【3360】発達障害の生きづらさが統合失調症を招くことがあるのか

Q: 当方20歳、大学生の女性です。
数ヶ月前に、精神科を初めて受診し、そこで「ごく軽い統合失調症だと思われる」と診断されました。

精神科を受診したきっかけは、布団に入って何時間たっても入眠出来ないことが続き、睡眠不足によって日常生活に支障をきたしたためです。
その他にも、漠然とした不安感や、何をやっても心から楽しめないという鬱々とした気持ち、学校に行けない日が増えたこと、人間関係の構築の困難等があり、年々ひどくなっている気がすることから、そのような状態から少しでも解放されたいと思った次第であります。

精神科にて先生から私の生い立ちや家庭環境、生活状況等の質問をされ、上記に挙げた悩みを訴えた後に、先生から
「自分の考えていることが他人に漏れているというような、そういったことを感じることがあるか」と訊かれました。
実際、自分は対外的にわりかし「いい子」と思われるように努めて振る舞っているけれど、本当は頭の中では攻撃的なことばかり考えることも多く、実際ゲスな性格であることが実はバレているのではないか、私の考えは他人に知れ渡っているけれども皆知らないふりして私に合わせており、陰で私の黒い考えについてあれやこれや悪口を言っているのではないか、と常々考えてしまっております。学校やバイト先の人から実はすごく嫌われているのではないかと思います。
さらに、私は自身のプライベートなことについて人から尋ねられる際、「本当は知っているくせにわざわざ訊いてきてるんだろう」と思ってしまいます。例えば、私は一応地元では一番偏差値の高い大学に通っているのですが、そのことについて他人から「意外だね」というようなリアクションを受けることが多々あり、そのことを嫌だと感じています。そこで、 「大学どこなの」と訊かれた際に(本当は知っているくせにわざわざ訊いてくるなよ)と思ってしまいます。精神科の先生から大学名を訊かれた際にもそのようなことを思ってしまいました。
そして、先生からの上記の質問に「思考が漏れている感じはあります」と答えたところ、ごく軽い統合失調失調症だと思われる、と診断をされました。
私が主訴として挙げた不眠の症状は、たまたまそれが表に出ただけで、それが統合失調症の初期症状の一つだ、と言われました。

そういうわけで、治療のため睡眠薬と軽い安定剤を処方され、現在薬を飲み続けて治療を受けているのですが、私は本当に統合失調症なのか?という思いは拭えません。

冒頭に軽く触れたとおり、私は人間関係を構築するのが年々苦手になってきています。いわゆる「コミュ障」で人見知りは激しいし、現在友達と呼べる友達は皆無に等しいという状況です。腹を割って話せる人間はせいぜい親か、彼氏ぐらいしかいません。一応学校生活等は表面上なんとかやっていけてるものの、実際は生きづらさを感じてたまりません。過去にいじめを受けた経験もあります。電車等で人からの視線を感じ、不快に思われてないか心配してしまい、悪口が聞こえてきそうなのでイヤホンで音楽を聴くことは欠かせません。
ネットの自己診断や学校からのアンケートによると、私は何らかの発達障害を持っていると思われます。自閉症スペクトラム指数を測定してみたところ、34点でした。閾値を超えています。

精神科で診断を受けてからネットでいろいろ調べてみたところ、「発達障害によって統合失調症が引き起こされることは少なくない」との記述が散見されました。発達障害特有の生きづらさが統合失調症の原因の一つとのことです。

私が読んだ統合失調症に関する書籍(林先生の本も読みました)には発達障害と統合失調症との関係については触れられていませんでした。

「発達障害の生きづらさが統合失調症を招く」ということは考えられるのでしょうか?発達障害と統合失調症は併発しうるものなのでしょうか?そして、この情報量に乏しいメールの中でこのような質問をするのは僭越ですが、私は本当に統合失調症の疑いがあるのでしょうか?

何卒ご意見を頂戴できたら幸いです。まとまりのない文章で申し訳ありません。よろしくお願い致します。

林:
ネットでいろいろ調べてみたところ、「発達障害によって統合失調症が引き起こされることは少なくない」との記述が散見されました。

その情報は誤りです。ネットの情報は信用してはいけません。特にネットに「散見される」といった情報は落書きと同じで、参考にする価値さえありません。

統合失調症と発達障害の関係については、まず【2843】自分はアスペルガーなのか統合失調症なのか とそこからのリンク先のQ&Aをご参照ください。(【2843】はアスペルガーについての回答ですが、その内容はほとんどそのまま発達障害にもあてはまります) ポイントは
(0) 発達障害の人が統合失調症の症状を呈することはあり得る
このとき、
(1) 発達障害と統合失調症が併存した
と考えることもできるし、
(2) 発達障害の症状として、統合失調症と同じものが出た
と考えることもできる。
ということです。つまり、両者の因果関係を含め、関連性は不明だということです。関連性は不明ですが、「発達障害の人が統合失調症の症状を呈することはあり得る」のは事実です。ですからこの【3360】のご質問のように「発達障害特有の生きづらさが統合失調症の原因」と考えることはできます。しかしそれは証明されていませんし、おそらく証明されることはありませんし、今の段階で「発達障害特有の生きづらさが統合失調症の原因」と仮定することがご本人にとってメリットがあるとも思えません。

