にも行けない状況があったり、母は虐待と育児放置に近い家庭で育ったことで苦しんでいました(私が大学時代に大量の睡眠薬を飲んでから私は母から目が離せませんでした)、高校当時姉は小中学時代のいじめ体験から鬱っぽく学校にほとんど行けず両親は姉にかかりきりだったからです。
自分が恥ずかしかったのもありますが、周りに自分のことで心配をかけてはいけないと、私より家族の方が私の助けを必要としている、自分の苦しみは自業自得だし小さなものだと思って、家族を頼れませんでした。
それに、相手は私の両親に年賀状を送ってきたり、冠婚葬祭に出席したりして、卒業後もずっと私の目の前から消えてくれないのです。
みんな、相手を、いい先生だ、と思っていることが、私をさらに苦しめてきました。
20年経った今でも学校が怖くて、近寄れません。行かなければならないときは、吐くような思いで行ってきました。
最近、学校の写真を見る機会があって、フラッシュバックもきつくて、気がついたら「バカにするな!」とか「あんたのせいよ!あんたのせいなのになんで私が苦しまないといけないんだ!」とか、「よくも生きてられるね!」とか泣き喚きながら主人を叩いてました。子供たちが、私を見て怯えて泣いていて、これじゃいけないと気がつきました。
翌日、主人に自分が受けたことをカミングアウトでき、主人の支えを受けて、その週のうちに両親や兄にも伝えることができました。
性被害のサポートを受けられる窓口にも行って話を聞いていただき、いまは、トラウマを専門とするカウンセラーの先生を紹介してくださるという話になっています。
もっと早く周りを頼れていれば、とも思うのですが、今までは一生誰にも言わないと思ってきたので、いまこうして一歩踏み出せたことに感謝しています。

林先生にお尋ねしたいことは、私の中のもう1人の私のことです。
被害を受け始めたときに、自分が突然別人格になって話し出したことがありました。当時は、憑依現象かとオカルトに捉えていましたが、林先生のサイトを読んだり、自分で自分の心理状態を理解したくてネット情報ですがいろいろ探しているうちに、あれは、憑依型解離性同一症だったのではないかと考えるようになりました。
あのとき、自分の中では、だれかに自分の身体が乗っ取られる感じですごく怖かったです。3日ほど、様々な人格が入れ替わり立ち代わり喋ったり暴れたりして、睡眠薬を処方されてやっと少し眠れたような状態でした。
症状が落ち着いてからも、鏡を見るのが怖くて避けていました。自分の顔が自分の意思に関係なくにやっと笑うんじゃないか、なにか喋るんじゃないかと怖かったからです。
あのとき、自分の中の自分を眠らされたと感じました。
高校時代から、私の中にはもう1人の私がいて、ずっと私がこれ以上傷つかないように守ってきてくれている感じです。
その人が、苦しいときも全部代わりにやってきてくれたんです。
だから、きちんと大学受験も合格し、就職はしませんでしたが、大学院は博士課程後期まで進学できて、今私を支えてくれる主人とも結婚でき、子供にも恵まれ、フルタイムではないですが仕事も得ることができています。
私を助けてくれる私のほかに、冷静で分析的な私もいます。その私は、いつも、一歩ひいて全体を見回して冷静に物事を分析してなにが起こっているか私に教えてくれようとする私です。
それから、たまに出てくるキャシー(この人だけ名前がある)は、キレやすく罵詈雑言を言いながら壁をバンバン叩いたりします。
あともう1人の私は、ずっと寝ています。子供のような清らかな存在で、私の中の無垢な部分を閉じ込めたような存在です。
私が20年間フラッシュバックがありながらも人生を築けてこれたのは、主に、私を助けてくれる私と、分析的な私のおかげです。
でも、主人格が誰なのかわかりません。
高校以前より高校以降の私の方が、時間が長くなってしまいました。落ち込んだときは、自分がバラバラのパッチワークのような存在に感じますが、普段は、私は単に私だ、と感じています。
主人格が、寝ている私のような気もして、起こしてあげたいという気持ちになっています。
主人格が寝ているというようなことはあるんですか?
それから、カウセリングを受けるのは、フラッシュバックをなくしたいのと怒りの感情をコントロールする方法が知りたいのが主な目的なのですが、この、複数の人格について相談したときに、今までずっと私を助けてきてくれた私は、消滅してしまうんですか? その方が良いのでしょうか。
私は、解離の状態のまま20年間生きてきたのでしょうか?
時々、自分がやった記憶のないミスをしていたり自分と周りの記憶が違っていて、困惑することがあります。性格的なものだと思ってきましたが、これも解離の症状ですか?
あと、人の名前がほとんど覚えられません。近所のよく会う知り合いの名前も、5年経ってやっと覚えましたし、そんなに会わない人は5年経ったのにまだ覚えてなくて、会うと分かっているときは事前に携帯の連絡先を見て覚えていくようにしています。
とんちんかんなミスで困ることがあるので、自分を信用できなくて、事故の加害者になるのが怖くて車の運転はできません。
でももしこれが解離の症状でカウセリングを受けることで改善するなら、随分助かるなあと思ったりもします。
長々と、申し訳ありません。20年経って自分が性被害を受けたと自覚できたこと、苦しんできたものがフラッシュバックだと理解できたこと、家族にカミングアウトできて、自分を取り戻すために必死で、まとまらない文章だとは思いますが、林先生に質問をさせていただきたくてメールをしました。
もし、質問コーナーでご回答がなかったとしても、今自分の頭の中にある疑問を、先生に相談する形で文章にすることができて、心が少し軽くなっております。ありがとうございます。何卒よろしくお願い致します。

 

林: 診断は解離性同一性障害。そしてその障害は、高校時代の性的虐待と関連している。そこまでは確実に言えます。類似の例として【3859】虐待の記憶がよみがえりましたが、ブロックがかかったようで相談することができません【2457】事実無根のことで夫の私を激しく責めたりする妻は解離性同一性障害でしょうか などがあります。

この【3975】の質問のポイントはそこから先、すなわち、

私は、解離の状態のまま20年間生きてきたのでしょうか?

