【4637】統合失調症の妹が再発してしまいました (【3830】のその後)

Q: 4年ほど前に【3830】激しい症状が落ち着いてからの統合失調症の妹への接し方について という内容で回答頂きました30代女性です。

その節は統合失調症患者の家族の苦悩に対して理路整然とした回答をして頂き本当にありがとうございました。
妹には主治医がおりますが、主治医とは別に妹の事をこうして相談できる場があるというのは疾患者だけでなく、家族にとってもとても有り難く、回答頂けたことで救われた気持ちになりました。無料でこのような場を設けて下さっている事、本当に感謝致します。

その後の妹の経過を報告しようと思っていましたが、妹はその後良好に回復しているように見えて、私たち家族も穏やかに過ごせる時間が増えてきていたので経過の報告が先延ばしになってしまい申し訳ありませんでした。

今回、また質問を送らせて頂くことになったのは良好に回復しているように見えた妹でしたが統合失調症を再発をしてしまいその事に関してまた林先生に回答頂きたくメールを送らせて頂きました。

以前の質問後の妹ですがジプレキサを一日10mg処方され、約一年間ほど投薬を続けていましたが体重増加や眠気や生理不順、アカシジアの副作用に悩まされました。アカシジアは具体的には口をピチャピチャさせたり、足を常に貧乏揺すりの様に動かしたり、体を小刻みに揺れ動かしたりといった行動を取るようになりました。

本人が以上の副作用に悩み主治医に相談したところ「ジプレキサは統合失調症に対して有効な治療薬だから継続した方がいい。ただ症状は落ち着いてきているようだから用量を減らして様子をみよう」と言われたとの事で、その後また用量を減らしたジプレキサで約2年程、投薬は継続していました。(用量がいくつまで減ったかは私は把握しておらず、不明です)

その間でアカシジアや眠気などの副作用は軽減してきたようですが生理不順に関しては治らず婦人科でホルモン剤を処方してもらい対応していましたが一向に良くならず、婦人科の先生にもジプレキサは生理不順の副作用を起こしやすいから薬を変更するなりやめるなりした方が良いと言われ、もう一度主治医に相談したところ、以前よりも症状も良くなっているようだからとの事でジプレキサはやめてレキサルティへと変更し、現在まで約一年程投薬を続けてきました。

レキサルティに変えてから生理不順は解消し、それ以外の副作用もほとんど無くなり行動的になり以前から好きだった歌手のライブにも頻繁に行くようになりました。
家事や育児、趣味などにも打ち込み出しこれまで専業主婦でしたが働きたいと言い出し、障害を抱えた方が働く作業所へ就労することも決まりました。

ここ一年間であまりにも意欲的になってきたので私達家族も少し違和感は感じていましたが、まるで発病する前の妹に戻ったように感じられて妹は完全寛解したんだという嬉しさの方が大きく見過ごしてしまいました。

その結果2週間前に妹の再発が発覚しました。

発覚したのは妹の夫からの連絡で、以前発病した時と同じように
・黒色に対して恐怖心が湧いてしまい、家中の黒い物を排除しようとしたり、隠したりしてしまう。
・自身の髪の色が黒い事から短く切ってしまった。
・銀色の物は黒から身を守ってくれるからシルバーのアクセサリーを全身に身に付ける。

といった行動、発言を行ったため妹の夫が再発に気づきかかりつけの病院へ即刻連れて行きました。

そして今後は今まで飲んでいたレキサルティに追加でジプレキサも再度処方される事になりました。とりあえずジプレキサを追加して1カ月様子を見ようとのことです。
今回の再発時は以前のように激しい妄想の症状は無く、他人に強要するような行動も無く、興奮した様子もなく落ち着いていて、私にも自分から「また病気が再発しちゃった」と報告してくれました。
病院に行く際また再入院になってしまう事を少し恐れたようですが、大人しく同行したようです。
幻覚、幻聴の症状は無く、妄想も黒色に関する恐怖心だけのようでそれ以外では私から見ても今までと変わりない様子の妹なので早い段階で再発に気づけ、対応できたのかなと少し安心しています。

林先生から見てこのままジプレキサを追加して治療を続ければ以前のような激しい症状にまでは至らずに済み、また落ち着いていってくれると判断できるでしょうか?

