【2737】「生活保護で金銭を受け取れば自力で生活できる人は、守られるべき弱者ではない」のでしょうか

Q: 20代後半の女性です。
友人の発言に対して、ご意見をうかがえたら幸いです。
 
友人は、「生活保護で金銭を受け取れば自力で生活できる人は、守られるべき弱者ではない」
「買物や食事が自力でできるのであれば、仕事もできるはず」
だと言います。
ここだけ抜粋しましたが、前後では共感できる発言もしています。
 
私は現在、かなり病状が回復し、アルバイトを探しているところです。
しかし、たかだか…というと語弊があるかもしれませんが、バイト程度でももう、
何社も断られています。想像以上に厳しい現実です。
友人は「仕事は選ばなければいくらでもある」、と言いますが、
内容はどうあれ、治療に支障がでてはいけないので、最低限の条件は譲れません。
深夜は不可、週に3日以内、通える範囲。危険な業務はできない。
すべて、治療のためです。もう2度と悪化しないように。
 
私は、生活保護は受けておりません。親の扶養に入っています。
その恩は、20年ローンで返して行こうと思っています。
治療は長引いて、6年経っています。途中少し改善して、ある事件をきっかけにまた
悪化するなどありました。
それでも、やっと働くことへのGOサインが出たのです。
ここで失敗して、さらに長引くことは避けたいです。
 
友人は、買物ができるなら仕事もできると言いますが、
うつ病の人はそれができない場合が多々あると思っています。
むしろ、それを自覚せずに無理矢理行って、病気をこじらせている気がします。
最初に休職に入った時は、夜10時に寝て昼過ぎまで起きられず、夕方まで殆んど動
けなかった、と記憶しています。
夕方以降に多少動けるようになり、その時間にご飯を炊いて、お茶漬けにして食べ
てました。当時は一人暮らしです。
そんな生活なので、体重は落ちてガリガリに痩せてました。
2度目の悪化の時は…ほとんど記憶がありません。
家族の介助がなければ入浴もできず、ひどい時にはトイレにたどり着けなかった、と
聞いています。
入院して手足を拘束されたこともあり、その記憶だけは鮮明に覚えています。怖かった。
 
友人は、それなら入院してプロの介助を受けるべき、と言います。
家族(素人)の介助よりもずっといい、と。
 
一理ありますが…何かが違うような。違和感を感じます。
 
ぜひ、先生のご見解をお聞かせいただけないでしょうか。
よろしくお願いいたします。

 
林:
「生活保護で金銭を受け取れば自力で生活できる人は、守られるべき弱者ではない」

それは極端な考え方というべきでしょう。

「買物や食事が自力でできるのであれば、仕事もできるはず」

それは全くの間違いです。

友人は、買物ができるなら仕事もできると言いますが、
うつ病の人はそれができない場合が多々あると思っています。

その通りです。それが うつ病というものです。
但し擬態うつ病となると話は別になります。
現代の日本には擬態うつ病があまりに増えてしまっていますので、本物のうつ病を見たことがなく、擬態うつ病だけを見て「うつ病とはこういうものだ」と誤解している人が膨大に存在し、その結果このような誤解(買物ができるなら仕事もできる)が生まれています。うつ病を甘えとみなすのも、同じ平面上にある誤解です。

以上が回答ですが、念のため2点補足します。

第1点は、この【2737】のケースがうつ病かどうかはわからないということです。一時は確かに重症になり、現在も十分に回復していないということはわかります。けれども具体的な症状の記載に乏しいので、うつ病かどうかはわかりません。

第2点は、上記回答中、「極端な考え方」と「全くの間違い」は、同じことを言っているのではないということです。「全くの間違い」は、文字通り「全くの間違い」です。「極端な考え方」は、「全くの間違い」とは言えません。但し現代の日本社会においては、

「生活保護で金銭を受け取れば自力で生活できる人は、守られるべき弱者ではない」

は、極端な考え方であり、かつ、全くの間違いであると言えるでしょう。けれども「守られるべき弱者」とは、どの範囲の人々を指すかは、時代や文化によって違います。また、生活保護という社会制度との関係をいうのであれば、その国の経済状況によっても違うでしょう。さらに言えば、生活保護であれその他の福祉制度であれ、本来は受ける必要がないのに、金銭がもらえて得だからといって受ける人があまりに多くなれば、弱者の範囲も変化していくことになるでしょう。たとえば【2738】元気で狡猾な精神科入院患者たち のような状況を目の当たりにすれば、この【2737】の友人のような発言が出てくるのも理解できないことではありません。
というわけで、冒頭の回答をもう一度ここに記載しておくこととします。

「生活保護で金銭を受け取れば自力で生活できる人は、守られるべき弱者ではない」

それは極端な考え方というべきでしょう。

「買物や食事が自力でできるのであれば、仕事もできるはず」

それは全くの間違いです。

(2014.7.5.)

05. 7月 2014 by Hayashi
カテゴリー: うつ病, 精神科Q&A