【4326】 私の解離性同一性障害の経過と考察です(【2830】のその後)

Q: 6年半ほど前、【2830】解離性同一性障害と診断されましたが、それは違うと思うのです(【 2710 】のその後)‏ で林先生に回答を頂いた20代女性です。これはその後の経過と、私がこの病気について考えたことをまとめたものです。

あの後、入院施設のある病院に移りました。
検査を理由に入院することになったのですが、記憶が飛んでいる間に暴れるためそのまま医療保護入院へと切り替わることになりました。
それから数年間、入退院を繰り返しました。酷く暴れるため拘束もされていたようですが、正直その数年のことはほとんど思い出せません。自殺企図や自傷行為を繰り返していたようで、周りに大変な迷惑をかけました。
この病院でも解離性障害という診断が下されました。定期的に主治医が変わるため、解離性障害だったり解離性同一性障害だったりと診断は変わるのですが、PTSDを起因とする解離性障害であることに変わりはないようです。

以前林先生に相談させて頂いた時私は「自分には「トラウマはない」と過去を必死に否定していました。しかし紆余曲折を経て、どうやらPTSDであることに間違いはないだろう、ということになりました(未だに自覚は薄いのですが)。持続エクスポージャー療法にチャレンジしてみたりもしたのですが、ストレスが強くかかり病状が悪化、入院になったり。今の主治医には「今はまだ過去と向き合うことはない」と言われていますが、どうしても早く治したい! と焦ってしまう日々です。
しかし、ここ最近は病状もだいぶ落ち着き、危ない行動をすることが減った結果、入院をすることは少なくなりました。このまま少しずつ安定していけたら、と思います。

落ち着いてきたとはいえ、未だに私の症状が本物なのか、虚言なのか、自分でも区別がつきません。思い込みであるようにも思います。
この病院では、交代人格の存在を重要視しません。話をしても、上手くかわされます。
生存バイアスかもしれませんが、少なくとも私にとっては、交代人格の存在を重要視しない治療の方向性によって症状が落ち着いてきたように思えてなりません。
私には元来、空想癖がありました。今でも、「あることをした」ところを想像していたのか、それとも想像だけでなく実行に移したのかの区別が付きません。夢と現実の境も曖昧です。今、自分がどこにいるのか分からなくなります。
交代人格というのも、その延長線上にあるものではないかと私は考えています。要は「持ち前の被暗示性の高さと、空想力とで、考えたことと現実との区別が付かなくなっている」状態だと思うのです。
私は記憶が分断されています。そのため、分断された不安定な部分がそれぞれにアイデンティティを求め、交代人格というものを生み出しているのではないか、という訳です。
そういうことを追求したところで、症状は良くならないのだと自覚はしています。「環境の安定とストレス発散の方法を学ぶこと、過去を過去として受け入れていくこと」、それだけできっと病状は良くなっていくのでしょう。けれど、「それだけ」のことが酷く難しい。そのため、どうしても考えてしまうアレコレを、こうして、「経過を伝える、考えを伝える」といった建前で先生に送ってしまっているのかもしれません。

読んでくださってありがとうございます。以上が、その後の経過と、解離性同一性障害についての考察になります。

 

林: その後の経過をご報告いただきありがとうございました。【2830】の時点では、解離性同一性障害という診断に強い抵抗を表明され、それが回復を大きく阻んでいることが読み取れましたが、その後その診断をお認めになり、そして回復傾向にあるとご報告いただき、嬉しく思っています。

少なくとも私にとっては、交代人格の存在を重要視しない治療の方向性によって症状が落ち着いてきたように思えてなりません。

その通りだと思います。「交代人格の存在を重要視しない治療」というのは、解離性同一性障害の一つの有力な治療方針の一つです。その一方で、交代人格との統合を目指すという、一見すると正反対の治療方針もまた有力で、それが奏功した過程が詳細に記された貴重な実例として【4284】があります。

どちらの方針が適切であるかはケースバイケースです。この【4326】では「交代人格の存在を重要視しない治療」が適切であったことが読み取れ、適切な治療を受けられたことは質問者にとって幸福なことであったと思います。今後のさらなる安定・回復を願っています。

(2021.6.5.)

05. 6月 2021 by Hayashi
カテゴリー: PTSD, 精神科Q&A, 解離性障害