【2740】治療を続けるべきか、そして福祉を受けるべきか

Q: 20代男性です。4年前に双極性障害の診断を受け、その後寛解と再発、その度に休職と復職を繰り返しながら勤務を続けていましたが、数カ月前に3度目の再発を起こし、これを機に会社を退職しました。その時に会社を無断欠勤しましたが、それ以外に問題行動を起こしたことはほぼありません。また、再発時には必ず自殺未遂を起こしていますが、家族と主治医以外には知られていません。
退職後は自宅で療養しておりますが、仕事を辞めて緊張感がなくなったせいか無気力な状態が続き、最近の数ヶ月は寝て起きるだけの生活を送っています。
 
過去には、以下の症状が出ました。
・躁状態時
浪費、過食嘔吐、アルコールの過剰摂取、深夜徘徊、オーバードーズ。思考散逸、注意散漫、誇大妄想、攻撃性、失踪、不眠、自殺企図
・うつ状態時
過眠、無気力、著しく集中力を欠く、動悸等の身体症状
 
現在は、公的福祉(障害者手帳と障害年金)の利用を検討しています。勿論、再就職についても考えましたが、今後どこかに再就職した後も双極性障害とはつきあっていかねばならず、また再発時には自殺のリスクがつきまとうと思うととても怖ろしく、今すぐに働く気になりません。しかし、生きていく上でお金は必要ですし、我が家はそれほど裕福ではありませんので、とりあえず福祉を受けて生活を立て直し、その間に投薬やその他の治療も受けつつ、「働くのが怖い」という自分の意識を改善し、病状を見ながら自分に合った形で就職先を探すつもりでした。
 
それを主治医に相談したところ、「貴方はまだ働けるから、福祉を受けるのは適切ではない」「もっと困っている人もいる」「投薬治療で十分」「仕事を辞める必要はなかった」といった内容のことを言われました。私自身としては、罹患後4年間は十分頑張って働いて、その上で「今すぐに働くのは無理である」という結論に至ったつもりでしたが、主治医から見ると「病気を盾にして甘えている」というふうに見えたようです。
相談日の1ヶ月ほど前に自殺を図ってしまったので、希死念慮についても相談しましたが、具体的なアドバイスや生活指導は受けられず、5分弱で診察が終わりました。普段から所謂3分診療で、たまに不調を訴えても碌に話を聞いてもらえず、ずっと不満があったところに今回この態度で、なんだか治療を拒否されたような気分になって、主治医と話すのが嫌になり、それ以来病院には行っていません。
#念のため断っておきますが、日頃から自殺を仄めかすようなことはまったくしていませんし、調子がいい時には特に無駄な会話はせず、薬の処方だけ受けていました。通院は月に1回程度です。
 
たしかに、安易に福祉を受けることは地公体の財政を圧迫することになりますし、もっと重篤な症状で苦しんでいる人もいるでしょうから、そういった人に先んじて私が福祉を受けることには抵抗もあります。また、病気を理由に長期間会社を休み、その間は傷病手当を受け取っていたことも事実で、その点は甘えと取られても仕方ありません。復職中は、どれだけ体調が悪くても遅刻・欠勤は一切せず、また勤務態度にもおそらく問題はありませんでしたから、周囲から見ると詐病のように映っていたのかもしれません。
 
自分自身でも、詐病を疑ったことは何度もあります。躁状態の時は、すっかり寛解したような錯覚に陥りますし、うつ状態の時は「多少の落ち込みは誰にでもある、辛いのは私だけではない、甘えるな」と自分を鼓舞してきました。多少症状が重くなっても、「もっと酷い症状の人でも、普通に働いている」と自分に言い聞かせて、努めて正常に見えるように振る舞ってきました。実際に、復職中は毎日定刻に会社へ行き、ほぼ毎日残業をして、病前と変わらないよう仕事をしていました。
その甲斐あってか、大部分の知人友人や同僚は「私が精神疾患である」ということを知りません。会社側としても、私の病歴については、管理職など最低限必要な社員にしか伝えていなかったようです。周囲が私のことを「健康な人間だ」だと思って期待している以上、私が自分から「私は精神疾患患者だ」と認めることはできませんでした。生活が破綻した今でも、「少し生活が荒れているだけで、病気ではないのではないか?」と思っています。
 
会社を退職した後は、もう健康らしく振る舞う必要がないので、その点だけはとても楽です。しかし一方で、働くのは心身的に困難、福祉も受けられないとなると生きる術が見つからず、かつ双極性障害は完治しないことが分かっているので、これから先も治療を続けようというモチベーションが著しく下がっています。主治医からは「障害など持たず、普通に生きるのが一番」と言われましたが、どうすれば普通に生きていけるのかがさっぱり分かりません。
 
主治医の真意は図りかねますし、主治医と私の認識の間に相違はありますが、現在私自身が心身的・経済的に困窮しているのは事実です。
「福祉を受けるべきか否か」については勿論ですが、「精神疾患患者として治療を続ける必要があるのか」についても悩んでいます。そこで、以下の点についてご意見をお聞かせ頂ければと思います。
 
