【2874】うつ病になり、別人のようになってしまった同僚

Q: 私は50代初め、管理職として働いている女性です。同じ職場で、私と同じ立場の管理職として働いている、2年前うつと診断された男性の同僚についてご相談いたします。
彼とは20代の頃にも同じ営業所で働いた事があり、真面目で物静かながらも芯があり、皆から一目置かれる存在でした。趣味のスポーツやボランティアにも精を出し、誰からも好感を持たれる方でした。
再び一緒に、しかも同じ立場として働く事となり私も喜んでいたのですが、数年ぶりに彼と接し、あまりの以前との違いに愕然としました。

まず、部下からの質問に答えられない。応用を必要とする事柄や、自分が経験したことのない事柄を相談されると顔面蒼白となり、横から助け舟を出さなければ2分でも3分でも黙ったままです。また、少し複雑な事情を、部下を含め人に説明しなければならない時には、私や上司に何度もどう話したら良いか確認をし、台詞を覚えるかのように繰り返し練習をした上で、やっとの決意で話をしに行きます。しかし細かいニュアンスが伝わらず結局トラブルになる事が多いのです。以前の彼であれば和やかに丁寧に話を進め、解決させる事は得意とするところでした。今は、まさに脳の一部が眠ってしまっているかのようです。電話対応も、何度も何度も相手の話を復唱しメモを取っており、相手に不快な印象を持たれていることと思います。
また常に人に怯え、低姿勢というより卑屈で、誰かに何か批難されないようにという事のみを考えビクビク怯えて毎日過ごしているかのようです。身体も強張っており、顔色も悪く、常に下を向いて歩いています。部下から怒号される事もしばしばで、フォローのしようもなく、困り果てる場面もあります。
しかし、毎朝必ず同じ電車に乗り、一番に職場に来て鍵を開け、あまり人と話をする必要の無い毎日のルーチンワークには生真面目に取り組んでおられます。欠勤もありません。(逆に、毎日同じ事を繰り返す事で安心感を得ている様に感じられます。)人を責めたり嫌味を言う事も無く、以前の様な活発な(というより当たり前の)コミュニケーションは取れないのですが、決して悪い人ではありません。助かる面も無いではないのですが、先を見通して計画的に行動したり、リーダーシップを取って部下を鼓舞したりという事はまるで出来ず、思いもつかないようです。投薬のせいか、会議でうたた寝している事も多く、部下からは不信感を持たれています。

私自身、彼の古くからの友人でもあり、当初は何とか助けになりたいと考えて来ましたが、前述の通り自分自身の時間も取られ、冷や冷やする事やうんざりする事が重なり、私自身が滅入ってしまっています。我々の仕事は1日14時間近くの激務でもあり、正直最近は、しっかりして欲しいとイライラしてしまう事もしばしばで、自分自身が自己嫌悪に陥ります。

長々と書きましたが、お聞きしたいのは次の事です。
1.彼の病状からして、今の業務内容は明らかに不適格であると考えます。職場にも確実にマイナスとなっています。しかし、彼自身は今、出来る事に精一杯、命を削って取り組んでおられると思います。現状、「自分の出来る範囲の事を」仕事として取り組んでいるので、それは彼にとっては彼自身の「リハビリ」となり、良い事なのでしょうか。それとも彼の病状からすると明らかにオーバーフローであり、休養すべき、あるいは降格すべきなのでしょうか。

2.彼自身はプライドや家族の事もあり、現状を何とか続けていけたらと考えていると思います。(彼にとっては、昔からの知り合いである私や辛抱強く穏やかな上司と共に仕事をしている環境は、恵まれたものでしょう。)このままの体制が強くとして、私はどの様に彼と接するべきでしょう。仕事の上では、同僚としてもっと厳しい言葉を言うべきと感じる場面はしばしばです。職場はリハビリの場ではありません。私や上司は辛抱しなければならないとしても、部下は辛抱する必要はありません。しかし彼の病気を思うと私自身は辛抱しなければならないとグッと言葉を飲み込んでいます。

お答えをいただけましたら幸いです。

 
林: この方がうつ病であるととりあえず仮定し、また、今の職場にうつ病(をはじめとするメンタルヘルス不調者)の方の回復をサポートする体制がある、あるいは少なくともサポートする意思があると仮定して回答します。