また再発してしまった原因ですが、薬の管理は完全に妹本人に任せていた為、飲み忘れてしまうことがちょくちょくあったようです。
どの程度の頻度で飲み忘れていたのかは不明ですが、妹の夫も薬を飲む姿は見かけており、両親も薬を貰いに一緒に病院へ同行する事もあったので完全に断薬してしまった訳では無いようです。

完全に断薬した訳では無く、飲み忘れ程度であってもやはり再発はしてしまうものなのでしょうか?

レキサルティだけにしてからどんどん妹は意欲的、行動的になっていったので、実際には妹にはレキサルティは合っておらずそれが原因で再発してしまったのかなとも思ってしまいます。
また作業所への就労も決まったりと環境の変化もあるのでそれも原因の一つかなと考えています。

再発すると以前よりも症状は悪化し、治療にかかる時間も長くかかると様々な文献で読みました。 再発してしまった以上、今まで以上に注意深く観察してサポートしていかないといけないと家族全員で再認識しました。
ただ正直このまま再発をまたしょっちゅう繰り返すことになってしまうのでは無いのかなという不安もとてもあります。
薬を欠かさず飲み続けていればいつかまた完全寛解できるのでしょうか?

長文になってしまい申し訳ありません。林先生の見解を回答頂きたくお願い申し上げます。宜しくお願い致します。

 

林: 経過のご報告をいただきありがとうございました。これは明らかな再発で、ご家族は驚かれ失望されたと思いますが、幸い大事には至らず持ち直されたようですので、今回のご経験を生かし、今後の再発防止に努めていただくことが何よりご本人のためになると思います。

レキサルティに変えてから生理不順は解消し、それ以外の副作用もほとんど無くなり行動的になり以前から好きだった歌手のライブにも頻繁に行くようになりました。

この時点では、薬の変更は成功したように見えたことと思われますし、少なくともここに書かれた文章からは成功したと見るのが妥当です。すなわち「生理不順は解消」「それ以外の副作用もほとんど無くなり」「行動的になり」の、どれをとっても好転したという評価以外ありえないでしょう。但し「以前から好きだった歌手のライブにも頻繁に行くようになりました」はやや気になるところで、ここは「頻繁に」がどの程度かということが問題です。その程度によっては、再発の兆しとみることが、この時点で可能だったと言えるかもしれません。

家事や育児、趣味などにも打ち込み出しこれまで専業主婦でしたが働きたいと言い出し、障害を抱えた方が働く作業所へ就労することも決まりました。

これもまた薬の変更の成功とみたくなる経過です。
けれども、

ここ一年間であまりにも意欲的になってきたので私達家族も少し違和感は感じていましたが、

ご家族のこの違和感は、メールの文章では表現しきれない変化がご本人にあり、それをご家族が感じとっておられたということだと思います。

まるで発病する前の妹に戻ったように感じられて妹は完全寛解したんだという嬉しさの方が大きく見過ごしてしまいました。

結果的には再発兆候を見過ごしたということになりますが、それは結果的に見ればそうだということであって、リアルタイムにそのときに、この時のご本人の状態が、好転の兆しか、それとも再発の兆しか を見抜くことは非常に難しかったと思われます。(もちろんそれはリアルタイムでは難しかったということであって、現時点ではそのときを振り返り、次の機会に生かすことが望ましいでしょう)

その結果2週間前に妹の再発が発覚しました。
発覚したのは妹の夫からの連絡で、以前発病した時と同じように
・黒色に対して恐怖心が湧いてしまい、家中の黒い物を排除しようとしたり、隠したりしてしまう。
・自身の髪の色が黒い事から短く切ってしまった。
・銀色の物は黒から身を守ってくれるからシルバーのアクセサリーを全身に身に付ける。