1.精神科医の立場から、患者が公的福祉を受けることについてどのように考えられますか?
2.目安として、どういった状態・状況の患者が福祉を受けるべきなのでしょうか?
3.患者から福祉を受けたい旨の申出があった場合、医師としてはどのように対処すべきとお考えでしょうか?
4.どういった状態をもって「双極性障害である」と判断すればよいのでしょうか?
(DSMに示された診断基準ではなく、具体的な臨床例を挙げて頂けると嬉しいです)
5.周囲の人から疾患について正しく理解してもらい、受け容れてもらうためには、どう振る舞えばよかったのでしょうか?
6.私は詐病でしょうか?
7.医師と患者は、どういった関係を築くのが望ましいのでしょうか?
8.今後治療を続ける場合、どういった態度で治療に臨むべきでしょうか?
9.私は福祉を受けるべきではないのでしょうか?
10.精神疾患を負った患者が「普通に生きる」ということはどういうことなのでしょうか? 症状を薬で抑えて、再発に怯えながら生きることが「普通」なのでしょうか?
 
長文失礼いたしました。ご回答くださいますようよろしくお願いいたします。

 
林: お悩みの様子はお察しいたしますが、質問の大部分はあまりに漠然としていて、ほとんど回答は不可能です。いくつかは明確に回答できるものもありますが、福祉についての件などは、結局は「主治医とよくご相談ください」という答えにつきます。

1.精神科医の立場から、患者が公的福祉を受けることについてどのように考えられますか?

あまりに漠然とした質問で、お答えしようがありません。

2.目安として、どういった状態・状況の患者が福祉を受けるべきなのでしょうか?

目安というものはありません。主治医によくご相談ください。

3.患者から福祉を受けたい旨の申出があった場合、医師としてはどのように対処すべきとお考えでしょうか?

その患者さんの病状によります。一定以上に重症であれば、受けられる方向に協力するのが当然でしょう。一定以上に軽症であれば、受けないことをお勧めすることになるでしょう。問題はどちらとも言い難い病状の場合です。この時、一定以上に重症な場合と同様、「受けられる方向に協力する」という考え方もあります。それは医の倫理にかなっていように見えないこともありませんが、診断書の書き方によっては、「本来受けるべきでない福祉を、受けられる方向に促す診断書を書く」ということにもなりかねず、するとこの【2740】の質問者も指摘しておられるように、より重症で援助が必要な人からその機会を奪うことになりかねません。

4.どういった状態をもって「双極性障害である」と判断すればよいのでしょうか?
(DSMに示された診断基準ではなく、具体的な臨床例を挙げて頂けると嬉しいです)

躁うつ病に紹介した書籍や躁うつ病についてのQ&Aをご参照ください。
なお、この【2740】のような記載、すなわち、

浪費、過食嘔吐、アルコールの過剰摂取、深夜徘徊、オーバードーズ。思考散逸、注意散漫、誇大妄想、攻撃性、失踪、不眠、自殺企図
過眠、無気力、著しく集中力を欠く、動悸等の身体症状

というような書き方ですと、その人が躁うつ病(双極性障害)かどうかは判断できません。具体的な症状の記載が必要です。(なぜなら、たとえば「思考散逸」「誇大妄想」と書かれていても、それが本当に医学的に「思考散逸」「誇大妄想」にあたるかどうかは不明だからです)

5.周囲の人から疾患について正しく理解してもらい、受け容れてもらうためには、どう振る舞えばよかったのでしょうか?

あまりに漠然とした質問で、お答えしようがありません。

6.私は詐病でしょうか?

詐病ではないと思います。

7.医師と患者は、どういった関係を築くのが望ましいのでしょうか?

あまりに漠然とした質問で、お答えしようがありません。

8.今後治療を続ける場合、どういった態度で治療に臨むべきでしょうか?

あまりに漠然とした質問で、お答えしようがありません。
(「今後治療を続ける場合」とありますが、治療はもちろん続けるべきです)

9.私は福祉を受けるべきではないのでしょうか?

主治医とご相談ください。
(なお、ここまで「福祉」という用語を使ってきましたが、福祉の内容には様々な段階があります。この【2740】の質問文には 福祉(障害者手帳と障害年金) と書かれていますが、障害者手帳と障害年金では重みも受けられる金額も全く異なります。一般論としては、双極性障害等で治療中の方であれば、障害者手帳については、本人の希望があれば、交付を受けないことをお勧めする理由はありません。しかし障害年金については、病状によってかなり異なります。したがって 福祉(障害者手帳と障害年金) とひとまとめにした形での質問に答えるのは、たとえメールでなくても困難です)

10.精神疾患を負った患者が「普通に生きる」ということはどういうことなのでしょうか? 症状を薬で抑えて、再発に怯えながら生きることが「普通」なのでしょうか?

人それぞれでしょう。

(2014.7.5.)

05. 7月 2014 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 躁うつ病