【4620】周産期うつについて

Q: 20代女性です。
現在妊娠しており、妊娠3ヶ月です。
妊娠がわかってから思うように体が動かず仕事について思い悩むことが多く、また仕事でも明らかにミスが増えました。

そのため、「自分は無能である」「自分は解雇したいと思われている」「先輩が上司とミーティングをしているのは、自分のミスを報告して解雇させるためかもしれない」などの被害妄想、自責が強く自分の中で出てきているのを感じます。

6年前に大学院進学を諦めて就職活動をした際、また2年前、前職を退職する前後にも同様に「自分は無能だ」「自分は人に迷惑をかける存在である」という思いが強くなり、どちらの時期も心療内科に通っておりました。6年前はロラゼパムを処方され、半年ほど服薬していました。2年前には上記に加えて「周りの人を見たくないのに見てしまう」「自分を責める気持ちが強くなりすぎ、パニック発作のようになることがある」といった症状があったためかレキサルティを処方されました。2年前は1年ほど通院していました。どちらの時期も診断名は告げられず、「抑うつ傾向がある」と言われました。どちらも症状が落ち着き、主治医に必要ないと言われてから通院を辞めました。

おそらく、自分は今後もこのような著しく病的とは言えない「抑うつ傾向」を周期的に繰り返すのではないかと思っています。

相談したいのは、周産期うつについてです。
周産期にはホルモンの変動で、抑うつ状態が発現しやすいと聞きました。実際に体の変調も大きく、思うように動けないことの焦りもあると思います。
もし、周産期が本当にうつ病のリスク要因となるようだったら、自分の過去の病歴と現在の状態から、より深刻な状態に移行する可能性があるかもしれないと思います。妊娠前だったら念のため心療内科を受診しよう、と思えたのですが、現在、胎児がいる状態では服薬が難しいと思います。
今の私はリスクが高いと言えるでしょうか?
服薬が難しい場合でも、念のため通院を再開したほうがいいでしょうか?

 

林: 周産期(出産の前後の期間)にうつの症状が現れたとき、それは(1)周産期に特有の症状として現れた場合と、(2)周産期とは無関係で、たまたま周産期に現れた場合があります。(2)の場合は内因性うつ病ということになります。
多くの人は内因性うつ病の可能性はほとんど考えず、(1)の方の周産期に特有、すなわち、妊娠出産に伴う生活の変化や、ホルモンの変化が原因であると確信する傾向があります。それは正しい場合もありますが、正しくない場合もあるという認識が必要です。
もし周産期に初めてうつの症状が現れた場合には、(1)(2)のどちらであるかは「わからない」とするのが正しい判断です。したがって、両方の可能性があることを前提に、どうするかを考える必要があります。
けれどもこの【4620】では、6年前と2年前にうつのエピソードがありますので、(2)の内因性うつ病の可能性が非常に高いです。さらに

「自分は無能である」「自分は解雇したいと思われている」「先輩が上司とミーティングをしているのは、自分のミスを報告して解雇させるためかもしれない」などの被害妄想、自責が強く自分の中で出てきている

このような症状も見られることもあわせると、内因性うつ病であることはほぼ間違いないと言ってもいいでしょう。

おそらく、自分は今後もこのような著しく病的とは言えない「抑うつ傾向」を周期的に繰り返すのではないかと思っています。

その予測は半分は正しく半分は誤りです。
正しいのは 「今後も・・・「抑うつ傾向」を周期的に繰り返す」という部分です。
誤りは「・・・著しく病的とは言えない・・・」という部分です。
つまり、今後、うつのエピソードを繰り返すことは強く推定できますが、それがいつも「著しく病的とは言えない」とは限らないということです。
そして、今回のエピソードが「著しく病的」なものになる可能性も否定できません。もしそうなった場合、出産後の子育てに深刻な影響をおよぼす危険性があります。
その意味で、

周産期が本当にうつ病のリスク要因となるようだったら、自分の過去の病歴と現在の状態から、より深刻な状態に移行する可能性があるかもしれないと思います。

その慎重なお考えは正しいです。(周産期がリスク要因になる・ならないは無関係です)

妊娠前だったら念のため心療内科を受診しよう、と思えたのですが、現在、胎児がいる状態では服薬が難しいと思います。

それもその通りです。
けれども、

今の私はリスクが高いと言えるでしょうか?

そのように言えますので、

服薬が難しい場合でも、念のため通院を再開したほうがいいでしょうか?

通院再開を強くお勧めします。

以下もご参照ください。
【4128】妊娠による一時的な反応でしょうか
【3492】妊娠中からのうつが1年半続いています

(2023.1.5.)

05. 1月 2023 by Hayashi
カテゴリー: うつ病, 精神科Q&A タグ: , |