明白な再発です。このように、「以前発病した時と同じよう」な症状が出るのは非常によくあることで、これを履歴現象と呼ぶこともあります。

妹の夫が再発に気づきかかりつけの病院へ即刻連れて行きました。

最善の対応だったと思います。このような場合は一日も早く適切な治療を受けることが必要で、予約日まで様子を見るといった対応を取ると、悪い結果、時には最悪の結果になることも稀ではありません。

そして今後は今まで飲んでいたレキサルティに追加でジプレキサも再度処方される事になりました。とりあえずジプレキサを追加して1カ月様子を見ようとのことです。

ぜひ慎重に様子を見てください。
(なお、治療の適切性については判断できません。薬の量についての記載がないからです。再発前のジプレキサからレキサルティへの変更についても同様で、変更後のレキサルティの量の記載がないので適切な変更であったか否かは判断できません)

林先生から見てこのままジプレキサを追加して治療を続ければ以前のような激しい症状にまでは至らずに済み、また落ち着いていってくれると判断できるでしょうか?

わかりません。期待は十分できると思います。その期待の「程度」については、薬の量の記載がないのでわかりません。(薬の量の記載があったとしても、だからといってわかるというわけではありません。しかし、もし薬の量が不適切であれば、期待できない可能性が高いということは言えます。適切だった場合、言えるのは「期待は十分できる」までです)

また再発してしまった原因ですが、薬の管理は完全に妹本人に任せていた為、飲み忘れてしまうことがちょくちょくあったようです。

それがおそらく再発の最大の原因です。(ここでも、レキサルティの量が不明ですので、はっきりしたことは言えません。きちんと飲んでいても、薬が少な過ぎれば高率に再発します)
統合失調症の治療は薬だけが重要ではありませんが、再発の原因は断薬や薬が少なすぎること(飲み忘れを含みます)が圧倒的に多いというのが現実です。

どの程度の頻度で飲み忘れていたのかは不明ですが、妹の夫も薬を飲む姿は見かけており、両親も薬を貰いに一緒に病院へ同行する事もあったので完全に断薬してしまった訳では無いようです。

完全に断薬した訳では無く、飲み忘れ程度であってもやはり再発はしてしまうものなのでしょうか?

もちろんです。(ただしここでも「飲み忘れ程度」の「程度」がどのくらいであるかが問題です。数ヶ月に1回程度であればまず再発の原因にはなりません)

レキサルティだけにしてからどんどん妹は意欲的、行動的になっていったので、実際には妹にはレキサルティは合っておらずそれが原因で再発してしまったのかなとも思ってしまいます。

それはわかりません。「どんどん妹は意欲的、行動的になっていった」のは、好転の兆しとみる余地もあるからです。

また作業所への就労も決まったりと環境の変化もあるのでそれも原因の一つかなと考えています。

それもわかりませんが、原因の一つではあるかもしれません。

再発すると以前よりも症状は悪化し、治療にかかる時間も長くかかると様々な文献で読みました。 再発してしまった以上、今まで以上に注意深く観察してサポートしていかないといけないと家族全員で再認識しました。

是非そのご認識を維持してください。この「維持」は「一生」です。再発直後はご家族は治療の継続の重要性を強く認識されるのですが、その認識は徐々に薄れていくというのが残念ながらよくあることです。

ただ正直このまま再発をまたしょっちゅう繰り返すことになってしまうのでは無いのかなという不安もとてもあります。

今回の再発の原因を究明し、その原因となったことを繰り返さないようにすれば、再発は最小限に抑えることができます。

薬を欠かさず飲み続けていればいつかまた完全寛解できるのでしょうか?

わかりません。しかし十分に期待できます。

(2023.3.5.)

その後の経過 (2023.4.5.)

05. 3月 2023 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症, 薬の副作用 タグ: |