ここまでが発達障害と統合失調症についての一般論です。
【3360】については、このような一般論を考察する以前に、そもそも【3360】のケースが発達障害と言えるのか、また、統合失調症と言えるのかという問題があります。私はどちらも疑問だと思います。特に統合失調症については、その可能性はまだ十分に高いとは言えず、薬の治療を始めるのは時期尚早だと思います。

なぜなら、【3360】を診察した医師が統合失調症と判断した主な理由は

「自分の考えていることが他人に漏れているというような、そういったことを感じることがあるか」
と医師から問われたのに対し、【3360】の方が
「思考が漏れている感じはあります」
と答えたこと

であると考えられるからです。
ここで、自分の考えていることが他人に漏れているは、思考伝播と呼ばれる統合失調症の重要な症状です。特にこの症状は、統合失調症という病気の中核である自我障害をストレートに現していると考えられ、したがって思考伝播が認められれば、それだけで統合失調症の可能性は非常に高いということことができるくらい重要な症状です。
にもかかわらず私がこの【3360】のケースは統合失調症の可能性は高くないと判断するのは、

「自分の考えていることが他人に漏れているというような、そういったことを感じることがあるか」
と医師から問われたのに対し、【3360】の方が
「思考が漏れている感じはあります」
と答えたこと

これだけでは到底思考伝播ありとは認められないからです。
なぜなら、精神科の診断とは、「○○という症状がありますか」と質問し、答がイエスかノーかだけでその症状の有無を判断することはできないからです。「幻聴がありますか」「死にたいと思うことがありますか」などの問答の状況を具体的に思い浮かべていただけば明らかかと思います。さらにはもう少し複雑な「人から悪口を言われているのではないかと思うことがありますか」も同様です。この問いに対する答がイエスであっても、それは単に自意識過剰だったり、それなりの理由があったりする場合から、統合失調症の症状としての被害妄想や、さらには幻聴だったりする場合まで大きな幅があります。ですから答がイエスであったときは、さらに詳しくその理由や状況を尋ねる必要があります。それなしでは精神科の診断とは言えません。

そしてこの【3360】においては、

「思考が漏れている感じはあります」

という答の背景に

実際、自分は対外的にわりかし「いい子」と思われるように努めて振る舞っているけれど、本当は頭の中では攻撃的なことばかり考えることも多く、実際ゲスな性格であることが実はバレているのではないか、私の考えは他人に知れ渡っているけれども皆知らないふりして私に合わせており、陰で私の黒い考えについてあれやこれや悪口を言っているのではないか、と常々考えてしまっております。学校やバイト先の人から実はすごく嫌われているのではないかと思います。
さらに、私は自身のプライベートなことについて人から尋ねられる際、「本当は知っているくせにわざわざ訊いてきてるんだろう」と思ってしまいます。例えば、私は一応地元では一番偏差値の高い大学に通っているのですが、そのことについて他人から「意外だね」というようなリアクションを受けることが多々あり、そのことを嫌だと感じています。そこで、 「大学どこなの」と訊かれた際に(本当は知っているくせにわざわざ訊いてくるなよ)と思ってしまいます。精神科の先生から大学名を訊かれた際にもそのようなことを思ってしまいました。

という状況があるわけですから、「思考が漏れている感じはあります」は単に猜疑心によるものであって、その猜疑心が生まれた理由もある程度まで理解できるものです。であれば、思考伝播とは言えません。
もちろんそれでも思考伝播ということはあり得ますし、もし思考伝播であって統合失調症の初期であった場合は慎重な経過観察または薬物療法の開始が必要ですから、「思考が漏れている感じはあります」という体験の内容をさらに詳しくお聴きする必要がありますが、少なくともこのメールの書かれた範囲では、思考伝播と判断することはできません。したがって、統合失調症と診断することはできないということになります。

発達障害についても、このメールの内容だけからですと、「発達障害の傾向あり」とまでは言えますが、「発達障害の可能性が高い」とは言えません。AQ(自閉症スペクトラム指数)が34点とのことですが、AQはスクリーニング検査にすぎず、AQの得点が高いからといって発達障害であるとは言えません。(スクリーニング検査とは、その病気の疑いがあるかどうかを見る第一段階の検査を意味します。その意味では「自分の考えていることが他人に漏れているというような、そういったことを感じることがあるか」という質問もスクリーニングと言えます。すなわち【3360】では、スクリーニングだけで統合失調症と診断され投薬が開始されているということです。これは到底精神科の診断とは言えず、治療としても不適切と言わざるを得ません)

(2017.1.5.)

05. 1月 2017 by Hayashi
カテゴリー: 発達障害, 精神科Q&A タグ: |