という一行に集約できると思います。
そしてこの一行の背景として、

主人格が誰なのかわかりません。

という困惑があることが読み取れます。
ここには、この【3975】のケースに限らず、解離性同一性障害における「主人格」とはそもそも何か、複数の人格があるとき、どれを主人格と決定するのか、また、その決定根拠は何か、という問題があります。
実際には多くのケースで、その決定は容易です。人生のある時期から別人格が出現した場合、その別人格が出現する前の人格が主人格に「決まっている」からです。(これも突き詰めて考えると、それが「決まっている」と言って本当にいいのかという問題が発生しますが、今はそこには踏み込まないことにします)
ところがこの【3975】のように、人格が形成されつつある若い時期に解離性同一性障害になったケースでは、複数の人格の中の一つの人格を主人格であるとする明確な根拠を見出すことは困難になります。したがって【3975】の質問者が「主人格が誰なのかわかりません」と困惑されるのは当然で、人格とは子供から成人に成長する過程で形成されていくものであるということからすれば、子供時代に解離性同一性障害になった場合、主人格が誰であるかは決めることは論理的に不可能であるというのが一つの答えになります。

精神科Q&Aの中の類似のケースとしては【2457】事実無根のことで夫の私を激しく責めたりする妻は解離性同一性障害でしょうか があります。この【2457】は【3975】と比べると、少なくとも対人関係的・社会的にはかなり重症ですが、複数の人格の構成という意味では共通点があります。【2457】は本人の夫からの質問ですが、その夫によれば、

あるとき突然、子供の頃に眠ってしまった自分自身、と名乗る人格に遭遇しました。名前こそ妻のものでしたが今までと一人称も違うし、私はまだやや懐疑的でした。ですが、その人格は妻自身を含めたどの人格よりも、素直で社会性がありました。他人とそこまで摩擦を起こすことなく生活できたのです。
他にも「●●も〇〇も△△も□□も(←人格の名前)みんな今は自分の中で眠っているんだよ。」というような手紙ももらいました。

という事実があり、すると【2457】のケースでは、「主人格」は、子供時代に「眠ってしまった」状態になり、その「主人格」があるとき目覚めて話し始めたということになります。この「眠ってしまった」という表現も、【3975】の「あのとき、自分の中の自分を眠らされたと感じました」と共通点があり、さらにはその眠っている自分が「子供のような清らかな存在で、私の中の無垢な部分を閉じ込めたような存在」(【3975】)、「どの人格よりも、素直で社会性がありました。他人とそこまで摩擦を起こすことなく生活できた」(【2457】)とするのも類似点であると言えます。

但しこの【2457】の場合は、あるとき目覚めた(と称する)自分自身(と称する)人格を「主人格」とみなしたというだけであって、客観的にそれを「主人格」と呼んでいいかどうかは疑問ですし、「主人格」は客観的に決めるものか、それとも主観的に決めるものなのかについても正解は存在しません。

そして、主人格が誰であるかという問題はとりあえず措くとしても、この【3975】には
・高校時代からいるもう一人の自分
・冷静で分析的な自分
・キャシー
・ずっと寝ている自分
の(少なくとも)4人が存在し続けているわけですから、

解離の状態のまま20年間生きてきた

という表現が妥当かどうかはともかく、解離性同一性障害が持続していると言うことができます。
そして、

気がついたら「バカにするな!」とか「あんたのせいよ!あんたのせいなのになんで私が苦しまないといけないんだ!」とか、「よくも生きてられるね!」とか泣き喚きながら主人を叩いてました。子供たちが、私を見て怯えて泣いていて、

という症状もある以上は、治療が必要な状態であると判断できます。
したがって、

性被害のサポートを受けられる窓口にも行って話を聞いていただき、いまは、トラウマを専門とするカウンセラーの先生を紹介してくださるという話になっています。

このように、治療が開始される方向に進むことができているのは適切な動きであると言えます。

もっと早く周りを頼れていれば、とも思うのですが、今までは一生誰にも言わないと思ってきたので、いまこうして一歩踏み出せたことに感謝しています。

子供時代に【3975】のような体験があるケースでは、「一生誰にも言わないと思ってきた」というように一人で苦悩し続けていたり、あるいは、その体験自体が記憶から消えてしまっていたり(正確には「記憶から消えた」のではなく、「記憶の中から取り戻せなくなっている」だけで、ある時に急に思い出すことがあります)していることが多いものです。質問者の表現の通り今はまだ「一歩踏み出せた」という段階ですが、これから治療が進み、恐ろしい体験とそれに関連する症状から回復していかれることを願っています。

(2020.1.5.)

05. 1月 2020 by Hayashi
カテゴリー: 性に関する問題, 精神科Q&A, 虐待, 解離性障害