数年ぶりに彼と接し、あまりの以前との違いに愕然としました。

元々のその人とは違ってしまった、という事実は、彼がうつ病であると推定する強い根拠になります。

まさに脳の一部が眠ってしまっているかのようです。

うつ病にしばしば見られる症状です。

先を見通して計画的に行動したり、リーダーシップを取って部下を鼓舞したりという事はまるで出来ず、思いもつかないようです。

これもうつ病にしばしば見られる症状です。これらの症状を持つうつ病の人は、自分はうつ病などではなく認知症になってしまったのではないかなどの不安を持つこともよくあります。

投薬のせいか、会議でうたた寝している事も多く、部下からは不信感を持たれています。

眠気もうつ病にしばしば見られる症状です。そして眠気はしばしば「薬のせい」と解釈されますが、そうとは限りません。むしろうつ病の症状として見られるケースのほうが多いくらいです。

1.彼の病状からして、今の業務内容は明らかに不適格であると考えます。

おっしゃる通りだと思います。

職場にも確実にマイナスとなっています。

おっしゃる通りだと思います。

しかし、彼自身は今、出来る事に精一杯、命を削って取り組んでおられると思います。

いまのレベルの症状ですと、その努力はうつ病を悪化させる方向に作用するばかりです。残念ながらうつ病は、ある程度以上の重さの症状がある段階では、本人が努力して改善できる病気ではありません。

現状、「自分の出来る範囲の事を」仕事として取り組んでいるので、それは彼にとっては彼自身の「リハビリ」となり、良い事なのでしょうか。

良い事ではありません。

それとも彼の病状からすると明らかにオーバーフローであり、休養すべき、あるいは降格すべきなのでしょうか。

休養すべきです。
または、職場での本来の役割をゴールとして、今の段階ではどこまでをサブゴールとするのが適切かを判定し(その判定のためには、主治医・産業医・上司・人事担当者など、関係者の協力が必須です)、一定期間ごとに達成度を評価し、順調であれば次のステップに進み、順調でなく、かつそのレベルでは職場として容認できないのであれば、休養に入るべきです。

2.彼自身はプライドや家族の事もあり、現状を何とか続けていけたらと考えていると思います。(彼にとっては、昔からの知り合いである私や辛抱強く穏やかな上司と共に仕事をしている環境は、恵まれたものでしょう。)このままの体制が強くとして、私はどの様に彼と接するべきでしょう。仕事の上では、同僚としてもっと厳しい言葉を言うべきと感じる場面はしばしばです。職場はリハビリの場ではありません。私や上司は辛抱しなければならないとしても、部下は辛抱する必要はありません。しかし彼の病気を思うと私自身は辛抱しなければならないとグッと言葉を飲み込んでいます。

すべておっしゃる通りだと思います。
但し、「職場はリハビリの場ではありません」については、その通りではあっても、うつ病(をはじめとするメンタルヘルス不調)の方の病状回復・職場復帰にあたっては、上記の通り、一定期間はリハビリ的な処遇が必要であることは否定できません。
本回答の冒頭に、

今の職場にうつ病(をはじめとするメンタルヘルス不調者)の方の回復をサポートする体制がある、あるいは少なくともサポートする意思があると仮定して回答します。

とお書きした主な理由はそれです。

(うつ病の方の職場復帰にあたって、周囲の人は「職場はリハビリ施設かよ」と言いたくなるのが本音であること、及び、それを本音と認めたうえでではどうすべきかについて、 「うつ」は病気か甘えか。に論じられています。同書第7章 ストップ・ザ・ドクターストップに、 「職場はリハビリ施設かよ」というまさにその言葉が出ています)

もう一つ、本回答の冒頭に、

この方がうつ病であるととりあえず仮定し、

とお書きしたのは、このメールの記載からは、この方がうつ病であることに矛盾はありませんが、他の病気である可能性も否定できないからです。

2年前うつと診断された

とのことですが、これだけの記載では、本当にこの方が医師からうつ病と診断されたかどうかはわかりません。また、しばしば人は、自分の本当の病名を職場には伝えないものです。
けれども、たとえこの方がうつ病でなく他の精神疾患であったとしても、この方への職場での対応についての回答は変わりません。

(2015.1.5.)

05. 1月 2015 by Hayashi
カテゴリー: うつ病, 精神科Q&A