【3231】飛び降りは薬の副作用だったのでしょうか

Q: 50代女性です。もう20年くらい前のことになります。当時30代だった私は、全身のかゆみにて皮膚科を受診しました。頭皮までかゆい症状で眠れないぐらいでした。そしてかゆみ止めを処方してもらいました。(のちに妊娠初期であったのですが。4人目の妊娠でした。3人目まですべて胎盤ができる時期までかゆみと頭痛がありました。) ある日夕方かゆみで薬を飲み、夫が帰ってきてビールをいっしょに飲みながら夕食を準備していました。幸せな家庭でしたが、ちょうど8か月前にマイホームもでき何の不自由もなく3人の子供もかわいくて幸せな絶頂期に、ただ夫が仕事多忙で子育ての協力が得られないところは理解していながらもしいていえば、手伝ってほしい部分でした。ところがその日私は、今でもどうしてかわからないのですが、急に怒りはじめて、2階に走っていきベランダから飛び降りてしまったのです。どうしてか覚えておりません。そして重度の障害者になり、夫も去りました。 なぜ?と思いつつ、自責の念で苦しんできました。ここでタミフルのような作用があったのでは?と自責の念から救われたい思いと、不可解な自分の行動を解明できたらと思うようになりました。現実どうなるものでもありませんが、副作用ではないかと思うようになりました。自分に納得できればいいのですが・・・。アルコールも私は缶ビールであれば毎日3本のむほどで、弱くありませんでした。少しのアルコールと薬の作用で、異常行動があらわれることもありますか?薬は抗ヒスタミン薬とポララミンだったと思います。20年がたち、不可解な自分の行動と当時の状況が今冷静に分析でき、自責の念から解放されましたならどんなに、こころが安らぐことかと思い、先生のご経験やご意見を頂けましたなら幸いです。

林:
なぜ?と思いつつ、自責の念で苦しんできました。ここでタミフルのような作用があったのでは?と自責の念から救われたい思いと、不可解な自分の行動を解明できたらと思うようになりました。

ご質問の理由は上記であると理解しております。すると質問者は「副作用である」という答を期待しておられ、また、その答により質問者が相当な安堵感を得られることは間違いないでしょう。逆の答になれば逆の事態が発生するでしょう。

しかし精神科Q&Aは質問者を救おうという目的のものではなく、単に事実を答えるものですので、上記の事情は考慮せず事実のみをお答えします:

この【3231】の質問者の20年前の飛び降りが薬の副作用であった可能性はほぼゼロです。

少しのアルコールと薬の作用で、異常行動があらわれることもありますか?

あるか、ないかという二者択一の質問に対する答は常に「ある」ですので、この質問にはほとんど意味がありません。このような場合、真の問題は確率です。

薬は抗ヒスタミン薬とポララミンだったと思います。

それを原因として、たとえアルコールと併用したとしても、飛び降りのような異常行動が顕れる確率はほぼゼロです。

そもそもこの飛び降りをめぐる状況が、

その日私は、今でもどうしてかわからないのですが、急に怒りはじめて、2階に走っていきベランダから飛び降りてしまったのです。どうしてか覚えておりません。

これでは何もわかりません。
飛び降りのときの状況を、これしか覚えていないとすれば、それは解離によるとも考えられますし、また、飛び降りた結果による脳障害(脳震盪を含みます)による逆向性健忘とも考えられます。飛び降りによる具体的な受傷状況、それから「重度の障害者になり」とのことですが、その障害の性質と程度についての情報がなければ、何とも言えません。

また、飛び降りる前の状況を覚えていない場合、その本人であればどういう状況であったかを当時のご家族に聞いて確かめるのが当然の行動であり、なぜそれをしていないのかが不可解です。「重度の障害者になり」とのことですが、このメールのようなしっかりした文章を書くことができるわけですから、確かめるだけの能力が失われているとは到底思えません。確かめたくないという何らかの理由があるというのが最も考えられる事態です。そして、その理由を認めたくないという気持ちが、原因を薬に求めさせていると推定するのが最も合理的です。

以上がこのメール記述の内容から推定されます。いずれにせよ、この飛び降りが薬の副作用であったという可能性はほぼゼロです。

(2016.6.5.)

05. 6月 2016 by Hayashi
カテゴリー: サイトの方針, 精神科Q&A, 自殺, 薬の副作用